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4回目

俺達が生まれて丁度1か月が過ぎた頃、いつも通りメリッサがやって来る時間、つまりはそろそろ俺の受難が始まる時間にこの部屋に近づいて来る複数の足音が聴こえてきた。

誰かこの部屋に来るのか?

今までこの部屋にメリッサ以外の人間が来たことはなかったのだが。

そして、俺の予想を裏付ける、こんな会話が聴こえてきた。


『ねえ、兄様、兄様、一番最初は私に選ばせて下さいね、ねえ、良いでしょう?』

『ふざけるな、ミナ!お前は僕が選んだ後に決まっているだろ。そうですよね?兄様』

『はあ?ふざけているのはアンタでしょ?マグ。弟のくせに私より先になんて世界が滅んでもあり得るわけがないじゃない』

『はん!たかが少し僕より早く生まれただけで偉そうに。そもそも女じゃ魔導士になれないンだから、従魔なんて必要ないだろ』

『知らないの?【なれない】じゃないわ。ただ女性は活動している魔導士の数が少ないってだけよ。それにマグが魔導士になれるなら私は大魔導士になれるわね、だって学園の成績は断然私の方が上だからね』

『う、うるさい、学園の成績なんて関係ないだろ。机の上で魔物が退治できるわけじゃなし、大事なのは実戦で強いかどうかだよ。大量の魔力でバンバン強力な魔術を撃ちまくって強い魔物を倒せば強力な魔道具だって作れる。まあ、非力なお前には無理だろうがな』

『黙りなさい、この脳筋!』

『こっちのセリフだ、このガリ勉!』


(ゴツン)×2  拳骨が2人の頭頂に落とされたようだ


『いい加減にしろ!』

威圧するような声だ

『兄様、すいません』

『兄様、ごめんなさい』

二人とも即座に謝罪する。余程、兄様とやらが怖いらしい

『全く、お前達は・・・二人とも少しは落ち着け。そもそも今回に限っては順番など些細なこと。血筋を考えてみろ。はずれはない。ふふふ、だがな、いくら貴重な猫妖精ケットシーと言っても魔力の相性が合わなければ、いくらお前達が望んでも契約は不可能だぞ』

『ええ、そんな!』

『じゃあ、もし僕たちの誰も相性が合わなかったら、その仔猫はどうなるのですか?』

『そうだな・・ありえないことだが、もし俺達との相性が合わなかったら、おそらく家中の爵位の高い者から順番に試して決めることになるだろうな』

『お父様のジブラたんとの叔父様のマリアたんとの間の仔猫なのよ。それを他の者になんて考えられないわ』

『では他の大公家に譲ってもいいのか?』

『それだけは駄目‼』

『絶対ありえません‼』

『まあ、そうはならんさ。お前達がダメでも俺が全部と契約するからな』


ここまでの会話の内容から推察するとやって来るのはこの家の子供達らしい。しかも大公とか爵位とか言っていたな、ってことは貴族ってやつなのか・・・正直面倒だな。

面子は自信家の兄、計算高い妹とその双子の脳筋弟、厄介事の臭いがプンプンする。

でも、足音は五つあるんだけど・・一人は変態メイドだとして、あと一人は誰だ?


コンコンと、ノックの音がする

『マリア様、失礼します』

メリッサがドアを開き、ドアノブを持ったまま入口の傍に控えると続いて子供達が部屋に入って来る。

最初に入ってきたのは、少し背の高いスラリとした少年でメリッサと同じ蒼い髪を肩まで伸ばし、肌は透き通るように白く首から上をだけをみれば美少女に見えるほどの美少年だった。その碧眼は自信に満ちており大凡の性格がうかがえる。まさに俺様。服装も上質そうな白いシャツ、こげ茶のズボンにブーツと着こなしにも全く隙がない。彼の周りには人を屈服させるオーラが見える。

