双子で生まれたかった兄妹
【とある兄妹の話】
オレと妹は、本当なら双子で生まれるはずだった。
お腹の中ではいつもお喋りしてた、それしかやることはなかったからな。
それが、いざ生まれる日間近になった途端、その望みは叶う事はなくなってしまった。
妹がその事を告げたからだ。
「ねぇ?」
オレは返事をする。
「私はもう、この世に生まれる事はないみたい……。」
「!?」
「だって、お医者さまがそう言ってるの」
確かに、外の方では、母親がかかっている医者の話を聞いていた。
どういう話なのかは、その時点ではあまり理解できなかったが、『妹が生まれる事はない』というのは事実だった。
でも、オレはその時、その事実を受け容れる事はできなかった。
「なんで生まれないんだよ――、
一緒に生まれるはずだったのに!?」
「でも、しょうがないよ。
いくらどうやったっても、ワタシは生まれない、あなたがワタシの分まで、生きてくれりゃいい。
それが悲しいのなら、身体はあなただけど、その中に私が入れば、あなたと一緒に生きられる。
それでもいいのなら、私はあなたと一緒に生まれることができるよ」
オレはこの言葉に食いつき、妹自体にはそれだけのことしかわからないのに、『飢えた魔物』のような眼で見てしまった。
――妹と一緒に生まれることができるならば、それでいい――
それだけのことしか、考えられなかった。
でも生まれてみて、やっぱり後悔した……。
この世に生まれてから数年……。
自分という自我が芽生え、それと同時に、妹の自我まで芽生えてしまい、オレが普通だと思っていた行動、つまり『自分の意見と妹の意見を時々交互に言う事』が、最初良くてもやがて、『不審者』扱いされ、友達からはイジメられるわ、挙句に親やその周りの人たちにも迷惑がられ、医者からも『二重人格』扱いされるわと――、結局、オレ自身の拠り所が、どんどんなくなってしまった。
「オレは、やっぱり1人なんだな……」
「|〈そんなことないよ、ワタシがいる!
ワタシがいれば、大丈夫!〉」
オレ自身では妹と会話しているつもりだが、他人から見ると、オレ1人で声色を変えて、自分を励ましたりして、本当に『二重人格』としか言いようがないか、それとも精神的におかしい人にしか、見えなかった。
そして、子供だったオレは、2人の心を抱えながら生きていたため、身体が耐えきれなくなり、医者でもお手上げな病気にかかり、生まれて数年という人生を、一度終えてしまった……。
結局、上手くいかなかった……。
オレたち兄妹は、どこか暗い場所にさまよっていた。
――今度は、双子で生きていたい――
そう思っていた……。
「あら、こんなところにさまよってるの?」
「うん? 誰だ!?」
この声は、妹のではない。
どこか大人っぽいような……、女の人の声……。
「ここよ」
振り返ってみれば、あの女神がいた。
「あなた、双子として生きていたいの?」
「ああ、そうさ!
双子で生きていたら、こんな事になんて――」
「……ねぇ、あなたは誰?」
妹が、ここで初めて口を開いた。
「私はリシャスよ。
あなたはとても賢いのね。 自分でも、なんとなくわかっているんじゃない?」
女神の問いかけに、妹は答えない。
オレはどういうことなのかもさえ、わからないのに……。
すると、女神……、いやリシャスが代わりに、妹の意見を言い出した。
「『お兄ちゃん、ワタシは双子で生きていくのは、もう無理なの』って、本当は自分でもわかってるの」
「!?」
いや、意味がわからない。
どうしてなんだ……!?
「じゃあ、私が代わりに言ってあげるわ。
あなたの妹は、とても罪が重すぎて、人間としては生きていられないの。
私は転生してあげたいけど、この子の罪が重すぎるせいで、例え転生できても、動物か意思の持たない、魔物にしかなれないの。
それでも、双子で生きていこうと思うのかしら?」
オレは言葉を失ってしまった……。
妹がここまで考えているのに、オレはどうして……!
「『双子』といった、そういう子供たちは、大概どちらかリスクを抱えているの。
全部とは言い切れないけど、もともと片方は動物の魂だったっていう子も、少なくもない。
だから、あなたみたいになってしまったの」
でも、オレはどうしたら……!?
