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智の本音

 もともと蔵田智(クラタサトシ)が知り合いだったのは、戸苅来也(トガリライヤ)の友達の方だった。今は名前も曖昧だけれど、大学のサークルで一緒だったそいつが、ある日飲み会に連れてきたのが来也だった。格好いいけどチャラくて、お開き後、駅まで一緒にと思っていたら、彼女が車で迎えに来ていたのだ。モデルみたいに美人でスタイルのいい彼女にしなだれかかってバイバーイと手を振られた時には、コイツとはこれきりだろうなと思った記憶がある。


 ところが何かの導きなのか、初めて会ってから二週間後ぐらいにカフェで偶然に再会したのだ。しかもあの時のスレンダー美女に頭からモヒートをぶっ掛けられた瞬間に。

「バカっ、死ねっ」

 えらく威勢よく罵られている兄ちゃんがいるなと思ったら来也で、ミントの葉をあちこちに散らせながら、「あ、えーと久しぶり。名前忘れたけど」とこっちを見て手を上げてきたのだった。智は思わず笑ってしまった。もしかしてコイツ、ただのバカなのか。そう思ったら、ほっとけなくて店員さんにおしぼりをもらい、ミントの葉を一つ一つ剥がして一緒に買い物に行った。それから2年ちょっと。知り合って間もなく智が彼女から振られたこともあって会う頻度が高くなり、今に至る。

 その名も忘れた共通の友達が言うには「あいつの家金持ちっすよ」ということになるのだけれど、住んでいるのは小綺麗だけれど小さなアパートだし、生活もことさら派手には見えない。ただ、ろくに働いてもいないのにちゃんと生活は成り立っているようだし、小さな一人暮らしの城は立地を考え合わせると、家賃の相場は見当がつく。チャラくて、お調子者のところはあるけれど、どこかお坊ちゃんぽくて、お金に苦労していないというのは頷けた。ただ智にもどの程度の「金持ち」かはわからないし、敢えて来也から言ってくるでもないので、あまり触れないようにしていた。そんなことを知り尽くさなくても、お互いの距離感は心地よい位置を見つけつつある。まるで床にバッテンが書いてあるように、隼人を含めた3人が一定の距離感で接し合う感じが、智はすごく好きだ。

 でも女とはそれはできない。きっと女にはバッテンなんかなくて、絶えず動き回っているのだろう。男が様子を見ながら距離を測っているというのに、勝手に動いておいて「違う」と腹を立てる。本当に理解しがたい生き物だった。母親は父親の文句をすぐ言うし、母、姉、妹の食卓となったら男など近寄れない。だらだらとおしゃべりをしながら、夫、彼氏、会社の上司、とにかくあらゆる男の文句を言い連ねている。そしてそれに飽きると、今度は気に入らない女がやり玉に挙がる。

 もし女全員の性根が彼女たちと大差ないのであれば自分は思い切り自分が好きだと思える女と一緒にいたい。そうしたらきっと多少女の業を見せられても納得行くかもしれない。その点では免疫があってもいいはずの智だけれど、やっぱり家族と彼女は違う。家族は文句を言いながらも、仕方ないと思ってもらえるけれど、他人の女はそうはいかない。


 来也はスレンダーな彼女から振られた後でも女関係には困ってない。彼女ができては別れを繰り返すところから見ても、決して出会いがないわけではないのに、なぜか隼人の「部活」に参加している。智は来也がこの男3人の距離感を心地よく思ってくれているなら嬉しいと思う。それはそのまま自分の気持ちでもあるからだ。

『智くんごめん。なんか今日ショップでトラブルあったみたいで、ご飯行けなくなっちゃった。今度おごるから 来也でしたー』

 オッケー、仕事頑張って。ドタキャンされても心は波立たない。もしかして嘘かもしれないけど、まぁいいかと思える。妙な不安も嫉妬も拗ねることもない。どうして相手が恋愛対象になると途端に、全てが好き勝手に吹き出してしまうのだろう。

 さて、今日は何をしよう。来也があまり好みそうもない映画を1人で観てこようか。それとも、そろそろ行こうと思っていた美容院にでも行くか。その両方をするか。

 だらだらと支度をしながら、台所で麦茶を飲んでいると、母親が「何、出かけるんじゃなかったの」と目を丸くしながら入ってきた。

「そっちこそ、パートは?」

「うん、景気悪いみたいでねぇ。最近シフト減らされてんの。今日はパート仲間でファミレス愚痴会。フリードリンクがいいのよ」

 似たようなことを、どんな集まりでもしているものだと思うと智はおかしくなる。

「あぁ、そうそう。別にうちは構わないからね。イマドキの若い人たちはそう結婚にこだわらないっていうのわかるし、まだまだ家にいてくれてもいいから」

 智は母親の気遣いを複雑な思いで受け止めた。もしかして女3人、弟を労わるという方向で結託したのだろうか。そうだとしたら、有難いと同時にいたたまれない気持ちになる。


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