フィリダ国民無差別失踪事件(前編)
【ミキト・フィリダの街内】
ボクらが街へ戻ると、何やら少しざわついていた。
最初に訪れた時のざわめきとは違い、なんとなくだが、様子もおかしい……。
「何だろう……? なんか様子がおかしい」
最初に口を開いたのは、イオ。
ここの魔法学校に長い間いたのだから、異変に気づきやすいからだ。
「いったい……、何があったのかな?」
「俺は嫌な予感しかしないぜ」
ボクとドゥルゲ、それぞれ発言してからしばらくすると、人混みの中からこちらに向かって来る人がいた。
この服……、イオと同じローブ……?
「イオ〜!」
その子はイオの名前を呼んだあと、少し息を整えた。
「なんだ、イルノスじゃないか。
どうしたんだ?」
イルノスは息を整えたあと、慌てた様子でボクらに伝えてきた。
「僕たちの……、学校の生徒が……、さらわれた……!」
「「「え!?」」」
この時点では、どういうことなのか、わからなかった。
【ミキト 夜のフィリダ街内の酒場】
ボクらは、その話の詳しい内容を食事しながら、聞いていた。
「そういや、オレはそんな話、ちらほら聞いたことがある。
うちの学校の生徒の時ではなく、大人子供、それに爺さん婆さん問わず、連日ではないが、時折誰かが居なくなっているとか」
「誰かが居なくなっているなら、家族とか気づいて、捜しに行くんじゃないの?」
ボクなら、そうするけどなぁ……。
だが、イオは首を横に振りながら、こう言った。
「それが城の人達や、うちの学校から出てきた魔導ギルドの人達と手を組んで、捜査しているけど、いっこうに誰ひとり、見つかった形跡はないそうだ」
イルノスも同意見かのように、首を縦に振る。
「もしかしたら、誰か、グルがいるかもな」
ドゥルゲが手を顎に添えながら言うと、イルノスは少しムキになって――、
「そんな!
城の人達はどうかだけど、魔導ギルドにグルなんて、居ないはずだよ!」
と、身体を乗り出してまで反論した。
「――まぁ、落ち着け。
これはあくまで推測の話だよ」
ドゥルゲにたしなめられると、イルノスはゆっくりと座り直した。
だけど、なぜかそのような現象が、徐々に出てきて、しかも未だに解決されてもいない。
それに挙げ句には、学校の生徒まで……。
うーん、頭で考えても、事実だけが中でグルグル回って、結局何にも浮かばない。
「でも、どうしてそんなことが…?」
って……、自分の口から言ってるし……。
「オレらも謎なんだよな。
そんなことして、何になるんだよって、感じかな」
イオがそう答えたあと、みんな一斉に、「うーん」と首を傾げていくだけだった。
ボクらはイルノスと別れ、宿に戻る事にした。
フィリダにそんな事件があって、しかも未だに未解決……。
「しっかし、そんなに広くない国のはずなのに、ここまで多発するとはありえない。
いい加減、どこか突き止められてもおかしくないと思うが」
ドゥルゲが言うことに対して、それは言える。
「オレも気にはしてたが、『いつになったら解決するだろう』と、思ってた」
たとえ、そんなに気にしてなくても、普通ならそう思うよね……。
――本当に不思議だと思わない?――
「「「え!?」」」
その声はボクらにも、聞いたことあるような声だった。
――すると、
窓際の方から、光の集合体が現れ、ボクらは光を手で遮ってしまったが、その後に出てきたのは、この世界の神……、リシャス。
「リ――」
「「「リシャス様!?」」」
ドゥルゲとイオはすかさず、片膝ついて頭を下げた。
そんな2人にボクは戸惑う。
「2人とも、苦しゅうないわ」
さっきまで改まっていた2人は、すぐに元の体勢に戻した。
リシャスって……、そんなに偉大なのか……。
「まぁ、それはさておき――、
この事件は、貴方たちに解決してもらいたいと思っている」
「「「え!?」」」
ボクは思わず、辺りを見渡す。
――誰かに見られたり、聞かれたりしてないかな…って。 ――
「ミキト、大丈夫。
私がもしものために、話し声とか聞こえないように、結界を張っているわ」
「でもなんで、わたくし共に……?」
ボクも急にかしこまった言葉になる。
「いくらフィリダの人達が、『早く帰ってきてほしい』と願っても、いつまでも帰って来ないわ。
それはなんでかと思う……?」
「〈もしかして、何かが関与しているの?〉って、妹が言っていますが……?」
イオとレダからの問いに、リシャスは首を縦にふる。
「それは――、
フィリダ国内にある、宗教が関係しているわ」
「「「え!?」」」
フィリダ国内の宗教って……?
「あそこは、国からちゃんと認められたやつじゃないのか!?」
イオは驚いてる。
「認められた、というより――、
あの宗教自体が、国の勢力を利用している、といった方が、正しいのかしら?」
それを聞いたイオは、とても複雑な顔をしている。
なんでもお見通しの神様だから、真実としか、捉え用のないか……。
でも、ボクらはどうすれば……?
「そこで貴方たちに、頼みがあるの」
「頼み……、とは?」
ボクが訊くと、リシャスはここで、改めて本題に入った。
「私の代わりに、
あの宗教団体を、懲らしめてほしいの」
「「「え!?」」」
「私がやったって、どうこう変わる訳でもない。
だからこそ、代わりに懲らしめて、私が最終判断をするわ」
「それは――、
その人達が心を改めていくかどうか、
……ってことですか?」
ボクの問いに、リシャスは首を縦に振った。
「決行は明日。
身体をゆっくり休んでから、よく考えましょう」
リシャスはそう言うと、再び消えてしまった……。
ボクらは明日――、
この国の一大事件の解決に関わる事になる……!