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疑心暗鬼な娘  作者: 柏木
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二大派閥

 あらすじにも書いた通り、主人公がダンジョンコアを手に入れるまでの件は完全にカットしています。純粋に書きたいことだけを書いていますので、途中から始まっています。中途半端なものが嫌いなお方はご注意ください。


 なお、読む前の段階の知識として、

・舞台は地球とは全く違う異世界

・人間と魔族は対立しており、魔族は多民族社会

・主人公には極普通の身体能力しか無く、魔法も使えない。魔族社会における常識もない

・ダンジョンコアは今まで誰も使い手が居なかったが、主人公には何故か適性があったため殺されずに済み、現在はダンジョンを一層のみ作ってそこを拠点としている。また、第一話が展開する場面もそこ。


 以上のことをふまえておいてください。最後の二つ以外はほぼお約束ですね。


「で、その魔法って何なの?」


「はい?」


「いや、魔法ってどういう風に使ってるの?」


「ああ、そういうことですか。ええとですね、魔法というものは、魔力を原動力とした技術の総称です。優れた魔法の使い手としては、煌角族(こうかくぞく)のクリミノ家、メリファルテ様が有名ですね。人間達は自分たちが使っている魔法を神聖術とし、私達のものを邪法と呼んでいるようですが――」


「いや、そういう訳じゃなくてね?」


 私はまさに立て板に水と言った様子で話すリテラを制止した。何度も遮っているのでリテラは傷ついたような顔をしていたが、私に彼女を傷つけるつもりはない。何というか、魔法というものに対して認識の相違がある気がするのだ。


 例えるなら、天動説が通用していた時代の人々を相手にしているような違和感を覚える。


「あなた達が、魔法がどんな理屈で働いているのかがわかるかどうか、『はい』か『いいえ』だけでもいいから答えて」


 感覚的でもいい。何かしら理由がわかっているのなら、それなりに言葉にしてくれるはずだ。


 何と言えばいいのだろう。ガリレオがキリスト教に地動説を封じられたように、地球において本来発展するはずの思想や技術が制限されたのは、宗教の教義と新たな説が食い違うことで、宗教側が権威を失うことを恐れての事だった。


 もし私が『どうして太陽は動いているのか?』と尋ねられれば、根本的な理由は説明できずとも、少なくとも『私達の暮らす大地は世界の中心であって、それ以外に理由など無い。神の作り給うた世界に疑問を抱くなど不敬千万』と答えることはないだろう。それ以前に私がキリスト教徒ですら無いということもあるが。


 私は魔法というものに関してはまるで素人なので、もっともらしい説明をされれば例えそれが真実から程遠くとも納得してしまう恐れがあるが、それはそれで理由が説明できるまで文化が成熟している証だ。少なくとも、理由もなく『こうだ』と言われるよりは遥かにマシだろう。


 先ほどの説明で人間の文化にある程度触れていたことから、リテラはそれなりに教育が受けられる階級の出身であることが伺える。その時代における教養階級の教養の度合いを測れば、その時代におけるおおよその世界観も見えてくるというものだ。


 しかし、人のことは言えないが、リテラは女性だ。恐らく私の性別に合わせて同性であるリテラが宛てがわれたのだろうが、もしも女性蔑視の文化が根付いていた場合、リテラの証言は信憑性が低い。教養が十分に行き届いていない可能性があるからだ。


 御託を並べたが、~族や~家という言葉が飛び出す辺り、もうあまり期待していない。


 果たしてリテラは、奇妙な物を見るような目でこちらを見て、困ったような表情を浮かべた。


「え、えぇー? 理由ですかぁ? ありませんよそんなの。完全にその人の才能ですよ」


 この答えが出た時点で半ば予想通りだが、少なくともリテラの魔法に対する認識が『ただそこにあることが当たり前のもの』であることがわかる。当たり前のものであるということはつまり、それに対する疑問は無く、それを探求する心もまた無いということだ。


 しかし先に挙げたように、リテラを基準にして全体を図るのはいささか早計に過ぎる。もう少し情報が欲しいところだった。


 ただここで、リテラがどの程度教育を受けたのかと直接聞くような真似をして、妙な奴だと思われても困ってしまう。リテラの反応を見るに、手遅れかも知れないが。


 ここは無難に魔族社会の中でのリテラ一族の地位でも聞いて、アバウトでも良いので社会全体の教育レベルを推し量ることにしよう。


「じゃあ、リテラの家の位はどれくらい?」


「はい? い、いきなりですね……そうですね、私の出身である淫魔族のキュリオ家は……というより、そもそも淫魔族というのが他者に頼った生き方をしているので、淫魔族はあまり家格が高くないんですよね……。でも、私の家は多分魔族全体の中では上位に入ると思いますよ?」


