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ホーセントグリムのバーへようこそ

作者: 森東美衣

『Fran des Mordes 』


 涙で浮かんだようなぼんやりとした提灯の灯り。赤、黄色、白、青、様々な光りが、ぐるぐると回る。

 頭の片隅で、澄んだ音色が小さく響いた。


――チリン。


「いらっしゃいませ」


 はっとして目を見開いた。心臓が逸る。目を瞬かせて、頭を振った。気持ちを落ち着かせて、改めて視線を前へ向ける。

 

 目の前に広がっていたのは、十畳ほどの小さなバーだった。正面には、様々な種類の酒が並ぶ棚がある。酒はガラスケースなどに入ってなくて、剥き出しのままだ。そこから続くようにカウンター席の椅子が並ぶ。

 

 カウンターテーブルは木製で、ニスが塗ってあるのか、滑らかに見える。触ると指が滑って行きそうで、気持ち良さそう。

 

 照明のオレンジ色の光に反射して、テーブルがキラキラと光っていた。まるで、海に反射してるみたいにゆらゆらと反射位置も変わった。

 

 不思議に思って照明に目を向けると、アンティーク調のランプの中で煌々と燃えているのは、ロウソクだった。


 この御時世にロウソクなんだ。

 彼女は密かに驚きながら、ぐるりと全体を見回そうとして気づいた。壁は本物のレンガだ。

(なんだか外国にきたみたい……)

 白昼夢のような心地で、彼女はそのまま店内を見回した。すると、カウンター席の中にいたバーテンダーと目が合った。


 カウンターの中で、バーテンダーは着席を促すように笑っていた。そのすぐ後ろには、ガラスケースに入った高級そうな酒が並んでいる。

 

 彼女はおずおずとカウンター席へ行くと、椅子へ座った。

 丸い回転式の椅子は、座るとふんわりと沈んで心地が良い。


「あの、ここはどこなんですか?」


 彼女は警戒しながら尋ねた。バーテンダーはにこりと笑うと、「ここは地下都市に存在している、小さくてしがないバーですよ」と答えた。


 彼は二十代後半くらいで、服装は白のシャツに黒いカマーベスト。ボウタイはポインテッドで中心に琥珀のカメオが輝いている。女性の横顔の彫刻は風になびいている髪がリアルだ。

 

 一見すると女物のようだ。女性のアクセサリーや服をファッションに取り入れる人がいるが、そういうタイプの人物なのかも知れない。おしゃれ上級者と同じように、彼も特に不自然さは感じさせなかった。

 

 髪型は黒髪のオールバック。顔立ちはよく見かけるアジア顔で、少し彫りが深い。身長もかなり高く、百八十センチ以上は確実にありそうだ。だが、日本人ではないのかも知れないと、彼女は思った。瞳が薄く金色がかっていたからだ。


(こういうの、アンバーって言うんだったかな)


 彼女は何気なく思いながら、ばれないようにじろじろとバーテンダーを見てる。そして、思い切って話しかけた。


「あの、私、気がついたらここにいたんです」


 低声だったが、近い距離にいて聞こえないはずはない。だが、彼はコップを拭いていた。次の言葉を待っているようにも見える。


 彼女は思考を巡らせた。だが、何度頭の中を探ろうと思っても、何も思い出せなかった。

自分の名前も、顔も思い出せない。暗い穴の中を覗き込んでるみたいに、真っ暗で空洞な感じがする。


「……酔ってるのかな?」


 彼女は独りごちながら、さっきまで自分が立っていたドアを一瞥した。ドアは木製で、鮮やかなグリーン。上の方はアーチ型になっている。その中心に銀色のベルがぶら下がっていた。


(さっきの音はあれだったのね)


 彼女は納得しながらベルから視線を逸らすと、「でも、どこの誰かも分からないなんて……ただの酔いじゃないわよね」


 自分に問いかけるふりをして、バーテンダーに聞こえるように呟いた。今度は答えてくれるだろうか。不安が渦を巻く。ちらりとバーテンダーを見ると、彼は優しげに微笑んだ。彼女はほっとして息を漏らした。


「大丈夫。すぐに思い出します。ここは、そういう場所ですから」

「どういうことですか?」


 彼女は怪訝に首を傾げた。


「ここは、迷えるものが集う店なのです」


 バーテンダーは妖しい笑みを浮かべた。どことなく不気味な笑みで、少しだけ不安が過る。


「どういう意味ですか?」


 彼女の問いにバーテンダーは答えなかった。その代わりにカウンターの裏から、ガラスの小皿に入った二粒のチョコを取り出した。ふと、バーテンダーの向こう、ガラスケースの中に女が映っていることに彼女は気が付いた。怪訝な表情で彼女をじっと見つめている。