彼のような人を貴公子と言うのだろうか?正直、知識が乏しくて的確な表現が思い浮かばない。俺の知っている知識で言うと女性向けのマンガに出てくるような美形の主人公に似ている。ただし、普通の恋愛ものではなく、BLに出てくる主人公。

差し詰め彼は『BL兄さん』と言った感じだ。


前世でマンガ好きだった俺は同じくマンガ好きだった会社の同僚(女)からお薦めの作品をまとめて貸してもらったことがあり、その中にそういう本があったのだ。

折角だからとネタのつもりで一応は目を通してはみたのだが、はっきり言って理解ができなかったな。女性は好きな人が多いみたいだが・・有体に言ってしまえば創作物は疑似体験だから、男の俺には生理的に受け入れられなかったのだろう。

ホント、全くどうでもいいことは結構思い出すものだな。


それにしても最初についたイメージを払拭することはとんでもなく難しい。

俺の中で彼はもう『BL兄さん』が定着してしまった。

今は彼の周りにはオーラではなく薔薇の花が見えてしまう。

まあ、うっかり呼んでも相手にはどうせ『ミー』としか聞こえないから大丈夫だろう。

(ピロロロン)

おっと、じっと見過ぎていたせいで鑑定が勝手に発動してしまった。



ヴィーエル・ギガクリア 14歳

人間種

ラファエル・ギガクリアの子息(長男)

次期大公位継承第3位

魔導士候補生、



(・・・ヴィーエル・・ビーエル・・BL・・)



(・・・・・・・ああ・・・)



(神様っているんだな・・・)


次に入ってきたのは『BL兄さん』をやや幼くした感じで、髪型をサイドテールにした美少女だった。まさにワカママなお嬢様だ。その頭の天辺から爪の先までキラ☆キラ輝くエフェクトが見える。彼女は自分の容姿が優れているのを充分理解していて、それを磨く努力もそれを利用する頭の良さもあるのだろう。将来、男を手玉に取る計算高い悪女になりそうだ。

とりあえず鑑定しとくか



ミナエルラ・ギガクリア 11歳

人間種

ラファエル・ギガクリアの息女(次女)

次期大公位継承第6位

アヴァロン魔導学園5回生



その後を追いかけるように双子の脳筋の弟らしいのが入って来た。背は姉よりも少し高く、髪は短く切り揃えられている。彼の容姿は確かに兄姉同様の美形で素晴らしい素材を持っているのだが、どう見ても横幅と重量感が多過ぎる。

はっきり言おう

栄養取り過ぎだろ。

腹八分って言葉を知っているか?

つまり、パッツンパッツンなのである。わかりやすく言うと

①理想の王子様の容姿を思い浮かべてみましょう。

②そして、その体系をジャイ〇ンにしてみましょう。

③はい、『残念王子』の出来上がりです。

おそらく性格もまんまジャイ〇ンだろう。

はいはい、では、『残念王子』の鑑定結果です。



マグゥーエル・ギガクリア 11歳

人間種

ラファエル・ギガクリアの子息(次男)

次期大公位継承第5位

アヴァロン魔導学園5回生



さて、あとは・・・あれ?おかしい、誰も入ってこない。足音は5つだったはずだ。あと一人はいないのか?いや、メリッサはまだドアを閉じていないってことは・・

その時、ひょこ、と言う感じで5、6歳位の感じの天使が現れた。


(ピロロロン)

マリーエル・ギガクリア  7歳

ラファエル・ギガクリアの子息(四男)

アヴァロン魔導学園1回生



『さあ、マリー様、どうぞお入りください』

『うん、ありがとう。メリッサ』

笑顔でそう言うと、その天使が遠慮がちに部屋に入って来る。

ええ子や、それにメッチャ可愛い!もう、オッチャン、君のファンになってもうたわ。

よし!早速、モフりに行こう!

