第四章 9
「奇術だと?」
リロイは、男の主張を鼻で笑った。
「この程度で? 笑わせるなよ」
「ほう」
シュタールと名乗った男は、リロイの挑発に紫紺の双眸を煌めかせた。「貴様も奇術を嗜むというのか、リロイ・シュヴァルツァー」
これにリロイは、頭上高くに位置しているシュタールを手招きした。
「降りてこい。身体の中がぐずぐずになるまでぶん殴って、ケツの穴から全部絞り出してやる」
それは奇術ではなくて物理だが、とはいえ、それができるかどうかでいえば完遂するのはなかなかの手間だろう。
リロイなら、嬉々としてやり遂げるだろうが。
「面白い」
シュタールは、軽やかに笑った。
胃袋が締めつけられるような不快感に、頬が歪む。
彼の爪先が、天井を離れた。
しかし、黒いレザーに包まれたその身体は、重力の影響を受けない。彼はなにもない空間を、ゆるやかに円を描きながら向かってきた。
螺旋階段だ。
彼はまるで、螺旋階段を上るようにこちらへ降りてくる。
リロイは、ふところから銃を取り出していた。
いつもなら抜くと同時に発砲しているのだが、今回は、照準したあとにほんの少し首を傾げる。
なにか感じるところがあったのだろうか。
いずれにせよ、撃つことに変わりはない。
広い空間に銃声がこだまし、放たれた銃弾は狙い違わずシュタールの顔面へと突き進んだ。
そして阻まれることなく、そして躱されることなく彼の額を穿つ。
肉をねじ切るようにして頭蓋骨を打ち砕いた弾頭は、衝撃でわずかに形を歪めながらも脳内に進入した。
柔らかい脳には、鉛の塊を防ぐ術がない。
変形した銃弾は脳を押し潰しながら頭蓋の中を直進し、後頭部を破壊して飛び出していった。
シュタールの身体が、ぐらりとよろめく。
そして、重力に囚われた。
不可視の螺旋階段から足を滑らせたかの如く、その身体は落下する。行き着く先は、骨が砕けて肉が潰れる鈍く重々しい響きだ。
床に打ちつけられたその身体は、ピクリとも動かない。
「なんだ……?」
あまりにあっけない死に様に、カイルは訝しげに眉根を寄せる。
「手応えがない」
リロイはそう言ったが、確かにシュタールは頭部を撃ち抜かれ、高所から転落して絶命していた。
誰が見ても、そう思っただろう。
だが、その声は生きていた。
「殴ると言っておきながら飛び道具とは、些か面食らったよ」
またしても、頭上だ。
今度は、柱の側面に水平を保って立っている。
示し合わせたように、リロイとカイルの視線が墜落死したシュタールのほうへ飛んだ。
死体はまだ、そこに横たわっている。
これもまた、奇術というのだろうか。
横向きでこちらを見下ろすシュタールが、楽しげに含み笑いを漏らした。
「聞いたとおり、容赦がない。そして無茶苦茶だ。まだ、わたしが敵か味方もわからないというのに」
「――どんだけこまめに連絡とってるんだよ。仲良しか」
リロイは銃をふところに収めながら、呆れたように首を振った。「あと、おまえが敵か味方なんてわかりきったことだろ?」
「そうかな?」
ゆっくりと柱の側面を歩きながら、シュタールは言った。「状況によっては協力し合えると思うのだが」
「無理だ」
リロイは、断言する。その目は、中身をすべて液状化されて皮だけになったミシェールに落ちていた。
「もしもおまえが、最初の奇術に花でもばらまいてりゃ、違ったかもしれないがな」
「ふむ、花か」
シュタールは少し考えたあと、悪くない、と呟く。
そして、細く繊細な指先をスナップさせた。
悲鳴が、降ってくる。
高い天井に姿を見せたのは、女だ。どこかから落ちてきたわけではない。突如として、その位置に現れたのだ。
当然、落下する。手足をばたつかせて重力に抗おうとする彼女は、ブリジンガーメンの制服を着ている。知っている顔だ。リロイをフレイヤのもとへ連行しにきた中にいた騎士――短髪の彼女の名は確か、アリシア、といったか。