 そこではっとした。その女は彼女だった。

分が映っているこることに気がついたた。その代わりに、後ろのる。


 ガラスケースに映った彼女は二十代半ばか後半くらいの、痩せ型の女だった。胸元が大胆に開いた白いセーターを着ている。少しだぼついていて、サイズが合ってないからか胸元が惨めに見えた。


 口紅は真っ赤で、マスカラは二度付け。髪は縛ってあったのか、変なところで癖がついていた。


(化粧は濃いけど、案外地味ね)


 残念な気持ちを胸に、彼女はバーテンダーに視線を移した。


「貴方、名前は?」

「ホーセントグリムと申します。グリムとお呼び下さい」

「外国人?」


 グリムは首を横に振って、すっとカクテルを差し出した。いつの間に作っていたのだろう。

 

「私、多分お金持ってないと思うんですけど……」

「代金は要りません」

「え、本当に?」


 胡乱に尋ねた彼女に向って、グリムは爽やかに笑んだ。


「はい」

(何か企んでるの?)


 不信感が首をもたげたが、彼女はすぐにそれを全力で否定した。何故か、そうしなければならない気がした。

 彼女は改めて思いなおす。


(この男、私に興味があったりして。口説きたいとか、そんな感じかしら?)


 グラスのステムを持って、まじまじとカクテルを見つめた。

 透き通るような琥珀色。ちらりとグリムを見る。


(彼の瞳と同じ色だわ。自分の目の色と同じお酒を出すなんて、やっぱり私に気があるんじゃないかしら?)


 弾む気持ちでカクテルに口をつけようとすると、彼がそれを遮った。


「このカクテルはミスティと言います。ジャズの名曲から生まれたのですが、きっとお客さまの〝過去〟とシンクロすることでしょう」

「……過去?」


 貴方、私のこと知ってるの? ――彼女が驚いて尋ねようとしたとき、グリムはにこりと微笑んで促した。


「どうぞ。ご試飲下さい」

「……」


 不審に思いながらも、彼女はミスティに口をつけた。ほろ苦さと流れ落ちていくような甘さの中に、微かなハーブの香りが広がる。その途端、まるで何かがじんわりと染み渡る感覚に襲われた。

 水面に落ちた雫が、広く浅く広がっていく。それはまさしく、甘く切ない恋の余韻そのもの。


「……思い出した。私、ある人に恋をしてたんだ」

「どなただったか思い出されました?」


 グリムは含むように頬を持ち上げた。

 彼女は小さく頷く。


「はい。男性が……。それに、もう二人浮かんできました。二人とも女性で、一人は地味で、眼鏡をかけていて暗そうな……私が嫌いなタイプね。もう一人は……多分、私……だと思います」

「多分ですか?」


 グリムは疑り深そうに訊いた。


「ええ。だって、三人とも顔が判らなかったんです」


 答えながら、彼女はミスティに口をつけた。だけど、今度は香りが広がるばかりで何も浮かんでこなかった。

 彼女は嘆息しながら続きを話した。


「顔が皆、塗りつぶされたみたいに黒かったんです。姿形ははっきりしてたのに」


 男性は茶髪で、顎まである髪の毛先を遊ばせている。ブイネックの白シャツに、黒いジャケット。タイトなジーンズ。いかにも軽そうだ。だが、きっと彼女はこの人のことが好きだったんだと思った。


 ミスティを飲んだとき、彼女は誰かのことを好きで、好きすぎて、自分を見失うほど愛してたような気がした。

 それは、その人を失ったら自分もこの世からいなくなってしまうくらい強烈な感情だった。


(道ならぬ恋だったような気がする)


 好きな気持ちを胸に秘めてたような、そんな苦しい想いが巡った。

 だが同時に、その人のそばにいられてとても幸せで、泣きたくなるくらいに切ない。そんな想いも駆け上がってきた。

 だからきっと、彼女は彼のことが好きだったのだと思った。彼の他に男性は思い浮かんでこなかったのだから。


「姿形しか判らないのでしたら、どうして貴女だと判ったのです?」


 グリムの冷静な声音が、彼女を思考から呼び覚ました。はっと顔を上げると、グリムは優しげな笑みを浮かべている。


「だって、そんなの……姿形が判れば自分かどうかなんてはっきりするじゃないですか」


 一人の女は、地味だった。顔を見るからにもない地味なかっこう。

 ダークグレーのスーツに、薄い水色のシャツ。ふちなしの眼鏡だけが、塗りつぶされた黒い顔に浮かんでいる。髪はストレートの黒髪を一本に束ねている。体つきは細見で、少し猫背気味だった。


 彼女はその女が嫌いだった。

 女が浮かんできたときに、嫌悪感しかなかったからだ。


 一方で、もう一人の女には、何故だかすごく好感が持てた。

 派手な服装で、女の色気満載の。今の彼女のような女。

 

 彼女はガラスケースを真っ直ぐに見つめた。

 様々な酒のビンに混じって、彼女の姿が映る。

 記憶の中の女は、まさしく同じようなかっこうをしていた。


 これよりも少し派手ではあったが、胸の谷間を強調した、身体にフィットした白いセーターからは、大きくて柔らかそうな胸とくびれた細い腰が。ぴったりと密着した短いデニムのスカートからは、豊満なお尻が窺えた。すらりと伸びた足は、カモシカのようだった。

 

 まさしく、女の憧れみたいな体に、ふわふわのウェーブがかかった茶色の長い髪。そして、塗りつぶされた黒い顔に浮かんでいた、印象的な赤い唇。


 ふと、ガラスケースを見ると、ぼんやりと視界が白く霞んでいた。


(どうしたんだろう?)