俺は寝床から出ると天使の方へよちよちと駆け寄っていく


マリーエルは他の3人と同じく碧眼なのだが、彼等とは違い瞳の奥には優しい光を湛えている。

そして一番の違いは美しい金髪だ。おかっぱ頭に天使の輪が煌めいている。言うなれば中性的な美しさだ。本当にメッチャ可愛いとしか言い表しようがない。まるで名画を見ているような気分だ。

よし!もっと近くに行って観察するぞ!

さらに天使に近づこうとした俺の前に不意に誰かが立ちふさがった。

見上げるとそれはミナエルラだった。

彼女は屈みこみ


『イヤアアアアン、この仔とても可愛いですわ』

と、悲鳴をあげた。

クソ、五月蝿いな、それと邪魔だよ!落ち着いて天使が観察できないだろ、さっさと其処をどけよ!


『兄様、私、この仔に決めました。いいですよね』


は?決めた?何言っているの?コイツ、と意味が分からずボーと考えていた俺はいきなりミナエルラに抱き上げられ、ギュウウウと強く抱きしめられる。


『ミー!(あ、あたっている、あたっているって、アバラ骨が!痛い!痛いって言っているだろ、やめろ、やめてください、ゴリゴリするな、やめて~)』


俺はなんとか逃げ出そうともがくが、興奮したミナエルラががっちりホールドして逃げられない。

その間にもゴリゴリと俺の頭蓋骨と精神が削られてゆく


『聞いた?兄様、この仔もイイって。じゃあ早速、従魔契約の首輪を・・』


『ミミー(従魔契約だって?・・それって・・もしかして拙いやつじゃ・・)』


(ピロロロン)

従魔契約

魔導士、魔術師、もしくはそれらの見習いが魔物や精霊と契約し従魔とすること。契約するには主に魔道具や魔法陣を使用する。ただし、双方の同意と魔力の波長が合わなければ契約は不可能。契約はどちらかが死すか、または契約者の任意でしか解約はできない。


ヤバイ・・ほとんど奴隷契約と変わらねえ!


『ミ、ミー(やっべえ、すぐ逃げないと拙いことになる)』


『はいはい、もう、そんなに慌てなくなくても大丈夫よ。すぐ済むからね』


『ミー(ちがうって!はなしやがれ!俺はお前と契約するなんて願い下げだよ!ヤダ!ヤダ!絶対、イヤダ!毎日、アバラでゴリゴリされる未来なんてゴメンだ)』


大体、同意や魔力の相性の話はどこにいった?

抵抗虚しく俺はミナエルラに首輪を着けられてしまう。着けた瞬間、背筋をゾワッとする感覚が駆け抜ける。

(ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ)

『さあ、あとは契約の・・』

そう言うと眼を閉じたミナエルラの顔が俺の顔に近づいて来る。なぜか彼女の鼓動が早い。

なんでやねん!

ま、まさか、契約の・・って、キスなのかよ!ベタだな!でもそれをしたら契約完了ってことだよな。早くどうにかして逃げないと・・

俺は顔を目一杯背けようとするがガッチリ両手でホールドされているので殆ど時間稼ぎにもならない。絶体絶命だ、だれか、ヘルプミー


『ミナ、やめろ!そいつはダメだ!』


間一髪、その声が俺をミナエルラの魔の手から救いだしてくれた。

おお、『BL兄さん』ありがとう助かったぜ


かなり不満そうだったがミナエルラは俺を解放する。

彼女が兄に文句ひとつ言わないのは上下関係がかなりはっきりしているということに他ならないのだろう。


ヴィーエルは俺を顔の高さまでつまみ上げてジーと見つめている。


助けて貰って悪いが、兄さん、俺にそっちの気はないからな!