「その家格はどうやって決まるの?」


「何かしらの能力に長けているかどうかですね。と言っても、魔族自体が強さに偏った種族なので、強さを重視する剛毅(ゴルゴス)派六割、学問を重視する叡智(ティートン)派三割、その他一割ってところですね……。なので、大多数の強さ由来の家格を抑える目的もあってか、魔王様は魔族の中でもトップクラスの実力が求められます。あ、ちなみに私の家は剛毅派ですよ。驚きましたか?」


「……ええ。魔王……様が最強じゃなくていいってことにも、リテラの家系が強いってことにも。私が居た世界は、少なくとも私の暮らしていた場所は平和だったから、あまり想像がつかなかった」


 私はリテラの顔から視線を落とし、しばし思考に没頭する。


 トップクラス、つまり最強『級』ということは、必ずしも強さにおいて頂点に立っている訳ではないということだ。魔族とて封建社会を持っているのだし、いくら強さが求められると言っても政治的、血統的な要因もあるのだろう。


 正直驚きはしたが、地位を保つためには強さや学問の成果という対外的な物を示し続けなければならないのだから、なるほど、過去に国に貢献した実績を元に報奨を与え続けるよりは健全なシステムだと言える。


 さて、リテラの家で上位となると、これはいよいよ学問に対する社会全体の姿勢は消極的なものと見て良さそうだ。


 なぜ私がここまで学問を重視するのかというと、魔法の研究をすることで、ダンジョンの防衛に非常に役立つと考えたからだ。


 魔法(マジック)というと理屈の通じない神秘ともとれるが、現象として起きている以上それを司る理屈が存在するはずである。逆に言えば、理屈もわからずにただ目の前にあるものだけに頼って成し遂げられるほど、私の常識が通用しない世界でのダンジョンの防衛(得体の知れない行為)は簡単ではないと思っている。ならば、魔法の研究に於いて他者の常識が通じない高みまで上り詰め、私のフィールドで戦えば良いと。


 それに、何の力も持たない私にとって、そこで生み出した技術は確実に強力なカードとなる。私に切り札があれば、これから起こりうる魔族社会からの干渉に対しても大きな効果を発揮するだろう。


 私が暮らしていた地球の科学とて、利用されている技術のからくりを全て説明しきれるかと言えば、それは違う。そういう意味では科学もまた得体の知れない技術だといえるが、ある程度の理屈が理解できれば、それを応用することも出来るのだ。それはきっと魔法にも当てはまる。


 そしてなぜ数多ある研究対象の中で魔法を選んだのかといえば、この社会が魔法に頼って成立している側面があるからだ。何を研究するにしても、きっと私一人では何も出来ない。そうなると人員が必要で、人員といえば必然的にこの世界の住人ということになる。そこでその住人の関心が低い分野を研究しようとしたところで、遅々として進まないことは明白だ。


 では、リテラの言う優れた魔法の使い手というのはどういう人物なのだろうか。


「さっき言ってた、クリミノ家のメリファルテ様っていう方は?」


「あの方は叡智派ですね。先ほど魔法が優れていると言いましたが、実は彼女自身はそれほど魔力に富んだ血筋ではなかったんです。その中で彼女の魔法が素晴らしいと叡智派の中で話題になりまして、クリミノ家の家格の向上も検討されたのですが……クリミノ家を皮切りとした叡智派の地位向上を懸念して、剛毅派の一部が働きかけたことが原因で叶わなかったようです。メリファルテ様の人柄が周りから煙たがられているということもあったようですが……」


「じゃあ、クリミノ家はキュリオ家よりも家格が低いの?」


「クリミノ家は叡智派でも上位ですが、私の家より下の……ええと、全体では真ん中かその少し下くらいになりますね。叡智派は少数派なので、それだけ埋もれやすいんです」


「なのに敬称をつけるんだ?」


「いやですねぇ、私達淫魔の生活はどれだけ相手に好印象を与えるかに掛かってるんですよ? 謙られて悪い気のする魔族も人間も居ませんし、言葉遣いや仕草で生活が成り立つならいくらでもやりますよ」


 まあ、自らが剛毅派であることのカモフラージュとしても活用しているのだろう。隠している爪は多いに越したことはない。だがここで私にバラしていることから、己の手の内が少しばかり明るみに出たところで、相手は己の術中から逃れられまいという強烈な自負心も伺える。