 彼女が急いで目を瞬かせると、ぼんやりとした白いシルエットが更に膨らんでいって、次の瞬間には、豊満な胸に細いくびれの茶髪の女を映し出していた。


 猫の目のようにくるりと丸い瞳。薄茶色の長いまつげ。印象的なふっくらとした、赤い唇。

 その瞬間彼女は確信した。


(ええ、そう。そうよ。きっと、そうだわ。私は彼女だわ。間違いない)


 うきうきした気分で、ふわふわの長い髪に触れる。嬉しくて弾む胸の内に、微かな違和感があった。髪が思ったよりも柔らかくない。ガラスケースの中の自分は、あんなに猫毛で、柔らかそうなのに……。


 きっと、痛んでるのね。帰ったらトリートメントしなくちゃ。そんなことを思いながら、毛先をいじっていると、突然グリムが尋ねてきた。


「お客さま、お名前は?」

「……名前?」


(そうだ。私の名前は何かしら?)


「思い出されませんか?」


 問いかけたグリムを真っ直ぐに見据える。

 金色の瞳がきらりと輝いて見えた。その瞬間、彼女の頭に三人の名前が浮かんできた。


「そうだわ。私の名前は、宮凪裕子。宮凪裕子よ……!」

「ほう」


 グリムは面白いものを見たときのように頬を持ち上げた。彼女は、バカにされたようで不愉快になった。むっとして、ついケンカを売るように訊いた。


「なによ?」

「いいえ」


 グリムはかぶりを振ると、「それで他には?」と尋ねた。彼女は渋々ながら、


「彼は岩尾博之。もう一人の、地味な女は柳井夕子よ」

「同じ名前なんですね」

「漢字は違うわ!」


 ムキになって言い返すと、グリムは困ったように微苦笑した。


(あんな女と同じだなんて、カンベンして欲しいわ)


 彼女はイラついた気持ちを整えようと、一息吐いた。すると、気持ちがすっと落ち着いた。

 

「そう。でも、同じ名前ねって……確かに、それで仲良くなったのよね。形だけだったけど」

「形だけだったんですか?」

「ええ、そうよ。でも、初めは形だけじゃなかったんだと思うわ」


(そう思いたい)


「大学に入りたてのころ、私から話しかけたのよ。同じ名前ねって。そうしたら、あの子、妙に喜んじゃって。何だか滑稽だったわ」


 彼女は鼻で笑った。でも、心の奥底が重苦しい。

 あんな子、大嫌いなはずなのに――そんな風に思いながら、眉間にしわを寄せる。


「それで……良く遊ぶようになって。私は楽しかったんだけど」

(楽しかったの?)


 心が混乱していた。確かに楽しかった思い出が頭の中を巡るのに、なんだかとても、悲しい気がするし、同時にすごく腹立たしい気がした。

 その理由は彼女には分からなかった。

 彼女は大きく息を吸って吐き出した。気持ちの整理をする。


「そう。それで、三年前に私に彼氏が出来て。岩尾さん――いえ、ヒロくん。そう、ヒロくんとあの子と三人で遊ぶようになったのよね」

「へえ」


 グリムは相槌を打った。その表情はどこか面白がってる風で、彼女は少し嫌悪感が湧いた。むっとした彼女に気づいたのか、グリムは申し訳なさそうに笑って、


「ユウコさん、話し方が来店されたときとだいぶお変わりになられましたね」

「……え?」


 彼女は一瞬だけ固まった。


「そうかしら?」と尋ねると、「そうですよ」と、グリムは大げさに目を見開いて、驚いて見せた。が、非常にわざとらしかった。


「だって、最初はあまり感情が表情に出ない方だなって思ってたのに、記憶を取り戻してからはくるくる表情が変わっておいでだし、喋り方もお変わりになれました」

「……そうなのかしら?」


 グリムの言うように、思い出す前よりも感情が大きく変動することに、彼女は薄々気づいていたし、そうしなければいけないような気がしていた。だが、彼女は思考することを否定した。


「記憶を取り戻したからじゃないかしら? やっぱり思い出せないときは不安だったもの」

「そうですね。それはあるかも知れません」


 グリムは同意して、同情するように眉を顰めると、にこりと優しげに笑んだ。


「ところで、どうしてここに来たのか思い出されました?」


 彼女はかぶりを振って、「全然」と答えた。


「では、これを」


 囁くように言いながら、グリムは茶色いカクテルを差し出した。


(本当に、いつの間に作ってるのかしら?)