鼻が包帯で覆われているのは、連行中に負った怪我のせいだろう。
リロイはほぼ反射的に、駆け出していた。
その傍らには、カイルがいる。反応速度がリロイと遜色ない。ふたりは普通ならば到底、間に合わない距離を踏破して彼女の落下地点へと到達した。
しかし、落ちてこない。
アリシアの身体は、逆さまの状態で空中に停止していた。その体勢からは、右足にロープが括りつけられて宙吊りになっているようだが、そのロープらしきものはまったく見えない。
「ならば、花を」
シュタールが、柱を蹴って宙を舞う。
その身体を襲ったのは、鋭利な風の刃だ。銃を引き抜いていたリロイは、引き金を引く指を止める。
巨大な空間に生じた鋭い風は、シュタールの肉体を容赦なく斬り刻んだ。四肢は切断され、両断された胴からは腸が風に乗ってばらまかれる。裂かれた血管からは、人間と同じ真っ赤な血が噴出して雨の如く降りそそいだ。
その肉が床に落ちる濡れた音を聞きながら、リロイは銃口を背後に向けた。
視認すらせずに、引き金を引く。
ほぼ真後ろに出現していたシュタールの、その左目が銃弾を受け止めた。衝撃に押されてよろめき、そのまま背中から倒れ込む。
「ご要望に応えたつもりなのだが」
シュタールは、逆さ吊りになったアリシアの傍らに浮いていた。「彩りが、足らなかったかな?」それは、不吉を音にしたような声だった。
リロイが放った銃弾とカイルが生み出した風の刃は、ほぼ同時にシュタールの肉体に到達する。
喉に着弾した鉛の玉は彼の悍ましき声帯ごと気管を破壊し、脊椎にめり込んでこれを粉砕した。空中で仰け反るその肉体を縦に両断したのは、風の刃だ。
しかし、止められない。
すでに、その現象は始まっていた。
アリシアが、悲鳴を上げる。
先ほどのは落下に対する恐怖だったが、今度のは違う。
痛みに対する、苦鳴だ。
彼女と同じく、それは唐突に、空中から出現していた。凡そ百本以上。先端に鋭い鉤爪を備えた硬質のワイヤーが、アリシアめがけて射出される。風を切る音が重なり、轟と弾けた。
次々に鉤爪が彼女の肉体に喰らいつき、皮と肉を抉る。
散った鮮血は、まさしく大輪の花の如しだ。
彼女の位置までは、さすがにリロイの跳躍でも届かない。しかしそれを立ち止まって嘆くことなどありえなかった。
螺旋階段へと猛進し、それを踏み砕かん勢いで駆け上っていく。
傍らでカイルが、罵声を漏らした。彼の操る風の刃がワイヤーを次々に切断していくのだが、それを上回る量の新しい凶器が虚空から出現し、アリシアの血まみれの肉体にさらなる苦痛を与えたのだ。
カイルは怯み、攻撃の手が止まる。
そのとき、ワイヤーの動きが変わった。
アリシアの身体に向かっての直進から、逆方向へと。
彼女の身体が、あらゆる方向へと引っ張られ始めた。
肉がさらに裂け、骨が軋み、張力によって全身の形が歪む。アリシアの喉が、絶叫を迸らせた。
そこへリロイが、階段から跳躍する。螺旋階段はその衝撃で陥没し、めくれ上がって倒壊し始めた。
金属の拉げる音を背後に、ワイヤーを片っ端から切断していく。しかし、リロイは跳躍はできても飛ぶことはできない。飛んだ瞬間から落下は始まっており、すべてのワイヤーを処理してアリシアを助けることは不可能だ。
ではどうするのか。
リロイは、落下しない。
「馬鹿な」
カイルが思わず、呟く。
私もさすがに、息を呑んだ。
リロイはそのまま空中にとどまり、猛烈な速度でワイヤーを切り払っていた。
足場にしているのは、信じがたいことにそのワイヤーそのものだ。無論、先端はアリシアの肉体に喰らいついているので、リロイがそれを足場に跳躍すると、彼女の肉が引き千切れ、血が飛沫く。悲鳴も上がる。
