お菓子列車
「わあ、この列車に乗ってもいいの!?」
僕の弾んだ心が、高くて大きい声を出させた。
そりゃもうえらく大きな声だったんだよ。
「もちろんさ、この列車で天の川を走れるんだよ」
車掌さんは、緑のフードを被ったちょっと変わった人なんだけど、優しい声で僕の言葉に答えてくれた。
目の前にある列車は、プリンやチョコレート、クッキーだけでなく、
見たこともないお菓子でできてた。
甘いにおいがプンプンするよ、早く乗ろうよ。
温かい紅茶も持ってきたんだ。
「だけどね、気をつけなくちゃいけないことがあるんだよ」
車掌さんは腰を落として、屈んだ姿勢で僕の顔に向かい合った。
「あたりまえだけど、食べちゃいけないよ。空から落ちちゃうからね。」
了解、わかった。僕はそう頷くと急いで列車に乗り込んだ。
サッカーしてきたスニーカーだったから、お菓子が汚れちゃうのを
後悔しながらだったけど、もう止められなかったんだ。
それからの景色はすごかった。
天の川には牛が列をつくって、水を飲む順番を待ってた。
星は、じつは石で出来ていないで、アイスの塊だった。
光は白く目に見えるだけでなくて、水のようにすくえたんだ。
驚きの連続だった、興奮しっぱなし!
僕は少し疲れて、甘いものが食べたくなったから、
車掌さんの言葉を忘れて目の前のテーブルを少しちぎって食べた。
あ、甘い!バナナ味のチョコレートだった。
横にいた車掌さんは笑顔で困った子だねぇ、と囁いた。
無事にお菓子列車の旅行が終わって家に帰ってきた。
帰り際に聞いた車掌さんの言葉を胸に刻んで。
「お菓子の列車は君の夢、食べて少し減っちゃったけど。
夢を絶やさず増やして人の心を癒していけば、
もっと大きな列車になってゆくよ」
私はそれから町の医者になった。
あれ以来お菓子の列車には乗っていないけど、
患者さんには列車の作り方を教えている。
夢は生きる希望であり、叶わなくても乗っているだけで楽しいものなんだと。