その気、どの気?
合コン後、反省会という名の愚痴会を開催するのはいかにも女というイメージがあるけれど、男もそういうことをしている。特にファミレスはお酒もあるし、つまみも充実している上に安いので畔柳隼人と戸苅来也、蔵田智3人の間では定番になっていた。
「来月の予定、管理くんにアップしとけよ」
管理くん、とはスケジュール管理アプリで登録したメンバー各自が入れたスケジュールに合わせ、瞬時に予定の合う日を表示してくれるので便利だ。隼人が一番に見つけてきて、もう3人の中では定番になっている。
隼人は、弟がいる長男らしく兄貴肌で気遣いも行き届いている。ただ、女にもその兄貴キャラを押し付ける傾向にあるので、最初は頼もしいとすこぶるウケは良いのだけれど、やがて「何でもかんでも口出さないでよ、うざい」とキレられることが多い。彼女いない暦が4年、と3人の中で一番のご無沙汰だ。
今回の3人の「部活」(合コンのことをこう呼んでいる)も不作に終わった。小花柄ブラウスのうざい女と、ヤンキー上がりみたいな下品な女、子持ちのバツイチをひた隠しにしようとした女、とろくなものではない。
「最近ボク、ああいう飲み会に来るような女には、理想の子いない気がしてきた」
来也が元も子もないようなことを言い出す。
「彼女いないくせに贅沢言うな」
隼人が来也を睨んだ。
「確かに、来也は理想が高いからなぁ」
智は抹茶のパンナコッタにそっとスプーンを差し込んでいる。
「ねぇ、智のその乙女キャラってわざと?だったら全然刺さってないよ、女には」
来也は3人の中では24歳で最年少だけれど、先輩にもタメ口でそれが許されている得なキャラクターだ。
「え、智のそれってキャラだったの?」
隼人が信じられない、と目を剥く。
「隼人さん、勘弁してくださいよ。来也の言うことまともに聞かないで」
来也は嬉しそうに肩を揺らす。
「それにしてもさぁ、こんないい男が3人もいるっていうのに、世の中の女はどこに目ぇつけてんだろ。あ、いい男はボクだけか」
「来也、テメェいい加減にしとけよ」
苦笑いの隼人がスマートフォンの画面を見つめて「お」という顔をする。
「まさか、誰かからメッセ?」
来也が身を乗り出して、隼人の手の中の画面を確認しようとすると、隼人が身をよじってそれを避けた。
「隼人さん、まじすか。どれ?どの女?」
智もパンナコッタをそっちのけにして身を乗り出す。
「あー、ああ、ああ」
「何それ、妙な焦らしやめてよ。どの女もイマイチだったって文句言ってたくせに」
来也が不貞腐れて椅子に沈み込むと、
「イマイチなのは変わらん。小花だよ」
と隼人が画面を見せてくる。
「今日は楽しかったです。またご飯とか誘ってくださいって、ご飯とかって何、とかって」
来也が女の声色を使っておどける。
「いいなぁ、隼人さん。早速誘われてるし」
「おい、誘われてねぇだろ。これって私のこと誘ってもいいですよってことだろ」
「高飛車ー」
来也がのけぞる横で、智はがっかりしたようにまたパンナコッタに戻った。彼女いない歴2年。この前姉貴からはマジマジと「もしかして恋人が男だから言えなかったりするの?」と聞かれた。母と姉と妹を代表して聞いてきたらしい。否定しておいたけど、信じたかどうか定かではない。エロ雑誌でも見えるところに置いた方がいいのかと本気で悩んだ。
「そうそう、次は智くん、君がスターだから」
「そうだ、この前の部活で知り合った子がバーベキューしたいってさ」
来也がトークアプリでやり取りをしている女とそういう話になったと言う。
「アウトドア派の女の子なんていたかな」
智は、この前の部活のメンバーを思い出すけれど、いかにもバリバリ働いてますといういでたちで自分たちのことを鼻にもかけない感じだった。智は建築関係の会社で事務をしているけれど、基本的には服装は自由なのでスーツとは無縁だ。
「アウトドアじゃなくてもバーベキューはやりたいの。女ってそういうもん。雰囲気だよ」
智はそれでも少し気持ちが浮ついてくる。1人でもできないことはないけれど、やっぱりみんなでワイワイやるのが一番楽しい。智にアウトドア気質を叩き込んだ父親は、今では庭でバーベキューをするにも面倒臭がる。
「智くん、モテキングになっちゃって下さい」
来也がニヤつく横で、隼人は小花への返信を頭を掻きむしって悩んでいる。
「その気ないんだからそんなに悩むことないのに」来也がしらけた声を出した。