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智の勇気

 畔柳隼人(クロヤナギハヤト)が送れ送れとあまりにも急かすので、反省会のファミレスで、蔵田智(クラタサトシ)はメッセージをひねり出していた。

「おい、来也(ライヤ)も考えろよ」

「えー、今日楽しかったね。今度は2人で会おうよ、で良くない?」

 来也は携帯ゲームに興じていてつれない。

「アホか、軽いジャブ程度でいいっつーの」

「じゃあ楽しかったね、でいいじゃん」

「それじゃあ次に繋がんねぇだろ」

「隼人くん、人のことばっか心配してないで自分も真理(マリ)ちゃんにメッセすればいいじゃん」

 隼人はそこでグッと詰まって来也を睨む。

「まさか、連絡先ゲットしなかったの」

「ていうか、軽く拒まれたんだよ」

「ははは、振られてやんの。やっぱ22に30のおじさんはダメだったか」

「29だ、しかも軽くだぞ。みんなが交換してる時にさあ次って感じで行こうとしたら、何かトイレ行きたいとか言いだしてさ」

「完全に拒否られてんのー。ウケる」

 来也はとうとうゲームをやめて、

「あ、じゃあ次の幹事を智くんがやればいいじゃん。そしたらバラジー由希ちゃんと何度かラリーできるし」

 と身を乗り出してきた。

「おお、それ名案。さすがだな、来也」

 隼人も身を乗り出す。2人の期待に満ちた瞳を見ていると、智も観念し、

「次の幹事は僕になりました。今日すごく楽しかったので次も一緒のメンバーでどうですかって、どうかな」

 智は文字を操りながら、最後ににっこりマークの絵文字もつけた。

「何か堅くない?絵文字つければいいってもんでもないよ」

「いや、ここは来也と違ってまともだってところをアピールしたほうがいいからな」

「またボクをディスるぅ。って言うか、また同じメンバーでやるの?勘弁してよ。マタドールかロリータの選択肢厳しいよ」

「いや、二回も真っ赤なブラウスってことないだろう、安心しろ」

「そういう問題じゃないっての」

「え、じゃあ別の人連れてきてくださいって書いたほうがいい?」

「それじゃあいかにも由希ちゃん狙ってますって魂胆見え見えで感じ悪いかもしれないから、その辺は曖昧にしとこ」

 何をどう曖昧にするのだろう。智は不安になるが、言われてみたら「由希さん以外は別のメンバーにしてください」なんて失礼なことはどう頑張ってもうまく伝える自信はない。

「隼人さんはロリータ真理ちゃん頑張っちゃうわけ?またトイレ行きたくなっちゃうよぉ」

 隼人が来也の脇をぎゅっと掴む。

「ぎゃぁ、やめてよー隼人くん。そういうの反則」

 身をよじって抵抗する脇で、智は文面を何度も推敲する。「次も一緒のメンバー」って限定しなくてもいいか。「また一緒に飲みたいので都合のいい日を教えてください」と変換しようとして操作していると、ふざけた来也がいきなり脇腹をつついてきて、智はスマートフォンを取り落としてしまう。

「もーお、何だよぉ」

 足元に転がったスマートフォンを拾い上げると、すでに送信済みの表示が出ていた。

 「次の幹事は僕です。まだ飲みたいのでどうですか」というどうしようもない文章がすでに手元を出発していた。

「わぁ!!!」

 思いの外大きな声が出て、一瞬店内がシンとする。が、すぐに喧騒は戻り、呆然と佇む智が残される。

 そこへ返信を知らせるメッセージが届いた。慌てて文面を開くと、「もしかして今から、ですか?ちょっと今からは・・・。また連絡します」と極めて事務的な文字が浮かんでいた。

「あー、もうダメだ」

 智が頭を抱えていると、来也が横から覗き込んできて、「別にいいじゃん。また連絡するって言ってるし」と慰めてくる。

「これって断ってるってことだろ」

「どこでそうなるわけ?」

「きっとあっちも女3人で今頃グダグダ言ってるんだよ。あー、あの冴えない男から連絡きたよーウザいわとか言ってんだよぉ。面倒だから返信だけしとくって笑ってんだよぉ」

「智くん、マイナスオーラ発しすぎ。怖い」

「しかも智、あっちもグダグダ言ってるってことは、こっちもグダグダしてるって言いたいのか?」

「隼人くんボク敢えてそこ触れないでいたのに〜」

 まぁいいか。智は早々に諦める。あの突然の失恋からどうも自分の恋愛運は皆無のような気がする。

「とりあえず、次の部活は智くんが段取りしてね。お店選びは隼人くんがするから」


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