最優秀学生賞
「では発表します。一万二千人の学徒の中で、今年最高の学業成績をおさめた、最優秀学生賞は……この人です!」
司会の声の直後、壇上のスクリーンに私の名前が大写しになって、私は感激のあまり涙を流した。
広い講堂中からいっせいに拍手と歓声がわきおこり、空気が、床が振動する。
「やったね! おめでとう!」
隣に座っていた私の友達が、背中を叩いた。私は泣きながら笑った。
「では、壇上へ」
司会の呼び声に従って、私は壇上へとあがる。その道程でも、数え切れない人々が私を祝福してくれた。
「あらためて、おめでとうございます!」
司会が私に近づいてそう言い、また大きな拍手が起こる。私はマイクを渡されて、お礼の言葉を述べることになった。
マイクを握っているあいだ、私の頭にはこれまでの人生で積み上げてきた様々なできごとが浮かび上がってきた。
決して裕福とはいえない家庭で生まれ、よくそのことを他のクラスメイトにからかわれたこと。
はじめてテストで100点をとったときの母の嬉しそうな顔。
県内最優秀の私立中学にも行けたのに、家庭の経済的事情から断念せざるを得なかったこと。
昼も夜も、とにかく勉強ばかりしていた日々。
全国で最高の成績を取り続け、国内最高の私立高校から学費免除の申し出がされたときの喜び。
高校内でも最高の成績を取り続け、そしてこの大学から飛び級のオファーがきたときの、母の喜ぶ顔! そして今!
私はそれらの歓喜をひと言ひと言にこめて、短いスピーチを終えた。みたび、大きな拍手がまき起こった。
「やぁ、急に呼び出してすまないね」
教授はそう言って席についた。
私は軽く頭を下げながら彼らの前に立つ。
私の前には、十三人の大学教授たちが、私を取り囲むように席についていた。
「君は今年の最優秀学生賞だったね」
教授のひとりが言う。私は肯う。
「たいした成績だ。学術論文も素晴らしい。君は間違いなく、今この国でもっとも賢い人間だろう」
私は面映ゆくなって謙遜した。
「だから君を殺す」
私は耳を疑った。見ると、教授たちはそれぞれピストルを片手に持ち、銃口をこちらに向けていたのだ。
教授たちは次々と喋りだす。
「国家に賢い人間はいらない」
「なぜならば、賢い人間はシステムを高度に発展させ、様々な社会問題を解消しうる可能性を秘めているからだ」
「社会問題は解消してはならない」
「人々は幸福になってはならない」
「幸福は利益を生み出さないが、不幸は多数の利益を生む」
「人々は白痴でなければならない」
「人々は脳を使わずに生きていくべきだ」
「そのために我々は脳内麻薬を分泌させるためだけの単調なゲームを世に送り出し」
「多少賢い人々の自尊心と自己愛を、政治的な話題を提供することで満たしてやる」
「愛国心は優秀なコンテンツだ」
「人々はエネルギーの発散をコントロールされている」
「インターネットの発達はその最たるものだ」
「なるべく幼少期からポルノに触れさせ、無学な労働力人口を増やすべきだ」
「なるべく多量の時間を消費させ、現実の政治や社会構造を変えるための努力を放棄させるべきだ」
「なるべく知識欲を満たしてやり、ほんとうの意味の学習への興味を削ぐべきだ」
「なるべく同じコンテンツを使いまわし、優越感をおぼえさせるべきだ」
「これがこの国だ」
「わかったかね、君は不要なのだ」
「せめて馬鹿なままならば、幸せに生きられただろうに」
「それでは、さよなら」
「さよなら」
「さよなら」
銃声が響いた。