魂の世界、――エイヴリーテ――
エイヴリーテ……。
その世界は、女神・リシャスに送り込まれた魂達で成り立っている世界。
それと同時に、魔物も共に、生存もしている世界でもある。
それぞれの魂達は、|〈自分で何をするべきか〉を見出し、その使命を全うすることで、生活ができるのだ。
そこに送り込まれたミキトは、いったいどのような使命を果たすことになるだろうか……。
【ミキト・イグランシェ グラディス平原 】
リシャスが一瞬で消え去った後、ボクはエイヴリーテの平原|(?)であろう場所にいた。
――ここに来たのはいいけど……、ボクはどこに行って、何をするべきなのか……? ――
と、ぼんやりしていると……。
突然、妙な唸り声が、いきなり襲ってきた!
「ッ!? わ、うわぁ〜!」
猛獣のような魔物に襲われそうになり、ボクはどうすることもできず、立ち往生していると――――、
黒髪で、赤い鎧を纏った男の人が、向かって来る魔物を、槍でなぎ払ってしまった……!
ボクはただ見ているだけしかなかった……、その男の人の結った髪が、揺れる姿を……。
「おまえ、何つっ立ってるんだ!
危ないじゃないか!」
男の人の言葉で我に返ったボク。
自分がどの状況に置かれてるのかも、なかなか理解できていない。
「え、あの、その……」
ボクは、いきなり何に対して怒られているのかもわからず、出る言葉もしどろもどろになってしまう。
「まだわからないのか!?
おまえは、魔物に襲われてたんだぞ!!」
「え!?」
やっぱり、さっきのは、魔物だったんだ……。
ようやく状況を理解したボクは、改めてその人にお礼を言う。
「さっきは、ありがとうございました」
「ったく、こんなとこでぼんやりするなんて、ありえねーぜ?
ってか、おまえ……、見かけねぇ顔だな?」
そう言われて、ボクは自己紹介をする。
「あ、あの……、ボクはミキト・イグランシェです。
この地に来たばかりで、何にもわからなくて…」
男の人はそれを聞くと、同じように自己紹介をした。
「俺はドゥルゲ・ヴェルー。
ふ〜ん、ここに来たばかりか……。
ということは、転生したてのホヤホヤだな」
「ま、まぁ、そんな感じです……」
ドゥルゲは、おちゃらけたつもりのようだが、なんとなくボクにとっては、余計恥ずかしくなってしまう。
だけどドゥルゲは、その様子を見て、笑うし……。
「まぁまぁ、初めてならしょうがねえか。
ここはリシャス様に転生された者だけで、生活しているんだ。
さっきの魔物は、まったく使命を見つけようとせず、全うすらもしない、おまけに盗みなど、悪事に働いていくうちに、どんどん堕ちていったやつらだ。
そういうヤツは、リシャス様も見兼ねるし、逆に邪神の目につき、手下にしようとするから、あんな魔物が生まれる。
そうなった奴はもう、ただ本能ままに生きていくだけのケダモノさ」
そうか、だからボクを襲ってきたんだ……。
あ、でも、動物とかはいるのかな?
「それじゃあ、普通に生きている動物とかはいるの?」
ドゥルゲは腕を組み、空を見上げながら、少し考えて答える。
「まぁ、いるのはいるけど、そんなに大していねえかな。
――てか、とりあえず、ココじゃ危ないし、街へ行こうぜ?」
ボクはそう促され、ドゥルゲについて行った……。
【ミキト 平原の街 アラベル】
「うわぁ〜!」
ボクは、さっきまで平原を歩いて、やっとここまで着いた時には、バテて、疲れかけたけど、街の賑やかさを見た瞬間、一気に疲れがふっ飛んでしまった。
「スゲーだろ?
この平原で唯一の街で、言わば『オアシス』だな」
そう言えば、さっきまで平原のど真ん中にいてて、そこからけっこう歩いたっけ……?