しかし、それに頓着しない。
そしてついに、無限に補充されていくワイヤーフックの速度を、切断数が勝り始めた。百本以上の切断されたワイヤーが、蠢きながら虚空へと吸い込まれていく。
全身から血を噴き出すアリシアの身体が、固定された空中からずるりと下がった。
リロイは、最後の数本を切り裂きながら彼女の身体を抱き寄せ、そのまま落下してくる。普通の人間なら、女性をひとり抱えて無事に着地できる高さではないが、リロイは難なく床に降り立った。
駆け寄ったカイルは、苦しげな呻き声を漏らす。
私はすぐさま治療には入れる態勢だったが、どうやらその必要はないようだ。
アリシアは、リロイの腕の中で小刻みに震えている。
フックによって肉や筋肉が剥がされ、全身の至るところで骨や内臓が剥き出しになっていた。特に、頬骨ごと持って行かれた顔の左半分があまりに痛々しく、そして頭皮ごと剥ぎ取られた頭蓋骨の奥には抉り取られた脳が視認できる。
〝存在意思〟による治療は、万能の再生能力ではない。アリシアが受けたダメージは明らかに致命的で、こればかりは手の施しようがなかった。
アリシアの口もとから、息が漏れる。上唇は持っていかれ、口角から引き裂かれているために、もうまともに話すこともできないだろう。
だが、なにかを伝えようとしていた。
残された右目の焦点は合わず、持ち上げようとしたであろう指先は腕の筋肉を根こそぎやられていて痙攣しただけで床の上にだらりと垂れ下がる。
「た、助け――」
ようよう口にしたその言葉に、カイルが喉の奥で呻く。それはもはや、無理な懇願だったからだ。
しかし彼女は、絞り出すように続ける。
「み、みんな、を」
それを耳にしたカイルは、胸を打たれたように目を見開いた。
この期に及んでなお、彼女は自身の末路よりも仲間を思ったのだ。
「任せろ」
アリシアの血で真っ赤に染まったリロイは、微塵も動揺せず、また些かも悲痛な表情を浮かべなかった。
むしろ、にやりと笑って見せる。
「俺が言ったことを、覚えてるか? 指の一本でも動かせるうちはどうにかなる。諦めるのは、死んでからだ」
これにアリシアは、言葉では答えられない。
答えたのは、指先だ。
わずかに、ぴくりと動く。
そしてそれが、彼女にとっての最後の生命活動だった。
揺れ動いていた眼球が停止し、全身が弛緩する。
末期の息は、頬の裂け目から静かに流れ出た。
リロイはそれを確認すると、彼女の身体をそっと横たえる。リロイが立ち上がるのと入れ替わりにカイルが膝をつき、脱いだトレンチコートを彼女の遺体の上にそっと被せた。
「花の散り際はお気に召したかな」
またしても、その声だ。
シュタールは、リロイが踏み潰した螺旋階段の端に腰かけていた。
「これで、わたしの話を聞いてくれるかい?」
煽るようでもなく、口調だけは真摯そのものだ。かつて、リロイの眼前で同じように命を弄んだ〝闇の種族〟――吸血鬼の には、人間の情感に対する理解があった。理解した上で、それをいたぶったのだ。
しかし、シュタールは違う。
そもそも精神構造がまったく異質なのか、人間の情動をまるきり無視したその振る舞いは正直、理解不能だ。
私は、相棒を横目にする。
なぜか、苦いものが口の中に広がるような感覚――不安、だろうか? 世界に対して異質であるというのなら、確かに、リロイもそうだろう。
だからといって、あれの同類だと危惧するわけではないのだが……。
「なにを話したいんだ」
リロイは鞘に収めた剣の柄頭に掌を置き、シュタールに向き直った。「言ってみろよ。悲しい生い立ちでも聞かせてくれるのか」
「生い立ち?」
シュタールは、首を傾げた。まるで、初めて聞いた言葉のような反応だ。「ああ、生い立ち」そしてそう呟くと、なぜか肩を震わせた。
