BBQの後
「なぁ智、お前あの由希ちゃん、好みのタイプだっただろう」
畔柳隼人がビールを煽って息を吐く。目の下から頬までが赤く染まっていた。
「あ、それボクも思ったぁ。ヤラシそうに見てたもんねぇ、ホットパンツの足」
「バカ、見てねぇし」
蔵田智はおしぼりを顔に当てながら、否定したけれど、実は最初見た時に胸が踊った。
バーベキューを男女6人で楽しんだ帰り、いつものようにファミレスで「男だけの反省会」を開いている。準備から片付けまで、率先して手伝ってくれた隼人はいつもより酔いの回りが早いようだ。
「それにしても、智の手際、さすがだなぁ。あれで1人もなびかないって何だよ」
「食ってただけだったもんなぁ。誰も手伝わねぇし。最近の雑誌には書いてないわけ?モテ女の極意みたいなの」
「来也、何もしてねぇお前が言うな」
「ボクは苦手だから邪魔になると思って〜」
「嘘つけ、いちゃついてたくせに」
「相手してたんだよ。2人とも火がどうの、炭がどうのって女に目もくれてないからさぁ」
「何が智くん、モテキングになって下さいだよ。あれじゃあただの店の人だよ。散々準備させて終わったら片付け、全部やらせてさ」
「隼人さん、店の人って言い方ないっす」
「あ、いやオレは来也がもうちょっと智を引き立てるかと思ってたからさぁ」
そこに智のバナナとチョコのプリティパフェが運ばれてきた。
「お前、やっぱ乙女キャラわざとなのか」
「ヤケパフェですよ、今日もダメだったし。僕、家族からゲイ疑惑かけられてんですよ、あまりにも女っ気ないから!」
「えー、2年彼女いなくてそれ?なら隼人くんなんて4年なんだから完全アウト」
「来也、ここお前のおごりな」
ええ、勘弁してよーと来也が泣きつく横で、智は先ほどから話題になっている原島由希と言う女を思い出す。読者モデルをしているということで、スタイルが良く顔も可愛かった。クリクリした目が良く動くし、大きな口は赤いグロスが良く似合っていた。口元のホクロも色っぽい。ただ肉付きにはやや欠けていて、胸は小さそうだったけれど声は可愛いかった。
「智くん、手際いいね。遊んでばっかの来也とは全然違う〜」
来也はズケズケとものを言うくせに、女の子とはすぐ打ち解けて、みんなから早々に「来也」と呼び捨てにされていた。その中で由希はいち早く智のことを、蔵田さんから智くんに言い換えてきた。智は久々に女の口から下の名前を読んでもらった感動に浸る。
「でもあの子結構プライド高いと思うよ」
来也の言葉に智は我に返った。
「そうかな」
「一緒に来てた友達が学生時代のニックネーム言ったらキレてたじゃん」
智は一通り焼きを終え、テーブルで一息つこうというときに、由希が「もうその呼び方止めてって言ってるじゃん」とピリッとした空気を発した瞬間を確かに覚えていた。
「学生時代そう呼ばれてたの?」
とりなすように隼人が軽く口を挟むと、
「そー、原島だから、バラジー。昔の友達はみんなそう呼んでるんですよ」
友達が何てことないように嬉々として喋っていると、由希はすっと立ち上がって「トイレ」と言い残して行った。友達の方はそういう態度に慣れているのか、「あ、そう」と缶チューハイを飲み干す。
智は一瞬、ついて行ったほうがいいだろうかと思いを巡らせた上で、いやトイレに男がついて行ったのでは迷惑かと思い直した。
「確かにバラジーってセンスゼロだけど、あそこまで露骨に場の雰囲気壊すことないのに」
来也はどこまでも屈託がない。
「でも智はいい印象だったんだろ?案外名字変えたい一心で結婚願望強かったりして」
「それ逆に面倒じゃない?ああいうプライドエベレスト級女は結婚相手の条件も厳しそー。しかもあの読モ押し、うざかったわー」
隼人は、智にぜひ彼女ができてほしいと純粋に願っているようで、持ち上げようとしては来也に邪魔される、を繰り返している。
「あー」来也がずっといじっていたスマートフォンの画面を凝視する。
「何だ」
「ごめん、その読モ由希ちゃんからメール」
智は一気に気分を害した。来也は要領がいいし、顔も可愛くておしゃれだ。フリーターなのとチャラい印象で損しているけれど、女のウケは総じていい。
「来也、何がモテキングになってくださいだ、お前がモテてどーすんだよ。罰として次もお前仕切りなー」
「隼人くん、それイジメ」