双生の魔導師(ツインマジシャン)・イオ&レダ
【ミキト フロルド魔法学校内】
ボクはちょっとした不注意で、とある少年と出会ってしまった。
その子は、髪が茶髪と金髪に分かれつつ、若干髪の長さがアンバランスで、眼は翡翠と蒼のオッドアイの魔法使いだった。
その時は謝ったけど、その子って、本当に不思議で、身体は1つなんだけど、中身は双子|(?)らしい……。
ボクにとってはどう見ても、『二重人格』にしか見えないんだよなぁ……。
「おい、『二重人格』って、言うんじゃねぇ!」
――って、本人はそう言って反論するし。
ドゥルゲが冗談半分で、その子に――、
「てか、お前はそう言いながら、『本当はアッチ系なんですぅ』、みたいな感じじゃねーの?」
とか訊いたら、やっぱり怒るし。
「だ〜か〜ら〜!
オレはもともと、『双子』なの!
い、妹がこの世に生まれなかっただけで……、てか、|〈ホントにみんな、からかうの好きだね!
お兄ちゃんをいじめるのも、いい加減にしなさい!〉って、妹も怒ってるぞ!」
「あぁ!?
テメーが最初からそうやって説明すれば、こんなややこしい事にならんくて、済んだだろうが!」
ドゥルゲがその子に逆ギレしながら、すごい威嚇している……、ボクでも怖い……。
「す、スイマセン……。
|〈ごめんなさい……。〉」
という事もあって、今ボクらは、その子…いや、身体がある方がイオ、中にいる妹がレダ、ミドルネームはクロノス……、という兄妹が通っていた魔法学校を、せっかくだから案内してもらう事にした。
中はボクが前の人生で見慣れている、ごく普通の学校とそんなに変わらず、下級生クラスや中級生、上級生と続き、特に才能あるクラスは、『特級生』と呼ばれるらしい……。
「オレは一生懸命、魔法の勉強をした。
魔術書を片っ端から読んだり、実技の試験もあるから、失敗しないようにがんばった。
とはいえ……、大方は妹が賢かったからだ」
イオは俯きながら語る。
「どうして、そんな顔をするの?」
ボクはイオに心配して、訊いてみる。
「だって……、オレは『何事も一生懸命』でしかできない、良く言えば『頑張り屋さん』だが、悪く言えば単なる直球の事しかできない、そこらへんにいる『動物か魔物』と同んなじようなもんさ。
知識は妹が受け持って、武器面といった力は、オレが受け持つというもの。
結局、オレは魔法の部分は何一つ、関われなかった」
イオ自身にとっては、『落第生』のような感じに捉えているようだが、ボクからにしては、すごい能力だと思う。
――ボクなんて……、魔法すら使えないのに……。 ――
「あ、でも――、
回復魔法は専門外だからな!」
「「え!?」」
ボクとドゥルゲは、意外な発言に対して、ほぼすっとんきょうな声で、驚いてしまった!
回復魔法……、使えないんだ……。
「ま、まぁ、そんなに落ち込むなよ〜!
回復は『ヒーラー』を見つけりゃいいんだから」
まあ……、確かに。
「でも、今は卒業できてるから、オレと一緒に、旅もできるぞ!」
イオは一生懸命フォローしているのだが――、
イマイチ、フォローできていない。
「あーあーあー、もう!
こんな空気じゃ、喋れないから、とにかく外出ようぜ」
イオに促されて、ボクらはなんとなく学校を後にした。
【ミキト・街の外の平原】
それからというもの、突然の仲間入り|(?)というのもあり、3人で戦闘訓練をする事になった。
「いいか、魔法は盾である程度、防げる。
そのタイミングを狙って、盾を構えたり、攻撃をするんだ」
ボクの相手はイオ。
実際彼は、実技訓練はしているものの、本物の戦闘をしたことはないらしい……。
それを聞いた、ドゥルゲは――、
「なら、初心者同士、絶好の練習相手だ!」
という訳で、ボクとイオで練習する事になった。
でも、イオはどんな攻撃するんだろう……?
「――では、始め!」
ボクは相手がドゥルゲの時といつも同じように、相手に向かって、突撃する!