 そして、リテラがやけに人間について触れる理由も判明した。彼女は淫魔であるが故に、人間の文化に詳しくならざるを得なかったのだろう。


「それで、メリファルテ様が煙たがられてるっていうのは?」


「彼女、他人の魔法を見てはブツブツと文句を言っていたらしいんですよね。ココはこうすればもっと良くなるのに、とか。魔族は基本的に自らの家の技術には誇りを持っていますので、家から家への、特に技術への干渉は恥ずべきことだという不文律があるんです」


「そこに口出しをしたから煙たがられている、と?」


「そういうことですね」


 居た。理想的な人物が。


 聞いたことをまとめれば、彼女は当たり前に存在する魔法の技術を論理的に磨き上げる実力があり、家柄もそれほど高くない。おまけに周りから煙たがられていて、私の管理するダンジョンのような窓際に来ても違和感がない。


 煙たがられているということは、彼女は叡智派の中でも異端者である可能性がある。魔族社会に物事を探求する文化がなかったことは悔やまれるが、逆に彼女一人だけに探究心があるのなら話は別だ。地球でも実験に基づく研究というものは長い間行われてこなかった。それを鑑みれば、この現状も自然なものと言える。


 気がかりなのが彼女を評価していそうな叡智派の反応だが、叡智派自体が魔族社会の中で発言権が強くなく、加えて彼女が異端者である可能性がある以上、魔族全体の中で議題に上ることはあるまい。というより、それくらいの冒険をしなければ私の明日はない。


 正直、リテラに話された内容が全て真実だとは露ほども考えていない。私が支配階級の人物なら、この世界に来たばかりで右も左も分からない様な都合の良い手駒に、一から十まで正しい情報を教える様な真似はしない。その相手に生きる術が無いなら尚更だ。


 恐らく、剛毅派も叡智派も、私が生き延び、ある程度力をつければ派閥に取り込もうと働きかけてくるだろう。となれば、見えない刃を研ぎ澄まして、魔の手を伸ばしてくる時までにはその手に負えないような状態に持ち込まなければならない。


 そのために必要な一人が、恐らくメリファルテ・クリミノという人物なのだ。


 ただ、彼女をどう上手くこのダンジョンに誘導するかが問題となる。リテラに引き受けてもらえれば、メリファルテを連れてきてもらうことも不可能ではないだろう。しかし、そのリテラには確実に魔王かそれに近い立場、もしくは剛毅派の息がかかっている。ここで迂闊に手を出せば、リテラのバックにいる人物には、私が叡智派に付くだとか、そうでなくても特定の誰かに取り入ろうとしているなどと思われるに違いない。


 考え過ぎかもしれないが、社会がそこにある以上程度の差はあれ派閥というものは存在するし、その間で大なり小なり争いも起こる。それに、例え私の考えが杞憂に過ぎなかったところで、その備えは無駄にはならないはずだ。


 私はその後もリテラにあれやこれやと色々な人物について話を聞き、どの派閥にも平等に興味が有るような素振りを見せた。矢継早に質問を浴びせて彼女の冷静さを削ごうとしたが、彼女の能力を鑑みるにそれほど効果はなかっただろう。


 彼女は説明を終えて一息つくと、愛想の良い笑みを浮かべた。


「とまあ、こんな感じですね。モミジ様、誰かに興味でもお有りですか?」


「いや、どんな方が居るのかなって思っただけ。私の世界とは全然違うから」


「そうですか。ご期待に沿えたようで何よりです」


 リテラは笑みを深め、どこか妖しい目つきで探るような視線を向けてくる。


 どうせ私はここから出る機会があまり無いのだ。彼女には見られない外の世界に興味を持っただけという風に捉えてもらいたい。元から私は引き篭もり気味で、外の話は聞くだけで十分という性格なので、この辺りは正直な気持ちでもあるのだが。


 私からメリファルテに働きかけられない以上、彼女の方から興味を持ってくれるようにするしか無い。下手に彼女にこちらから接触すれば私は派閥争いに巻き込まれ、要らぬ束縛を受けるだろう。派閥に入ればその庇護も受けられるということだが、代わりにダンジョン運営に激しい干渉を受け、唯一のダンジョンマスターという私のカードは失われる。そうなれば、私の安寧は失われるのだ。


 しかし彼女の方から近づいてきてくれれば、私は彼女に研究環境を提供して、その研究成果を対価として受け取るパトロンであるという表明が出来る。飽くまでビジネスライクな関係であって、派閥的な含みは何も無いと。


 そして私はその研究成果をカードの一つとし、さらにそれを用いてダンジョンの防衛能力を強化するというわけだ。

 椛超疑り深い。


 3/20……椛の行動の動機に関する説明が不足気味だったのと、椛とリテラの行動に関する描写が少なすぎた点を修正。

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