第四のオトコ
「何、いつもこんな風につるんで今後の作戦とか練ってるわけ?」
呆れたように呟いたのは、倉沢尚輝。今回の部活(という名の合コン)のゲストで、由希から「4人で」と指定されたために、急遽呼んだ隼人の友人だ。
「女に気ぃ使って飲んで、そのまま帰るとモヤモヤってするだろ。ここでリセットだよ」
枝豆を口に放り込んで、畔柳隼人は生ビールを流し込む。
尚輝はプロカメラマンを目指して助手として修行していたが、体調を崩して断念。今は小さな商社でルートセールスをしていると言う。来也の前振り通り、即席のスマホ講義は女性たちに好評だった。
「隼人、お前そんなに気ぃ使ってたかよ」
「使ってたわ!お前はいいよなぁ、武器があるし」
尚輝はファミレスではフリードリンクを選択していた。あまりお酒は強くないらしい。
「オレ、飲み物持ってくるー」
着いてすぐ、酔い覚ましなのか尚輝はすでにジンジャーエールを飲み干していた。智はホットジャスミンティーにふうふうと息を吹きかけて冷ましている。
「なんか今日は空々しい会話を延々聞かされて参ったよ、ボク疲れた」
「由希ちゃん、智の気を引いてたのか?」
「いや、違うと思いますよ」
由希が連れてきた「元バイト先の友達」というのは、どんな繋がりなのか由希の援護射撃のようにピーチクパーチクとわざとらしい会話を繰り広げて、場を白けさせていた。いや、白けていたのは男だけだったけれど。
「由希、流行の洋服なんでも似合うからなぁ」
「えー、でも痩せすぎって言われちゃうし」
「羨ましいぃ、私のお肉あげるぅ」
「えー、そんなにお肉ないくせに。ねぇ、太ってないですよねぇー?」
女がホイホイとドリブルした球が突然振られる時の恐怖と言ったら、智は挙動不審になるのを抑えられなかった。
「女の会話ってあんな感じだったっけ?オレ、だいぶ最前線から遠のいてるみたいだわ」
ぐったりと椅子に座ったのは、コーラを手にした尚輝だ。コップすれすれに注いでいる。
「いや、尚輝巻き込んですまん。あれは女の基本形ではない、と思う」
尚輝のスマホ写真講座は女性陣を虜にしたけれど、そこでも、
「やっぱモデルやってるだけあって由希って写りいいわぁ」
「由希の隣嫌だぁ、顔大きく写っちゃうもん」
「由希そのリップいいねー、さすがモデル」
と浮ついた会話の応酬だった。
「もうバラジー由希はいいよね、隼人くんも智くんも」
来也は心からうんざりしている様子だ。
隼人は智にチラリと視線をやる。
「すみません、なんか自分が幹事の時に」
「いや、智のせいじゃない。来也がいけないんだぞ、智を幹事にするとか言うから」
「ボクはバラジーはやめとけって言ったよ」
「人物撮るのもともと得意じゃないんだけど、あの読モに今度自分を撮ってよとか言われて参った」
尚輝がぽつりと呟く。
「撮ってもいいのよってやつだろ」
「なんかカメラ向けると毎回同じキメ顔するんだ、気持ち悪かったなぁ」
尚輝の年齢よりも幼く見える顔が歪んだ。
「今日短パンじゃなかったね。長いパンツも持ってんだって思ったよ」
「たぶんあの子より足が綺麗な子がいたからだよ。ほら、白いショートパンツ履いてた子いただろ。膝もツルツルで足の形も良かった」
尚輝がスマートフォンの画面を指でスライドし、女性陣全てを収めた一枚を出す。
「この胸のでっかい子」
テーブルに隠れて足までは見えないけれど、隅にいるブルーのブラウスを指差している。
「すごい観察力。さすがカメラマン」
「スタイルは一番良かったなぁ。ちょっと顔が大きいのが残念。顔立ち地味でも化粧で何とかできる可能性あるけど顔の大きさはなぁ」
それでも尚輝は「彼女いない歴、オレもそろそろやばいし、また人数足りなかったら呼んでよ」と言うあたり、懲りたというわけではなさそうだ。ファミレス反省会にも不思議がりながらも、素直についてきた。
「男同士でファミレスって案外面白いな」
と炭酸系を全種類制覇して「新発見だ」と枝豆を口に放り込んでいる。
「次どうする?由希ちゃんはもういいぞ」
隼人が二杯目の生ビールを注文する。
「来也、何かツテないのか」
「んー、ないこともない」
来也は歯切れ悪く答える。智はその様子を見て、まだあの人と連絡取り合ってるんだ、と思う。