しかも、この平原は、エイヴリーテでいちばん広く、平原自体が1つの大陸なんだとか。
『ここから、他の島などに行くには、この街から出る、船に乗らなきゃいけない』と、ドゥルゲが親切に教えてくれたのだ。
「誰でも、転生されたばかりの人は、どこへ飛ばされるのかもわからないし、『使命』といっても、漠然としすぎて、自分で見つけようにも、なかなか見つからないのさ。
ここに来て、しばらく過ごしてから、おのずとわかるものなんだ」
――って、街に向かう途中の時にも、そう言ってたような……。
――なんでこんなに教えくれるのだろう……?
「そりゃあ、俺も……、一応お前と一緒だったようなもんだぞ?」
ボクの思ってた事がいつの間にか、言葉になってしまってたので、一瞬ビックリしてしまった!
「フッ、なんだよ?」
「ご、ごめんなさい……、なんか、思ってた事がつい、口に出してたようで……」
ボクがどんどん困り顔になっていくのを見て、ドゥルゲは笑いだす。
「お前、おもしろいなぁ!
気に入ったぞ、 お前と一緒についていってやる!」
なんだかいきなりの展開に、ボクは戸惑う。
「何って、『お前と仲間になってやる!』って、言ってんだよ!
1人だと、この先不安だろ?
だから一緒に仲間として、共に戦おうじゃないか」
『仲間』か……。 ボクをこんなふうに思ってくれるなんて……、そもそもどうやって生きていこうともすら、考えてなかったな。
それに、ボクはこの武器の使い方も、どのように敵と戦うのかも、まったくもって知らない。
このままじゃ、せっかくのチャンスも無駄になってしまう。
――ならば、身近な人を仲間にするしかない!
「本当に、こんなボクでいいの?
ここに来たばかりだし、今持ってる武器の使い方すら、知らないんだよ?」
完全にネガティブな言葉しか出ないボクを、ドゥルゲはニコッと笑って、
「なぁんだ、そんなことを不安になってたのか。
そんなの、俺が教えてやるよ!」
腰に手を当てながら、どっしりとした構えでそう言った。
「よ、よろしくおねがいします!
ボク、何にもわからなくて、持ってる剣なんて、触ったことすらないから……、
えっと、その――」
頭下げて言ったものの、やっぱり言葉が詰まる。
「まぁまぁまぁ。
それも全部教えてやるよ!
あとは仲間を増やせばいいし、それに腹へらねえか?」
ギュルルルル……。
ドゥルゲが言った時には、頭を上げてたけど、まさかお腹空いてるのを忘れてたなんて、まったく思ってもいなかった……!
顔から火が出て、どうしていいのかわからなくなってしまった。
「まぁ、とりあえず俺がおごるから、メシ食いに行こうぜ?」
「あ……、うん」
それからというもの、ボクはドゥルゲと一緒に行動をした。
どうやらここのお金は、魔物討伐などで稼いだりするもので、ボクの元の世界とは違って、そう簡単にはいかないらしい……。
戦術はすぐに教えてほしかったけど、
「それは明日するぞ、それより宿取らないと、知らねぇぞ?」と言われ、結局ドゥルゲの言う通りにした。
――その夜。
月が綺麗な夜は、至って静かだった。
部屋の中で2人、それぞれのベッドで寝そべりながら、今度はボクがドゥルゲに質問をした。
「ねぇ、そう言えば、ドゥルゲのこと、聞いてなかったけど、ドゥルゲって昔はどんな人だったの?」
彼が重苦しい声でこう答えた。
「俺?
俺は昔、人間じゃねえ……。
ドラゴンさ、お前は昔のことは大体忘れてるだろうけど、俺はハッキリと覚えてる。
――というより、忘れる事なんて、おそらく……、できないさ」
ボクがこれから聞くドゥルゲの前世は、
人間としては考えられない、特殊なものだった……。