「グランド・スラム。二人だけの秘密」

「二人だけの秘密?」

「カクテル言葉ですよ」

「へえ。そんなものがあるのね」

「はい」


 頷いたグリムを見据えながら、彼女はカクテルに口をつけた。さっきよりも、辛口でなめらかな液体が喉を湿らせながら滑り落ちていく。

 その瞬間、ぐるりと世界が回った。


『アンタなんか、最初から嫌いだったわ!』


 金切り声が頭の中で響く。


(これは、誰?)


『この、泥棒猫! ヒロくんを返してよ!』

『待って! 違うの、誤解よ!』


 必死に訴えかけようとする声……。これは、夕子だ。彼女がそう確信した瞬間、目の前に二人の女が現れた。


 一人は地味なダークグレーのスーツに眼鏡。髪を一本に束ねている女。切れ長の瞳に、奥二重。化粧っ気のない顔で、チークのひとつも入っていない。


 もう一人は、胸元の開いた白いセーターを着て、ふわふわの茶色い髪の毛を腰まで垂らしている肉感的な女。くりっとした瞳に、目尻に跳ねるようなアイラインが入って、少し気の強そうな印象だった。薄っすらとしたピンク色のチークが若々しさを演出している。真っ赤な唇が印象的に彼女を彩っていた。


 間違いなく柳井夕子と宮凪裕子だった。


 薄暗いキッチンで、二人はテーブルを挟んで立っていた。

 隣の寝室から、西日が差し込んでいる。大きな窓のカーテンは開いたままだった。横にずらされただけのピンクのカーテンには、フリルがあしらわれている。


(いかにも女の子が好きそうな感じ。裕子――私はこういうのが好きだったわ)


 ふと彼女は思い出した。いつも、裕子のぬいぐるみや持ち物を可愛いと夕子は褒めていた。だけど、夕子の部屋はいつ行っても殺風景で、物一つにしてもシンプルで味気ない。可愛い物は好きだけど、自分で持つのはなんか違う感じがするんだと話してたこと。そして、裕子はいつもそれを、ふうんと聞き流していたことを。


(きっと、興味がなかったんだろうな。あんな女のことなんて……)


 物悲しいとも、嫌悪とも取れるような気分で、彼女は部屋を見回した。

 玄関の左側には靴箱があり、入りきらなかったのか、派手なハイヒールが何速か靴箱の上に出ていた。右側には小さなガスコンロがあり、シンク、冷蔵庫と続く。間仕切りのすりガラスの戸の前にテーブルと椅子が置いてあって、その先はリビングだった。間仕切りの部屋の中は寝室で、ベッドの端が玄関から僅かに覗いている。


 裕子と夕子は、テーブルの前で向き合っていた。

 夕子は胸の前に手を当てて動揺を表している。


(あの女の御得意よね。困ったことがあるとそうやって困ってますアピールをして、おどおどとした態度を取る。それで周りから助けてもらうのを待ってるのよ。本当に、嫌な女)


 彼女は夕子を疎みながら、裕子を見た。

 裕子は夕子に向かい合いながら、臨戦態勢を取っていた。前かがみになって唇を震わせ、テーブルの上の花瓶に手をかけていた。今にも歯軋りが聞こえてきそうだ。


 裕子は癇癪もちで、勝気で我がままで、誰かとケンカをするとよく物を投げつけていた。感情が豊かだといえば聞こえは良いが、粗暴だと言われればその通りであったかも知れない。裕子は夕子とケンカしたことは今まで一度もなかった。


 それは夕子がそうならないように裕子のすることを容認してきたからだが、そのおかげもあってか裕子も夕子に対しては激昂することはなかった。だが、この時ばかりは裕子は夕子を本気で怒鳴りつけた。


『なにが誤解なのよ!?』


 記憶の中の裕子が吠える。


『私見たんだからね! アンタとヒロくんが二人だけで逢ってるところ!』

『だから、それが誤解で……岩尾さんには偶然遇っただけで……』

『ただ遇っただけで、どうしてヒロくんがアンタの肩組むのよ! 腰に手をまわすのよ! ありえない!』


 裕子は憤慨しながら花瓶を持つ手に力を込めた。


『違うの。確かに、その……』

『なに!? 確かになんなのよ!?』


 ヒステリックに叫んだ裕子は、夕子が口を開くのを待った。夕子が一秒でも口を開くのが遅れたら確実に花瓶を投げつけてただろう。それほどじりじりしながら裕子は待っていたし、それを夕子も気づいてた。裕子が気が短いことは承知の上だったからだ。