『メリッサ、コイツは忌み仔だな?』

『はい、ヴィーエル様』

『出来損ないは生まれたらすぐに処分する慣例のはずだが・・・まあいい、後で必ず処分しておけ』

『それは出来ません』

『なぜだ?』

『ギガクリア家の損失になる可能性があるからです』

『損失?こんな魔力も弱い出来損ないが何の役に立つと言うのだ?』

『はい、それでもマリア様がお産みになった仔です。ヴィーエル様』

『血を繋ぐために残しておくべきということか』

『はい、まあ、そのようなものです。ご理解頂き幸いです』

『わかった・・全く話にならんな』

ヴィーエルはそう言って俺を床に投げ捨てた、俺は何とか無事着陸する。

危ねえな、この野郎!動物愛護団体に訴えるぞ!

『何をなさるのです』

あわてて俺が怪我をしていないか、身体中を触って確認するメリッサがヴィーエルを非難する。

『由緒あるギガクリア家の従魔が忌み仔を生んだなど到底許容できるわけがないだろう。いくら損失になろうがこの事が他家に露見し笑いものになるのに比べれば些細なこと。ましてや、その出来損ないと妹を従魔契約などさせるわけにはいかない。お前が出来ないのなら私が直々に処分してくれる。メリッサ、怪我をしたくなければ今すぐそいつから離れろ』

『アクアクロー』

ヴィーエルがそう唱えると三日月型の鋭い水の刃が俺に目掛け放たれる。

『はああ、仕方ないですね』

溜息と諦めの言葉を吐くとメリッサは素早く腕を振りといとも簡単に水の刃を掻き消した。その手にはどこから出したのかわからなかったが美しい深緑の短剣が握られている。

『・・樹属性の魔剣・・・メリッサ、貴様、主人に刃向かう気か』

『誰が主人ですって?いいですか、ヴィーエル様。私の主人、いえ、私に命令できるのはわが師である魔導士ラジュエル・ギガクリア様のみ。そして、わが師から下された命令は唯一つマリア様と生まれた子供達の安全を護る事。よってその命に従い、この仔を害するものは全力で排除することになりますが当然その覚悟はできているのですよね?ヴィーエル・ギガクリア』

美人が怒るとすごく怖いというが、噂以上に段々とメリッサから発せられる空気が剣呑なものに変わってゆく。彼女に保護されている俺も逃げ出したいくらいだが怖くて動けない。その殺気を直接当てられたヴィーエルの顔色は青く、額に尋常ではない汗が噴き出ている。

メリッサさん、おっかねえ!

『くっ・・・』

『どうします?』

『ふ、ふん、い、いいだろう今回は眼をつぶってやる』

『有難うございます。ヴィーエル様』

ふう、やれやれだぜ、それにしても、忌み仔、出来損ないか・・さすがに凹むな。やっぱりこの世界でもアルビノは差別されるみたいだな。

『ああ、それと付け加えておきます。確かに忌み仔は災いの兆しと言われていましたが・・もう昔の話です。まあ所謂、迷信ですね。今ではそんな事信じているのは頭の固いご老人ぐらいです。最近では珍しい毛並の猫妖精ケットシーはプレミアムと呼ばれていて凄く人気があります。シロ若様は毛並もそうですが、特にこの右眼の色・・まるで青い月のようで凄くきれいですから、これも合わせると激レア確実でしょう。もし競売にかけたら凄いことになりそうです』

なるほど、時代の移り変わりと共に評価も変わることはよくあることだ。

日本でも昔、混血の犬は雑種と呼ばれて価値が低かったのに昨今ではミックスと呼ばれてもてはやされているのと同じだ。

そして、どうやらヴィーエルは流行などの情勢に疎いのだろう。

『・・・本当なのか?』

信じられないといった表情で確認するヴィーエル

『もしかしてご存じなかったのですか?』

信じられないといった表情で応えるミナエルラ

『ああ・・・』

『・・・・兄様・・・』

ああ、ミナエルラの中の兄の株が暴落してゆく、ガラガラと崩れて行く音が聴こえてきそうだ。形無しだなBL兄さん、尊敬する兄の残念な事実にミナエルラもすっかり肩を落としている。

『じゃあ、この仔と契約しても問題ないですわね』

いつの間にかミナエルラがメリッサから俺を奪い取ると素早く契約キスを実行しようとする。

切り替え、はやっ!