妹は黙って、こちらを見て微笑む……。
「そう、やっぱりお兄ちゃんの身体に留まるのね。
あまり人に理解されないけど、お兄ちゃんがしっかりしていれば、自ずとちゃんとした友達はできるわ」
そうか……、オレは妹と生きるには、こうするしかないのか……。
「なぁ、リシャス……、でいいのか?」
「ええ」
「もう一度、やり直したい……!」
オレが子供なりの一生懸命な答えだった……。
「――いいわ。
あなたたちの名前は、もう覚えてないようだから、私が代わりに付けてあげる」
オレと妹は同時に、頷く。
「あなたは【イオ】、そして妹は、【レダ】」
リシャスが新しい名前を言うと、妹は一度魂となって、オレの身体に入り、その間、光に包まれ、右側が茶髪と翡翠の眼、左側が妹の顔である金髪と蒼い眼になり、紺色の三角帽子と魔法のローブを身にまとい、いつの間にか、ルビーのような宝石を付けたロッドを持っていた。
「これ、オレなのか……?」
手や色んな場所を見回す、オレ。
するとリシャスは、魔力で鏡のようなものを出し、自分の顔を見せてくれた。
顔が本当に2つの顔でありながら、人にはわからないようになっている。
「妹の意思は、あなたが伝えないといけないけど、人には理解されないとわかっているなら、あなた自身がちゃんと説明すればいいのよ。
さぁ、もうここに留まる必要ないわ。
これからエイヴリーテにて、魔導師になる勉強をしなくてはね。
きっと、いい仲間が見つかるわよ」
リシャスはそう言うと、オレは光に包まれ、そのままエイヴリーテに飛ばされた……。
【ミキト 疾風の国・フィリダ】
船を乗って2日、ようやく次の国、フィリダに到着した。
その間、ドゥルゲがフィリダについて、説明してくれた。
「フィリダは『疾風の国』って言われてて、風車小屋や魔法学校がある場所だし、なんかの宗教|(?)らしきやつも、あるらしいんだ」
『魔法学校があるなんて、もしかしたら、魔法使いに出会うかも』と、ボクは思った。
さて、港で船を降りて、2人で街をぶらついていた。
「まずは拠点の宿を探さないとな」
ドゥルゲが言う。
「うん、それにしても、いろんな建物があるね」
ボクが街を見回しながら、言ってると、ドゥルゲはこう答えてくれた。
「ここは魔法学校があるから、学生寮や旅人を受け容れる宿やそれに関する武器や魔術書の店などが多いんだ」
「そうなんだ……」
そういえば、いろいろ歩いている時も、魔術書らしき本が、売っている店を通ったっけ。
「さ、ここの宿にするぜ」
いつの間にかぼんやりしているときにはもう、ドゥルゲが宿を見つけたようだ。
宿で、お金を払いつつ、ある程度荷物を置いてから、再び街を散策した。
「お前はもうそろそろ、盾を持つ術を教えなきゃな」
ドゥルゲはボクに言い出す。
今は鎧やローブなどが売っている、防具屋にいる。
「でも、どうやって扱うのだろう……?
ドゥルゲの方が強いから、持てばいいのに」
「俺は見てのとおり、両刃の槍だから、それで受け止めれば十分だし、それに時々、ジャンプして攻撃とかする場合があるから、盾はかえって邪魔なんだよな」
ドゥルゲはそう言いながら、笑い出す。
ジャンプして攻撃って……、すごいなぁ……。
一度でいいから見てみたい……。
「ミキト、盾を選ぶぞ!
お前のこだわりとか訊きたいんだ」
「え?
あ、あぁ、ごめん」
こだわりって言っても……、初心者向けで、ダサいデザインじゃなきゃ、それでいいんだけど……。
「それでいいんだな?」
「!?」
またいつの間にか、思っていた言葉を口に出していた。
それでいつも、ドゥルゲは笑うし……。
こんなボクって……、いったい……?
「なぁ、こんなのはどうだ?」
ドゥルゲが見せてくれたのは、周りの渕が銀色で、そこから蒼を中心とした綺麗な装飾がされている盾だった。
店主さんは「なかなかお目が高い」と言って、ドゥルゲも「持ってみな」と言った。
促されたボクは一度持ってみる。
「あれ?」
見た目的には、一見重そうな感じだったのだが、思ったより軽い……!
それに、なんだか動きやすそうな気がするし、デザインも気に入ってしまった。
「じゃあ、これでお願いします」
ボクがそう言うと、店主さんは「500リデね」と言い、まだお金を持ってないボクの代わりに、ドゥルゲが払ってくれた。
ここのお金の単価は『リデ』って言うんだ……。
「ごめんなさい、また払わせちゃって……」
「あぁ、いいさ。
これから『討伐屋』で依頼を受けて、その報酬で返せばいいからさ」
「討伐屋?」
「この世界ではいろんなところで、討伐屋があってお金はそこで稼ぐんだよ」
「へぇ〜」
「さ、そうと決まったなら、街の外へ出て、特訓だ!」
「うん!」
ボクはドゥルゲとの特訓は、若干厳しいけど、楽しいからがんばれるんだ。
ボクたち2人は、店を後にして街の外へ出ようとしたら――。
「わぁっ!?」
ボクは誰かとぶつかり、尻もちついて転んでしまった。
「もう、気をつけろよ!
|〈まったく、なんで前見ないのよ!?〉って、妹も怒ってるぞ!」
「!?」
「なんだ、コイツ?」
ボクはどうやら、不思議な少年|(?)に出会ってしまったようだ……。