己との契約
待て待て待て待て待て待て待て待て
「ちょっと待てよ」
まあ夢だしな、あり得るだろ
とはいかない
「俺は今まで何度も明晰夢を体験してきたが自分が女だったことは一度も無いぞ....」
思考が追いつかない。今回の明晰夢に対する違和感がより一層深まる。
何だろうか.....
「俺は木佐壁ナキト、19歳浪人生(引きこもり)。大丈夫、記憶は問題無い。ここが夢という自覚もある.....」
自分の情報を口に出す。
これをルーチン化させる事で夢の中で自己を知覚し、「これは夢だ」と理解させる事ができる。
周りを見渡してみると数百メートルほど先に森が開いている所を見つけた。
「ま....こんなところで悩んでいても仕方無いな、とりあえず森を出るか」
そう思い歩を進めようとした瞬間、背後から凄まじい物音を立ててこちらへ飛びかかってくる生物を肌で感じ取った。
思考というプロセスを飛ばし、本能で咄嗟に身をかわす
しかし襲いかかってきた相手の方が速さは勝り、急所は免れどナキトは相手に体当たりされ、宙を弧を描きながら舞い落ちた。
「ぐっ....はぁ!!..う、何だ....何が......」
襲ってきた正体はライオン、を一回り大きくしたような怪物だ。
こちらを獲物を見るような眼で睨んでる。
「クソッ...次から次へと....」
思考する暇も与えてくれず怪物は一度捕らえ逃した獲物、ナキトに再度襲いかかった。
「終わった.....」
思い切り目を瞑る。醒めろ!夢!
「醒めないよ」
声がした。高い声、声の発信源は
自分の声...?
怪奇現象は止まってくれない。
声がすると同時に時間が止まる。いや遅くなったと言う方が適切か。時間を積分したような感覚だ。
「は?」
訳も分からず素っ頓狂な声を上げた。
「君はもう夢から醒めないよ。私と契約してみないか?君に面白い力を与えよう、その代わりもう夢から醒める事は無い」
「いきなり何を言って....」
自分が自分と会話している?いやこの身体、この声を自分と呼べるのか?また契約と言いながら何方に転ぶにせよ夢は醒めないと断言されている。何なんだ?これも夢なのか?分からない分からない分からない分からない、分からないが.....
「簡単だ。力と引き換えに夢の中で一生を過ごす。これだけだ」
俺にとって現実なんてクソ食らえだ
社会からの逃避願望から浪人という選択を行い、引きこもりの生活を続けた。親は俺の引きこもりをきっかけに関係が悪化し離婚。一般家庭と比べてアドバンテージを見出す事が難しいレベルで最悪だ。
そんな世界に戻るぐらいなら
「いいぜ、その契約。交わそう」
自分の声を聞いた自分は笑いながら自分に言う。
「良いね、その意気だよ。それでは契約通り、力を与えよう。」
自分の声を聞いたナキトは頭に、脳に何かが叩き込まれるように流れ込んでくる感覚を感じた。
「へぇ....」
ナキトが溜息を漏らした直後、当然の領域に片足を入れようとしていた時間の流れが元に戻る。
元に戻ったと同時に目と鼻の先の怪物が物理法則に従いナキトへ再び襲いかかった
「ありがたく使わせてもらおうか」
ナキトは全身の力を思考に回し、与えられた力を使う。
空間操作
名前の通り空間を操作する能力
操作できる範囲は自分の周囲1mだが、ありとあらゆる操作を可能にする汎用性の高い能力だ。教わっていないが、何かが頭に流れ込んできてからはっきりと理解できる。
ナキトは怪物を止めるような形で手を前に出す。
「消えろ」
直後、突き出した指先から1m先の範囲の空間がごっそりと消えた。
襲いかかってきた怪物は成す術無く"無"に飲まれる。
「おいおい、余りにもチートすぎねえか...?」
当事者のナキトは怪物がいなくなった目の前を呆然と眺めながらそう呟いた。
なんてこったい、これもう無敵なんじゃねえのか?そう思った直後、ナキトは不意に激しい倦怠感に襲われた。
「は......?」
力を全て失ったかのようにうつ伏せに倒れるが身体の痛みを感じない。それ以上に眠気が襲ってきた。突然の眠気と倦怠感に抗う事もできず、何が起きたのか思考する暇も非ず
眠りにつく