 だから、夕子があの言葉を言い出すのも時間の問題だったのだろう。


『別れて……』

『はあ!?』


 唖然とした表情で、裕子は夕子を凝視していた。

 彼女はこの光景を見つめながら、どんどんと記憶が蘇ってきている自分に驚いていた。同時にひどく恐ろしい気がしてならない。

一秒ごとに、一秒先を思い出している。そんな感覚があった。


『違うの。本当に、岩尾さんとは付き合ってないの。だけど、あの人は裕子には合わないよ』

『なによそれ!? どういう意味よ!』


 歯をむき出しにして叫んだ裕子を、夕子は両手を前に出してなだめた。


『落ちついて聞いて。裕子、あの人は他にも女の人がいるんだよ』

『なに言ってんの? それがアンタでしょって話をしてるんじゃない!』

『だから、違うの。私も口説かれたけど、裕子の他に二人いるって言ってたの。それで、私もそうならないかって、言われて……。腰に手を回されたのはその時で、ちゃんと断ったし、嫌だったし……。裕子、本当にあの人と別れた方が良いよ』


 裕子の花瓶を持つ手がわなわなと震えていた。

 唇を強く噛み締めて、夕子を睨みつける。撥ね付けるように言った。


『なんでアンタにそんなこと言われなきゃいけないのよ!』

『だって、私達友達でしょ?』

『友達?』


 裕子がふんと鼻で笑った音が彼女の耳に届く。その瞬間、頭に衝撃が走った。唐突に、膿が取れたように頭の中がすっきりした。

 

(ああ――)


 彼女は心の中で嘆いて、静かに目を閉じた。

 密かに覚悟をする。この後、二人がどうなったのか、彼女は思い出してしまった。


『アンタなんか大嫌いだわ! 一度も友達なんて思ったことない! 引き立て役として役に立つからそばに置いてただけよ! だれが、アンタみたいな地味で根暗な女と友達になるのよ!』


(後悔してる。本当に、どうしてあんなこと言っちゃったんだろう)


 彼女は、苦痛を胸に閉じていた目を開けた。

 硬直したように立つ二人の女の姿は、何だか少しだけ滑稽だった。

 そこに、覚悟を決めた硬い声音が聞こえた。


『……知ってたよ。それでも良かったの』


 裕子は困惑した表情を浮かべていた。


『どうしてよ?』


 怪訝な声が、赤い唇から発せられた。


『好きだから』


 裕子は明らかに混乱した表情をした。どういう意味として取って良いのか分からないと顔に書いてある。

 きれいな顔が怪訝に歪んでいた。


『好きなんだ。裕子。同性として見ても憧れてる。私、こんなんだから……。もっと、堂々としたいのに。裕子みたいに自信持って堂々と出来たらって……。私、小さい頃から、女の子も男の子も好きになるの。自分でも気持ち悪いって分かってる。でも、裕子のこと、本気で好きだから、友達として、ううん。それ以下でも良い。側に――』

『やめてよ!』


 悲鳴めいた声が、告白を遮った。

 夕子は、はっとして俯きかげんだった顔を上げた。動揺で、目がきょろきょろと動いていた。顔が強張って恐怖が滲んでいた。


(こんな顔してたんだ)


 他人事のように、ぼんやりと彼女は思った。

 そこに、混乱と嘲笑の入り混じった笑い声が届いた。


『アンタが、私を? やめてよ。気持ち悪い』


(覚悟はしてた)


 哀しい気分で、彼女は冷静に裕子を見据える。

 夕子は張り詰めた表情を浮かべていた。


(そうだよね。覚悟はしていても、否定されるのは怖いよね)


『女も男もって、なによそれ』


 吐き捨てるように言って、裕子は夕子を軽蔑と嫌悪の眼差しで見た。

 そして、ふんと鼻で笑う。


『仮によ。私がもし女と付き合うことがあっても、アンタはごめんよ。アンタみたいな根暗な女、誰も相手にしないわよ』


(ひどい言葉……)


 彼女は、裕子を哀しい気持ちで見つめた。


(裕子は簡単にそんな暴言を吐ける子だった。だから、どこかでボロクソに言われることは想定はしてた。だけど……)


『そんな変態と友達だなんて、周りに思われてたの? 最悪だわ。もう私に近づいてこないでよね』


(だけどね――裕子)


『マジでキモい』


(私にも、我慢できないことはあるのよ)


『さようなら』


 ぎゅっと目を瞑った瞬間、争う音が響いた。もみ合い、格闘する物音と、二人の女の悲鳴めいた奇声。

 

