男同士の本音
「えっ、何。じゃあ男増やせってこと?」
戸苅来也と蔵田智は、時々平日の昼間に会う。映画だったり、カフェで話をしたり、と他愛もないことだけれどお互い気を使わないでいられる存在なので気楽だ。今日は、前から気になっていたカフェに2人で来ていた。
智はそういう友達がいるから余計に、女と縁遠いのかなと思うけれど、男同士でいたほうが断然気楽で楽しいのだから仕方がない。
「ん、原島さん、今度はバイト仲間の女の子連れて行くからって言うんだ。でちょうど独身で年の近い子が4人いるからって」
「なぁんだ、隼人くんのお気に入りロリちゃんは来ないのか」
会社員でも平日休みがある智は、ショップ店員をしている来也と昼間ちょくちょく会えるけれど、電気工事の会社で作業員をしている畔柳隼人は完全なる土日休みなので「部活」(という名の合コン)以外ではほとんどつるむことはできない。
「やっぱり由希ちゃん、バイトしてるんだ。読モだけじゃ食っていけないよね」
「いや、元バイト仲間って言ってたけどね」
「それボクも聞いたよ。バイト何してんのって軽く聞いたら、コーヒーショップやってた、前は、とか言うの。本当かなぁ」
来也は、黄色野菜のコールドプレスジュース、智は緑黄色野菜のスムージーを飲んでいる。オーガニックスーパーフードプレートランチというもそもそしたものを食べたばかりで、濃厚な野菜ジュースがもったり喉に張り付いてくる。2人して、さっきから水ばかり飲んでいた。
「何で嘘つくのかな」
「モデルで生活できてますって言いたいんだろ、どうせ。そんなの気取ったって現実変わんねぇっての」
由希のほっそりした手足や透き通る肌に浮かぶくっきりした瞳は魅力的ではあるけれど、会話をしていても本音じゃないのかなと思えることがちょくちょくある。
「隼人くんはオススメしたいみたいだけど、ボク的にはあんまりかな、あの子」
来也が珍しく真面目なトーンになる。
「いるんだよ、お客さんでもさ。ああいう子ってわざわざ生きづらくなるようなこと、自分でやっちゃうの。もう無意識なんだよ。取り繕うし、嘘つくし、むかつくと友達とか大事な人とか関係なく勝ちに行こうとしちゃう。失礼なこと言ってから反省するんだよ。すっげー面倒」
智は昨日の由希とのやり取りを思い出す。
“でも智くんショップ店員なんだから、流行の服とか敏感でしょ”
あ、間違えてるな。智はちょっと迷ったけれど、次も会うから曖昧にしておくと自分も嫌だなと思い、なるべく柔らかく否定した。
“ショップ店員は戸苅来也の方だよ。僕言ってなかったかもだけど普通にサラリーマン”
迷って最後に苦笑いの絵文字をつける。
“ああ、そうそう来也”
やっぱり自分には興味がないみたいだな。智は好きに完全に傾いたわけではなかったけれど、失恋したような気持ちになる。そもそも隼人が盛り上がるから途中からはそれに乗る形で何となく走ってきただけだ。
間違えたこと、何で認めないのかなぁ。
来也の言葉通り、本音を見せると負けと思うようなタイプの子かもしれない。
「あ、そう言えばいたなぁ。隼人くんの友達で彼女いないっていう元カメラマン」
来也が記憶をたどるような顔つきになり、「ちょっと隼人くんに聞いてみよ」とスマートフォンを操作し始めた。
「元カメラマン?」
「いや、元助手だったかな、簡単スマホ写真教室みたいな感じで場を盛り上げてくれて結構便利だって」
「便利っていう言い方」
智は無邪気な来也の発言を聞くと、羨ましくなる。
「でもさ、女の子好きじゃん。カメラとか。でも小難しい本とか読みたくないじゃん」
仕事中の隼人からはもちろんすぐ返事など来ず、それから智と来也はこだわりあるレイアウトが人気の新しい本屋に行ってみた。来也は客商売なのでニュースポットには敏感だし、智はネットで新店舗の情報はマメにチェックしているので、行きたいところはブックマークして来也に付き合ってもらうことが多い。姉も妹も「デートスポットはたくさん知ってるのにねぇ」と哀れな目を向けつつも、オススメの店をよく聞いてくる。
やはり男同士の方が気楽だ。黙っていても気にすることはないし、ご機嫌を取らなくてもいい。好きな時に解散できるし、正直な感想を言い合える。でもそんな風に気楽な関係になれる女の子がいても、そもそも恋愛対象にならない気がする。
恋愛ってやっぱり労力がいるものなのだ。