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部活男子!

「駐車場見つかった?」

 ファミレスのボックス席で、畔柳隼人(クロヤナギハヤト)戸苅来也(トガリライヤ)は、遅れてきた蔵田智(クラタサトシ)を迎えた。お酒が飲めない智は常に運転手だ。

「いつもの安いとこ運良く一台だけ空いてたから、そこに入れました」

 革のキーケースに車の鍵を丁寧に収めて、智はテーブルに広がったメニューを覗き込む。

「車出してくれたお礼に奢るから、じゃんじゃん頼んでよ」

 隼人が智の肩をとって、強引に揺らす。

「いやいや、居酒屋でコース料理食べたじゃないっすか。もう結構お腹いっぱいっすよ」

 隼人から逃れて苦笑いをする智は、それでも「スイーツなら別腹かなぁ」とメニューをめくる。

「そう言えば、今日のコース料理、炭水化物多くなかった?焼きそばの次にチャーハンきた時はマジかって思った。ウケた」

 来也がスマートフォンをいじりながら、呑気な声を出す。

「お前なぁ、急に予約押し付けといてそりゃないだろ。店探すの大変だったんだぞ」

 隼人は、反対側に座っている来也の頭をぐしゃぐしゃといじくりまわした。

「いやいや、すげー感謝してますって」

 来也は逃れるように、尻を滑らせて智の方に移動する。来也を呆れ顔で見つめる隼人は、呼び出しボタンを押した。

「決まったよな、注文するぞ」

 覗き込んだ智はまだ「んー、どうしよう」と唸っていたが傍に店員が立つと「抹茶のパンナコッタ」と観念したようにオーダーした。

「あとフリードリンク1つと生ビール2つ。枝豆とフライドポテト」

「まだ食べる気?やけ食い?」

 来也の声は軽く流され、店員は教育通りのルーティーンをこなして離れて行く。

「で、どうだった?」

 隼人が身を乗り出す。その仕草を来也がちらりと確認し「どうも何も」と鼻で笑った。

「待って、その前にドリンク持ってきていい?」

 智が立ち上がると、隼人は「わかったわかった」と背もたれに身を預ける。

「全然だったっしょ、今日の部活は」

「俺はな、智は分かんねぇだろ」

 隼人と来也と智は、男女まみえる飲み会、合コンのことを「部活」と呼んでいた。隼人の弟と来也は同級生のため2人は昔からの知り合い、そこに来也の友人の智が入って、彼女いない歴を卒業しようと結束した3人だ。

「俺たち恋愛部だから、部活動だよ、これは」

 合コンというワードをことさら嫌がった隼人が勝手に命名し、仕方なく来也と智はそれに付き合っている。部活で知り合った女の子はたとえ脈がなくても次の活動につながるよう誰かが連絡先をゲットというチェーン作戦で、今では月に2,3回は部活のために集合していた。そして活動後の反省会も毎回ご丁寧にファミレスで開催している。

「特にさぁ、二宮舞衣(ニノミヤマイ)、あれは完全にNGだよ」

 来也がスマートフォンの画面を隼人に見せる。そこには二宮舞衣と隼人が笑顔でグラスを持ち上げている画像が表示されていた。

「結構清楚な感じで可愛いかったじゃん」

 智がティーバッグを揺らしながら、カップ手に戻って来る。視線は画像に注がれていた。

「お、智はああいうのが好みなのか」

「清楚って言うより浅いって感じだったな」

「そこまで言わなくても」

 智は姉と妹に挟まれて育ったからか、毒っ気が無くのんきだ。女性への当たりはソフトでウケは悪くないけれど、性格からは想像できないほどアウトドア志向が強く、彼女ができるとつい連れ回してしまうところが、過去の大きな失恋につながっている。

「二宮舞衣、バツイチの姉ちゃんにべったりで、全然自分の意見ないって感じだよな」

 隼人は自分の隣にいた舞衣のことを回想する。花柄のブラウスに黒いスカート、黒髪に濃いチークを見たときに一番に彼女候補から除外したのだけれど、「結婚ってさ」「男ってさ」といちいち講釈を垂れるのが鬱陶しかった。発言のほとんどは仲良しだというバツイチ出戻り姉ちゃんの入れ知恵で、それを自分の知識だと勘違いしているのが痛々しい。

「化粧も服もヤボったかったな。どこで買うんだろ、あんなペラペラでダサい小花の服」

 来也は理想が高く、美人で服のセンスがいい女が好きなので、見た目で良し悪しを判断する傾向にある。

「隼人くん画像送る?小花とのツーショット」

 来也がニヤニヤしながら隼人に聞くと、隼人が軽く睨み返す。来也は表情を変えることなく「削除ー」と指で操作した。

「今回もダメだったなぁ」

 一番彼女を欲しがっている智がため息をついて紅茶を口に含んだ。


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