 そして、最後に耳を劈く女の悲鳴で部屋は静かになった。

 眼を開くとバーにいた。


「……思い出した」


 振り絞った声音は、憂鬱に満ちていた。


「私が誰なのか、思い出しました」


 ため息を吐きながら、グリムを見る。グリムは何も言わなかった。ただ黙ったまま微笑を湛えた表情で彼女を見つめている。


 彼女は諦めを含んだため息を吐いて、グリム越しにガラスケースを覗いた。姿は特に変わっていなかった。


 どうしてだろうと思いながら、彼女はカクテルグラスのステムを持ち上げた。


「私ね、ずっと自分が嫌いだった」


 彼女は呟きながら、グリムを一瞥する。だが、グリムは特に顔色は変えなかった。ただ、彼女をじっと見つめている。


「小さい頃、両親がよく喧嘩していたんです。でも、喧嘩なんて呼べるレベルじゃなかったなぁ……。お父さんが、お母さんを殴るなんてしょっちゅうで、悲鳴がそこら中に充満してた。それで両親が離婚して、お母さんは出て行って、それから父は嘘のように優しくなって」


 彼女はグラスから顔を上げてグリムを見る。グリムの表情はやはり変わらない。ただ優しげな笑みを浮かべている。彼女にはそれが、救いでもあったし、不愉快でもあった。話して良いよと言われている気がしたし、興味がないと言われているような気がした。

 でも、彼女は続けた。


「小学校の頃に、初めて好きになった子は女の子だったんです。両親が離婚して、すぐの頃だった。良くあるじゃないですか? 誰が好きって言い合う遊びが。それで、私はある女子の名前を口にしたんです。私にとってはそれが普通だった。でも、周りにとっては異常だったんでしょうね。だから、随分虐められました。とにかく父親にバレたくなくて」

「虐めを?」

「どっちも」


 なんだか、すごく泣きたい気分なのにまるで泣ける気がしなかった。頬は僅かに持ち上がり、微笑みが張り付いてる。彼女はそのことを自覚していた。きっと、優し気で柔和でいて、気弱そうな笑みだろう。同情を引くような……と、思ってつい、自嘲が洩れる。もう、そんな顔をするのはお手の物だったからだ。


「だから、私必死だった。どっちもバレて見捨てられたくなかったから。とにかく良い子でいようって決めたんです。私、父親に反対したこともなかったし、両親の前で泣いたことすらなかった。そういえば、離婚する時も、母親が出て行ったときも泣かなかったなぁ……」


 そうやって、いつしかそれが普通になった。


「高校生になって、小学生の頃の縁も切れても、ずっと目立たないようにしてきたんです。大学も同じだろうって思ってた」

「でも、ユウコさんと出逢った?」

「そう。出逢った……」


 今でも蘇る。出逢ったときの、衝撃。

 ラベンダーに似ている香りを追うように、彼女は顔を上げて、はっとした。隣の席に座った女の横顔が、とても美しかったから。

 そして、それに見合うだけの自信が女からはみなぎっていた。


「本当に、キレイだった。心底憧れた」


 彼女が一番欲しいものを女は持っていた。


「他人と深く関わらないようにしてきたのに、いつの間にか友達になって……。楽しかったぁ……」


 グリムはほんの少し訝しんだ表情を浮かべた。


「理解できないですか? 主従関係みたいなものだったのに、楽しいだなんておかしいと思いますか?」

「いいえ。でも、興味はあります。なぜ、そんな心境に至ったのか」


 彼女は一瞬、ガラスケースに映った自分を見て、グリムに視線を移す。彼と目が合って、どことなく気恥ずかしい気がして目をそらした。


「彼女は私の知らない世界を見せてくれた人だった。友達とボーリングに行ったことすらなかった私に、友達と遊びに行く楽しさを教えてくれた。私達は初めは本当に、普通の友人同士みたいだったんですよ」


(きっと。そうだった)

 願うような強い気持ちで彼女は思った。


「でも、だんだん……私を見る目が変わってきたことに気づいた。多分、多分ですけど、私の同情を引くような態度が気に入らなかったんだと思う。よく言ってたもの。アンタのそういうの、イライラするわって」

「貴女ご自身も気に入ってないみたいですね?」

「そう……。そうね。うん」


 確かめるように呟いて、


「多分、私が一番、私が嫌いなの。そういうところが、嫌いなの」


 硬い声音で言って、彼女は遠くを見る目をした。今、ここで、彼女は気づいたのだ。何故、自分が自分を嫌いなのか。


「両親の前で、泣いた事がないって言ったじゃないですか?」

「ええ」

「私、きっと自分のせいだと思ってたんです。母親が殴られる事も、母親が出て行ったことも。父が離婚後優しくなったのは、母のことが憎くなってその母と別れられたからだって、分かってました。父方の祖母が言ってたことがあったんです。あんたのお母さんはね、浮気したんだって。それで、その男のところに行ったんだって。多分、浮気なんて呼べるレベルのものじゃなかったんだって、今なら思います。多分、本気で好きになって、でも父もまだ母のことを愛していて。それで、渡したくなくて喧嘩して、殴ってでも引き止めようとした。でも、きっと、そんな生活に疲れて果てて別れた」