笑っている。
「失敬、そんなことを訊かれたのは随分と久しぶりでね」
彼は、両手首を繋ぐ長い鎖を指先で弄りながら、言った。
「それに、語るほどのこともない。ごく普通の両親のもとに生まれ、ごく普通に育った」そして、大きな指輪をつけた指で床を指す。「あの日、世界が分断されるまでは」その指先が示すものは、床上をゆったりと這う黒い霧だ。
「その話は長いのか」
リロイは、ゆっくりと歩き出した。「できるなら、俺がそこに着くまでに終わらせろ」
これにシュタールは、少し考え込んだ。
「ふむ、では――」
そこで、彼の言葉は途切れた。言葉尻は、頭ごと落ちてくる。
急加速したリロイが、崩壊した階段を踏み潰しながら駆け上がり、シュタールの首を刎ねたのだ。
金属の残骸と化した階段は、残されたシュタールの身体ごと横倒しになる。
不思議なことに、足下に漂う黒い霧はその衝撃で舞い上がることもなく、わずかに横へ広がっただけだった。
「少し、短すぎやしないか」
抗議というには、やや迫力に欠ける声音だった。距離の離れた壁に、佇んでいる。首からかけた、鋭い先端を持つ奇妙な形状のネックレスを両手で触っていた。「そんな一瞬で、いったいなにを語れと?」
「語るなってことだよ、鈍いやつだな」
リロイは剣を引っ提げたまま、またしてもゆっくりとシュタールのほうへと向かう。彼はまたしても首を傾げ、「生い立ちは必要なかったのか」と呟いた。どこまで本気で言っているのか不明だが、彼の表情に戯けた様子はない。
「では、単刀直入に言おう」今度はその指先が、頭上へ向けられた。「わたしの代わりに、トゥーゲントを排除してくれないか」
それは正直、意外な提案だった。
さすがにリロイも、思わず足を止める。
「彼が邪魔で、目的が果たせない。わざわざ都市ごと襲撃したのに、これでは骨折り損のくたびれもうけだ」
シュタールは、小さくため息をついた。「排除してくれるのなら、花はそのままお返ししよう」
「そいつを排除したら、おまえはどうするんだ」
リロイは再び、歩を進める。「マリーナをどうするつもりだ」
「彼女たちは鍵だ。無論、丁重に扱うよ」
彼女の拉致を図ったアングルボザも、マリーナの生きた細胞が必要だと言っていた。
だがいま、彼は「たち」と言ったか?
「たち?」
リロイも聞き咎めていた。「マリーナだけじゃないのか」
「陛下にもご協力いただく」
壁から垂直に立ってこちらを見下ろしているシュタールは、大仰に両手を広げた。「危険はなにもない。いい取引だと思わないか」
「人質を取っておいて、よく言うな」
リロイは鼻を鳴らし、剣をゆっくり引き抜いた。「そんなに邪魔なら自分で排除しろ」
「それができれば苦労はないさ」
肩を竦め、シュタールは首を横に振った。「苦手な相手というものは、どこにでもいるものでね」
そしてその視線が、リロイから移る。
紫紺の瞳が映したのは、カイルだ。
シュタールは優美に一礼する。
「ご挨拶が遅れましたこと、どうかご容赦ください、バレンタイン卿」
これにカイルは、少し目を見開いた。
だが、それほど狼狽した様子もなく、小さく息を吐く。
「目的はなんだ」
「さて」
シュタールはうっすらと微笑む。「枢機卿とはいえ、教団の意向を外れている以上、口出し無用かと」
「教団の意向だと?」
カイルの声色からは、かすかに怒りがにじみ出ていた。「おまえたちの意向、の間違いだろう」
シュタールは、目を細める。口角がわずかにつり上がり、慇懃な態度の裏に潜む剣呑さが垣間見えた。
「もしもあなたがわたしたちの障害を排除してくださるのなら、それも多少の齟齬ということに――」
「断る」
カイルの返事には、明確な決意があった。語気は決して荒々しくはなかったが、その意思を覆すことは不可能だと思わせる強靱さが、そこにはある。
