男どうし
「何だお前、あの赤シャツマタドールと連絡取り合ってたのかよ」
「って言うより連絡きてるっていう感じだよ」
今日は、隼人、智、来也の3人で温泉施設に来ていた。智が車を出して一時間弱。いろいろな風呂に入れて、飽きたら内容充実の飲食コーナーで時間を過ごせ、仮眠室も完備した二十四時間滞在可能の施設だ。珍しく隼人が代休を取れるというので3人の予定を合わせたのだ。
「男バカにしてるし、アイツ何様とか散々言ってなかったか?」
「そこまで言ってない。それ隼人くんの感想でしょ」
「あの気遣いはうざい、じゃなかった?」
「智くん、正確に思い出さなくてもいいから」
来也は追求されるのが嫌なのか、広い浴槽を泳ぐように移動して行った。
「あぁあー、そろそろAVとか観るの卒業してぇな。何で俺には誰もこねぇんだよ」
「あれ、舞衣さんから連絡きてたでしょ」
「あ、あぁあれな」
隼人はゴシゴシと頭を掻いて、眉間に皺を寄せる。
「それより、彼女できたらAV見ない派ですか、隼人さん」
「え、智は見るのかよ、マジか。アツいな」
「違いません?それとこれって」
「虚しいんだよ、一通り気持ちよくなって終わるだろ?そのあとDVD停止して、ゴミ片付けてズボン履いたりするの切ねぇよ」
「んー、ちょっとわかりますけど、知らないふりするんですよ。虚しいって気付かないふりして淡々とこなすと案外平気ですよ」
「智、お前って、格好いいな」
バシャバシャと水しぶきを上げて、来也が戻ってくる。
「もうそろそろ上がろうよー。ビール飲も」
10種類ある風呂のまだ4つめだ。
「お子様にはこの良さわかんないかなぁ。先にジュース飲んで待っててね」
「ジジイには付き合いきれないよ」
来也が呆れたように立ち上がって、ズンズンと出口に向かって歩いて行った。小さな尻がキュッと上がっているのが見えて、智はそのスタイルが羨ましい。
「智、悪かったなぁ。バラジーの件」
「いや、実は正直途中からちょっとどうでも良かったんで」
智は言いながらも、何となく違和感を覚えた。そんなに真剣に好きだったわけではないけれど、どうでもいいのともちょっと違う。
「最近さ、街歩いててもどーでもいい男がまあまあの女連れて歩いてんじゃん。何であいつらがうまくいって俺らがダメなのかよって」
「どーでもいい男とまあまあの女のことはいいじゃないですか、別に」
智は思わず笑ってしまう
「そんなこと思いつつさ、男同士ウダウダとつるんでるのが、実は一番ハッピーだったりするんだよなぁって思ったり」
「あ、わかります。それは」
「わかっちゃいけないんだろうけどなぁ」
隼人はざばんと勢いよく立ち上がり、タオルを手にワシワシと5番目の湯へ歩いていく。智はそろそろ自分も出て、来也の隣でレモンスカッシュでも飲もうと立ち上がった。当たり前だけれど、周りはみんな男だ。ここにいる限り、パトーナーがいてもいなくても一緒。みんな同じようなもんぶら下げて、似たような顔でお湯をかけている。だから大丈夫なんだよなと思える。女が存在していることがわからなくなるような空間があちこちにあるから。
「わかっちゃいけないんだろうけどなぁ」という隼人の声がよみがえる。智は少しのぼせたようだ。思考が散らかってぼわんと膨張したまま周囲を浮遊していた。
「遅いよーって、あれ?まだおじいちゃんがんばってんの?」
アロハシャツのような施設着を来た来也は、すでにビールのジョッキを空けていた。湯上りの一杯ですでに気持ちよくなってるらしい。
「10種類制覇するつもりかなぁ、隼人さん」
「マジでー、もう置いてこうよ」
もう一杯飲むという来也と連れ立って食券を買いに行く。智は何となく予定を変えてリンゴジュースにした。
「でもよく付き合ってくれるよなぁ、智くん。飲めないんじゃ、楽しみ半減じゃない?」
「そうでもない。結構楽しい。リンゴジュースでも」
「ボクらのこと大好きかよっ」
「そうだなぁ」
「そりゃゲイ疑惑出るよ」
「違うとは思うんだけどなぁ」
「そこはっきり否定してよ」
ケラケラと笑う来也は若くて可愛い。短い付き合いだけれど、智とはずっとこんな風に気楽な仲でいたいと思う。