 憎悪と、愛。その感情は、彼女にも確かに覚えがある。


「それでも、私今までずっと、母がいなくなったのは自分のせいだと思ってた。だから、イジメも自分への罰だとどこかで思ってた」

「だから、お二人の関係性でも楽しかったと?」

「あの子は、女王様体質で、あれやって、これやって。ノートとっておいて、どこそこのパンが食べたい。何でも私に命じました。私はそれに応えた。確かに、罰だと思っていたふしはあるのかも知れない。それでも、彼女の世話をやくのは楽しかったんです。そのことは、罰だなんて思ってなかった」


 理解出来ないかもしれないですけど、彼女はそう言って続けた。


「彼女、あんな風だったけど、優しい子だったんですよ。私のダメなのところを臆することなく言ってくれる。普通は、嫌われたくなくて言えないじゃないですか。私なんて、とても言えません。でも言ってしまえる。それは自信があるからだし、相手のことを本当に思うからだと思いませんか?」

「そうですね。そういう場合もあります」


 関係性と人によるとでも言いたげに、グリムは言葉を濁した。だが、彼女はそんなことはお構いなしだった。瞳は必死で、どこか空を追いかけているようでもある。

 ヤバイやつ、傍目から見たらそんな風にも映るだろう。


「それに、彼女には私が必要だったんです。彼氏がいても、他に友達がいても、本当の意味で鬱憤をさらけだせるのは、私だけ。私に命じるのも、当たるのも、甘えてるんだと思うんです。きっと、母親に甘えるみたいに。私達は、それほど親密だった」

「だから、楽しかった?」

「はい。それに、彼女は私が自分を嫌悪している部分を、遠慮なく暴いてくれる。アンタの同情を引く態度が嫌いだって言ってくれる」

「同情を引くのは、それほどいけないことですか?」


 グリムの苦笑交じりの問いに、彼女は一瞬だけ考察した。いけないことだろうか? と自問し、一巡して頷く。


「私にとっては」

「それは、罪悪感故に?」


「私には、自覚があったんです。そうしてるって、でも止めなかった。そうすることで、誰かと繋がっていたから。優しい人が、そうしていると構ってくれた。だから、止めなかった」


 普通は、自分の見たくないところを指摘されれば、たいていの人が嫌な気分になる。図星をさされ、喧嘩を始める者も少なくはないだろう。だが、彼女にとっては違ったようだ。


「私を責めてくれる人がいることは、私にとっては救いだった」

「それが罰だと?」


 彼女は首を振った。


「いいえ。その後の、あの目が」

「目?」

「はい。大嫌いな虫を見る目で私を罵って、その後、ふと同情心を私に向けてくれるんです。言い過ぎたかなって思ったのか、不意に可哀想になったのか、それは分からないけれど……私、あの目が好きだった。あの瞬間だけは、私だけを見ていてくれる。私だけを想っていてくれる」


 嫌い、大嫌い、だけど、同情心でしか愛を得られない。彼女は最も疎む感情でしか、好意を得てこなかった。


「だからね、許せなかった……」


 ぽつりと呟いた声音は、僅かに憎しみに歪んだ。


「あの時、さようならと言った、あの目は、違った。本気だった。本気で、私を軽蔑して、言ったんです。さようならって……」


 失いたくなかった――顔を伏せ、振り絞るように、彼女は言った。


「だから、つい掴みかかった?」

「ええ」

「でも、ああなるとは思わなかったんですね」

「……ああなる?」


 彼女は呆然と顔を上げた。


「貴女は、お二人がどうなったのかもう御存知でしょう?」


 そんなわけない。と、彼女は拒絶したが、グリムは不敵な笑みを浮かべ、両手を広げた。


「ここは迷える魂が集う場所。私はここの支配人。私に偽りは通用いたしません」

「やめて! 思い出したくないのよ!」


 彼女は悲鳴めいた叫び声を上げて、勢い良く耳を塞いだ。カウンターに伏せる。そこに、グリムの囁きが聞こえた。


「お客さま」


 甘く囁かれたその声音は、優しいのにどこかぞっとする冷たさがあった。瞳を僅かに上へ向けると、グリムは身を乗り出して、彼女の耳元に顔を近づけていた。

 

 金色の瞳と目が合う。冷たい視線の中に温かさがあるような気がした。毛嫌いしてる動物が苦しんでるのを見て同情心がふと浮かんだような、そんな目。

 

(ひどい人ね。だけど、優しい人……あの子と同じ)