果たしてそれは、シュタールにも伝わっただろうか。
彼はただ、訝しげに、美しく整えられた眉をひそめた。
「それは困るな」
「知ったことか」
にべもないカイルの反応に見せたシュタールの表情は、おそらく、私たちが彼を見るときのそれと同じだ。
理解できない。
彼のロジックでは、リロイやカイルが自身の提案を拒むことはありえなかったのだろうか。
そして遂には、あろうことか、この私に目を向けた。
「ラグナロク、機械である君ならば、合理的な判断が――」
私は最後まで言わせず、そして返事もしなかった。
〝存在意思〟は、すでに練り上げてある。それを弾丸の如く、最高速で撃ち込んだ。
シュタールは、壁を蹴って宙へと跳ぶ。狙いを外した〝存在意思〟はそのまま壁に激突し、広範囲に亘って素粒子の塵へと変えた。
その粒子を浴びながら、シュタールは高く舞い上がり天井にまで達する。
「過激だな」
彼は、(演技でなければ)驚いているように見えた。「相棒の影響か? 随分と野蛮になったじゃないか」
挑発ではなく単なる感想、といったシュタールの言葉だったが、少なくとも私とリロイはほとんど聞いていなかった。
躱したのだ。
これまで攻撃を回避も防御もせず、使い捨てのように肉体を扱っていたシュタールが、〝存在意思〟の一撃に限って躱したのだ。
これがどういうことか、考えるまでもない。
私はすぐさま、〝存在意思〟からエネルギーの抽出を始めた。シュタールの不死身がどのようなメカニズムかはわからないが、打ち砕けるのならば理解する必要はない。
「どうも、冷静さを欠いているようだな」
現れたときと同様に天井にぶら下がったシュタールは、自身に問題があるとはまったく考えていないようだ。「少し頭を冷やしてから、もう一度、話をしよう」
「おまえだけ、凍りつくまで冷やせ」
リロイはそう吐き捨てると、手にした剣を投擲しようとした。
だが、それより早く、シュタールが天井を離れて落下し始める。自ら飛んだわけではない。完全に脱力したその肉体は、そのまま床に叩きつけられて動かなくなった。
リロイは投擲の動作を止めると、手近にあったシュタールの屍のひとつに近づいていく。カイルの風の刃で細切れにされ、人型を留めていない死体だ。
「人間に見えるな」
散乱した肉片や内臓、砕けた骨などを具に観察したリロイは、そう呟いた。
それはわかるが、それしかわからない。
「枢機卿とは、ウィルヘルム派での立場か」
私は、王都に向かう馬車の中で、アーネストが彼を枢機卿と呼んでいたのを聞いているので、その事実にはあまり驚かなかった。「齟齬とやらについて、詳しく聞きたいところだな」
「騙すつもりはなかった」
彼はごまかしもせずに、私たちに頭を下げた。「だが、黙っていたことに関しては謝罪する。すまなかった」
「いいさ」
あまりにもあっさりと、リロイは言った。
そして、苦笑する。
「ただの探偵にしちゃあやるとは思っていたが、まさかそんなお偉いさんだったとはな」
「大仰なだけさ」
肩を竦めたカイルは、絶命したミシェールとアリシアに目を据えていた。「齟齬については話すと長くなるが、少なくとも俺は、この計画には関与していないし、詳細も知らない」
「おまえの目的が俺と同じなら、問題ない」
リロイはもう、歩き出していた。「次に道化師やろうが出てきたら、俺の相棒が叩き潰す。協力しろよ」
「わかってるとも」
カイルは、力強く頷いた。「この計画ごと、叩き潰そう」
「完膚なきまで、な」
リロイは、にやりと笑う。
私もそれには賛成だが、やはりアングルボザやシュタールの目的が気になっていた。
フレイヤとマリーナのふたりが鍵となる扉の、その先にはいったいなにがあるのだろうか?




