白色矮星は美味しかった
「見て見てー!活火山!噴水!コロナ!」
クーが自分の体で遊んでいる。星となったことに大変喜んでいる様だ。
「ウルトラ大陸!」
「えっ」
予想外の言葉にびっくりする。
「クー、固体になれるの?」
「固体もプラズマもなんでも出来るよ!」
さすが賢者の石。万能だった。
「ところで、ウルトラ大陸ってなんだ」
「さぁ」
クーは時々よく分からないことを口にする。
現在、火星を乗っ取ってから約2時間。そろそろ地球にも俺達の衝突の瞬間が観測されているはずだ。まぁ、観測されてもその先2時間は干渉されないだろう。相対性理論万歳。
話を整理すると、地球上の異次元隔離実験室で、重力炉に魔力を注入した時、炉の何処かに欠陥があったようだ。ブラックホールに吸い込まれたような、ものすごい加速がログに残っている。
私も付いてくるので精一杯だったんだから、とクーが文句を言う。
どうやら太陽に引っ張られて、光に近い速度で、衛星軌道を描いていたらしい。
うーん、光に近い速度なら、太陽にトラップされずに飛んでいきそうな気がするんだけど…
そのまま衛星軌道を描きながら、火星に激突した。クーは一度完全に蒸発したらしい。
一方火星はと言うと、激突した瞬間にほとんどの質量を魔力に変換されていた。重力炉の暴走がログに残っている。
この時、重力炉から出て来た大量の魔力を、また重力炉に放り込んで、質量に再変換し、アランの鏡面外郭に再変換されていた。
クーはこの時の魔力をこっそり、ものすごい量を飲んでいたらしい。
現在、俺は火星と同じ衛星軌道をしながら、クーの液体を受けて真っ赤な星になっている。
その真っ赤な星は、皮肉ながら火星とよく似た姿をしていた。
衝撃で記憶が飛んでいる間に、色々起こったんだなぁ…
「ねーねー!地球の真似しようよ!」
「地球の真似?」
「ほら!体を青くしたらそれっぽい!」
クーの色が艶やかな赤から透き通るような青色に変化した。色々と多才だな。
「陸ー!空ー!あと月!」
クーの形がどんどん変わっていく。
あっという間にミニチュアの地球になってしまった。
「そしてー、草!」
大地が緑色に覆われる。
「やったー!結構簡単だよこれ!たのしい!」
すごいテンションが高い。
「ああ、俺の体が浸食されていく…じゃなくて、とりあえず戻る方法を探さなくては」
火星を早く元に戻さないと、地球の人達に怒られてしまう。
それに、このままだと危険魔術生命体として攻撃される可能性も高い。
「いっそのこと、この太陽系からトンズラするか?知的好奇心の赴くままに宇宙を旅するのも良いかもしれない…」
「やったー!駆け落ち!」
クーは時々よく分からないことを口にする。
「よし、決めた!太陽系とはサヨナラだ!火星くらい無くなったってどうにかなるだろ!男は度胸!」
「よっしゃー!」
「そうと決まれば、重力炉を暴走させて、ここから離れるぞ!」
「いっけー!!」
ばびゅん。
アランとクーは、いくつかの星に激突しながら、その質量を魔力に変え、銀河の海で漂っていた。
「あの白色に輝いてた星、美味しかったなー…もう一回食べたいなぁ…」
どうやらクーの好物は白色矮星らしい。輝く星を食べる時だけ、つまみ食いする量がケタ外れになる。太るぞ。
地球は俺達の行動を逐一監視しているらしい。地球辺りからお父さんの「返って来い」コールが電波となって大音量で聞こえて来る。
「こんだけデカくなったらもう戻れねーよ!ばーか!」
「アラン?どうしたの?」
クーは通信が聞き取れないらしい。
「お父さんが帰ってこいだって」
「やだ。得体の知れない誰かの血液なんかより、こっちの星の方がすごい美味しいんだもん」
「今までそんなもの食わせてたのか、そりゃグレるわ」
「鉄の味しかしないんだよ。たまにはお野菜?とかも食べさせて欲しかったわ」
変な話に花が咲いた。もう地球には帰らないだろう。
「よし、この星を拠点にしよう!」
太陽に似た星をひとつ選び、その衛星軌道に乗る。
「わーい!第二の母星になろ!」
クーがノリノリで生態系を形作ろうと張り切っていた。
「ちょっと待って。どうせなら原初からやってみたい」
「原初?どういうこと?」
クーが質問してきた。
「地球の生命は最初、火山と水の間で、特殊なアミノ酸が合成されたのが起源とされている。これを真似してみたい」
そうだ。確か、なんか、そういうことをwiki○ediaで読んだことある。
「うーん、それすっごい時間かからない?」
「大丈夫。時間と空間をトレードして、主観時間を加速させるよ」
そう言うと、アランが少しずつ小さくなっていった。
「なるほど。これで残った面積分の時間が超高速になる?んだね!」
「そして、火山と、水源と、炭素と、金属いろいろ作って…出来た!アミノ酸の完成だ!」
「やったー!!できた!そんで、このアミノ酸?をどうするの?」
「えっ…」
わかんない…