「ここは、迷えるものが集う店。ここから出るには、決断をしていただかなければなりません」

「決断?」

「そう。貴女の場合は、選択」


 グリムはすっと体を離すと、自分の右手を見つめた。グリムの右手首がぐるりと回転すると、手のひらの上にカクテルが現れた。


 驚く間もなく、次は同じようにして、左の手のひらの上に別のカクテルが現れた。

 右手のカクテルは桃色。左手のカクテルはオレンジ色だった。


「右はプレリュード・フィズ。カクテル言葉は、真実を知りたい。左はブロンクス。カクテル言葉は、まやかし。真実を受け入れるか、まやかしに生きるか。さあ、どちらを選びますか?」


 緊張が走って、彼女の喉が鳴った。

 グリムは二つのカクテルをカウンターの上に置いた。彼女はしばらく二つを見比べて、無言で手を伸ばした。


「貴女が生きるのならば、私は要らない」



 * * *



 目を開けると、暗い部屋にいた。ぱちぱちと瞬きをして、体を起こした。どうやら寝ていたようだと、彼女はぼんやりと思った。


 ふと前を見ると、目の前で、自分が朗らかに笑っていた。目や鼻は良く見えないが、赤い口紅が三日月のようだった。


 白いセーターが暗い部屋でぼんやりと浮かんで見えた。茶髪にしては、髪の毛が周りの暗さに溶けて過ぎている。


(髪、黒く染めたんだっけ?)


 ぼんやりとそんなことを思いながら立ち上がって、その時に初めて彼女は自分がドレッサーの前に座ってたことに気がついた。


 ドレッサーの隣にあるカーテンが閉まっている。カーテン越しに明かりが入ってきているけれど、暗いことに変わりはない。いつの間に閉めたんだろう? と彼女は小首を傾げた。


「まあ、良いか」


 暗い部屋の中で、電気を探そうとわさわさと手を動かしながら進むと、足先で何かを蹴った感覚がした。硬くて、重いなにか。


(なにかしら?)


 彼女は疑問に思いながら進もうとすると、玄関で声がした。


「お~い。裕子いるか?」

「ヒロくん? いるよ」


 声高に答えると、玄関のドアが開いた。


「暗っ! どうしたんだよ? 電気は?」

「なんか、停電みたい」

「マジかよ」


 男は驚きながらも、本当に停電かたしかめようと電気のスイッチを押すために壁をまさぐった。

 パチッと小さな音がして、キッチンの照明が点いた。彼女の寝室に光が差し込んできた。だが、視界がぼんやりとしている。


「なんだ。点くじゃん」

「おかしいな。ねえ、ヒロくん、私目がぼやけてるんだけど。……寝起きだからかな?」

「マジかよ。直んなかったら病院行けよな」

「ありがとう。ヒロくんは優しいね」


 近づいてくる男に甘えると、突然男が悲鳴を上げた。


「うわ! なんだこれ!」

「どうしたの?」


 男は寝室を覗いていた。彼女は寝室とキッチンを隔てる間仕切りの側に立っていた。引き戸であるそれは開け放たれている。彼との距離は一メートル。この距離でようやく彼女は男の顔が確認できた。


「どうしたのって……お前……」


 男は情けない声を出した。表情は動揺が見え、恐怖が滲んでいる。


「どうしたのよ?」

「……」


 再度訊いたが、男は答えなかった。黙って、彼女の足元を見つめてる。彼女もつられるように足元に視線を移すが、フローリングがあるだけで彼女の目には別段変わったところは見られなかった。


 彼女は不思議に思いながら、男に近寄ろうとした。足を出そうとすると、また何かを蹴った。下を見たけれど、彼女の目にはやはり床があるだけに見えた。


「もう何なの!?」


 癇癪を起こして怒りながら彼女が一歩踏み出そうとすると、男が悲鳴を上げた。


「やめろ! 顔踏むぞ!」

「だから、なんのことよ?」

「なんのことって……お前、見えないのかよ?」


 信じられないものを見たように男は目を丸めた。


「っていうか、お前なんでそんなかっこうしてんだよ? まさか、お前こいつの服……」


 言葉を詰まらせて、男は視線を下に移した。まるで本当に彼女の足元に何かあるみたいに思えて、彼女はイラついて険のある声を出した。


「ヒロくん。さっきから何なの? 何もないじゃない!」

「……ヒロくん? お前、そんな呼び方したことねぇじゃんか」


 嫌悪感のある表情を浮かべてから、男こと、岩尾博之は、はっと気づいたような顔をして、彼女と彼女の足元を交互に見て、顔を強張らせた。


「おい、柳井。裕子を殺したって、お前は裕子になれないんだぞ」

「何言ってるの? ヒロくん」


 彼女はバカバカしくて、思わず嘲笑してしまった。


「宮凪裕子は私でしょ」






              了。 






読んでいただきありがとうございました。

この小説はエブリスタというサイトで掲載中の小説の三人称バージョンになります。(エブリスタでは一人称)そっちも気になるという方は是非読んでやって下さい。

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