すると――、
イオはじっとボクと見つつ、ロッドを構えたままだ。
〈イオ、相手は突進しようとしてる!
スキを狙って、フレイムだよ!〉
「お、おう!」
ん? 何か喋ってる?
でも、レダの声は聞こえなかったような……?
「そこだ、火炎(フレイム)!」
「え!?」
自分の考えから、現実に引き戻した時にはもう、炎が目の前に向かっていた…!
「ミキト、盾で防げ!」
ドゥルゲの指示で、慌てて防ごうとしても、もう遅かった。
「うわぁッ!?」
炎が当たり、ボクは怯んでしまった。
ドゥルゲは若干、頭を抱え、呆れてる。
「へへーん、どうだ?
初めて魔法を浴びた感想は!?」
ドヤ顔で大威張りする、イオ。
なんだか、悔しい……。
ゆっくり立ち上がりながらも、構え直す。
「ミキトはあまり、突進してスキを突こうという、考え方はやめろ。
相手は遠距離が取れる、それをどうするかだ!
――あと、イオはいちいち威張らんでいい!」
「わ、わかったよ……!」
イオには、そっちを注意するんだ……、
まぁ、それを置いといて……。
よし、今度はまた撃たれないようにしないと!
「イオ、行くよ!」
「おう、いつでも来い!」
程よい距離を取り、どのようにして、イオを負かすかを考えつつ、ジリジリと足を進める。
〈イオ、今度は氷で、ミキトを驚かそうよ!〉
「おう! これなら行ける!」
また、つぶやいている……。
という事は――、作戦会議!?
なら、その間に突き進めば……、行ける!
ボクが一瞬のスキを突き、イオに剣を振りかざそうとしたら――、いきなり金属音が……!
「へへッ、あっぶねー!」
え、ロッド!?
でも、先が尖ってる……!
「だから言っただろ?
魔法は妹、武器はこのオレだって……!」
そうか……、そう言えば、そんなふうに言ってたっけ。
だから、魔法と接近攻撃ができるように、一見ロッドでも、先はちゃんと槍のように尖ってるんだ……。
「こういう事ができるのも、あの学校ではオレ1人だぜ!」
「――なら、君は落ち込む事はない。
それをバネにするんだ……!」
ボクは剣で払い、距離を離した。
「そんな君はおもしろい。
難しい謎を解くように、ボクも君を負かせてみせる!」
「オレもおもしろくなってきた。
お前を魔法で負かせてみせるぜ!
〈でも、これは模擬戦だから、ちょっとはほどほどにするけど〉
って、妹もやる気だぜ!」
ボクとイオは気づけば、お互いに笑顔が咲いていた。
それをずっと見ているドゥルゲも、「ワオ」という口笛を吹きつつ、笑顔で静かに見守る。
それじゃあ、ボクはこれでやってみせる……。
いつもどおりに少し突撃しつつ、魔法でやられないように盾を構える。
一方、イオは氷の魔法を詠唱し、繰り出す!
「氷槍(アイスピア)!」
無数の氷の槍がこちらに向かってくるのを見計らい、剣で打ち落とし、イオとの距離が、また縮まった――、
この距離なら……、行ける!
「ッ!?」
ほんの一瞬だった……。
もう少し遅かったら、またロッドで受け止められそうなところを、ボクは剣でロッドを弾き飛ばしたのだ……!
「うわっ!?」
同時にイオ自身も怯む。
「そこまで!!
勝者、ミキト!」
ドゥルゲが模擬戦の終わりを告げ、ボクは顔を綻ばせた。
「くっそ〜!」
イオは倒れ込んだまま、悔しがったが、その後起き上がり、ロッドを取りに行った。
しばらくして、ボクにこう言った。
「でも、いい勉強になったぜ!
やっぱ、お前達と着いてく事にしたよ。
〈これから楽しい事が、始まりそうだし〉って、妹も言ってるし」
「じゃあ、宿に戻ろうぜ!
練習の後の腹ごしらえさ」
「え、でもお金大丈夫?
3人分だよ?」
「〈違うよ、4人分!〉」
レダの言葉で、みんな一斉に笑い出したボクら。
散々笑ったあと、街へ戻ることにした。
――そのあと、不思議な事件が起こることなど、知りもせずに……。