『止めろ、ミナ!それとこれとは話が別だ』

と、ヴィーエルがミナエルラから俺を取り上げる。

『こんな忌み仔を従魔にしようとするとは、この恥知らずが』

『兄様、頭が堅いです!酷いです!その仔を返して!』

ミナエルラが俺を取り返そうと後ろ足をつかむ。

コラ、お前等、止めろ、力一杯掴むな!俺はまだ仔猫だぞ、生後1か月だ、まだ体ができあがっていないんだよ、痛い!痛いって言ってんだろ!動物愛護団体に訴えるぞ!ああいう人達はホントおっかないんだぞ


『ミナ、いい加減にしろ。手を放せ』


『否です。この仔は譲れません』


ミシミシと不気味な音が体の中から聴こえる、本当にヤバイ、うそだろ、まさか、ここで終わりになるのか?

俺は助けを求めるべく周りを見渡す。

まず目についたのは『残念王子』マグゥーエルだ。

何かにつけてミナエルラに張り合う彼がいやに大人しいなと思っていたら、いつの間にか俺の弟妹達にすっかり夢中で『ぐふ、ぐふふふふ、じゅるる』と気持ち悪い笑みを浮かべながら戯れており、兄達の争いなんて全く眼中にない様子だ — だめだな、コイツは

なら、とメリッサを見るが彼女も止める気配がない。さっきは正当な理由があったので止めたのかもしれないし、これぐらいは許容範囲と見ているのかもしれない。

ちなみに天使マリーは二人の争いを見てすっかり怯えてしまっているから端から論外だ。


ブチン、と何かが千切れる音がした。

あ、詰んだ・・・



『にゃーん』


その鳴き声とともに痛みが引いてゆく、そして母猫マリアがゆったりとこちらに近づいて来くると、ぴょんと飛び上がり、いとも簡単に二人の手から俺を咥えて脱出し、扉の傍に俺を優しく降ろすと慈しむように全身を舐め始める。


争っていた2人はおかしなことにそのまま固まってしまっている。いや、2人だけじゃない。この部屋にいる全員、マリアと俺以外は全く動いていない。というか彼等の鼓動の音も聴こえない。よくよく見ると小さなハエが羽を動かしている途中の姿で止まった状態で空中に浮かんでいる。


時間が止まっている?


『にゃおーん』


そして、もう一度マリアが鳴き声をあげると同時に再び動き始める。


『‼』


ヴィーエル、ミナエルラ、マリーは茫然としている。それはそうだろう何しろ自分たちの目の前から突然俺の姿が消えてしまったのだから。

『にゃー』

マリアが鳴いて彼等に居場所を知らせると4人はようやく扉の傍にいる俺とマリアに気付く


『・・時空魔法・・か・・・』

ヴィーエルがややあって呟く。

『・・すごい・・これが・・・』

ミナエルラも驚いている。


なんと母猫マリアがことを収めたのだ。すげえな、母、助かったぜ。

というか猫に喧嘩の仲裁されるなよ、お前等。

それにしても母猫マリアはやっぱり只者じゃなかったな。

時空魔法か・・・

(ピロロロン)

時空魔法

月の女神の加護を受けた猫妖精ケットシーが得意とする時間と空間に作用する魔法。対象を限定し、その時間を操る。対象は生物、非生物関わらず多岐に及ぶ。対象の時間感覚を速くする『クイック』、遅くする『スロウ』がよく知られている。最上級のものは対象空間の時間を数秒止める『フリーズ』などがある。


チートだ、とんでもなくチートだよ。なんだよ、これ。

半端ねえ、猫妖精ケットシー無敵じゃないか!時間を操作すれば攻撃も回避も簡単、やりたい放題だよ。態々、従魔になる必要なんかないじゃないか!


(ピロロロン)

追伸 猫妖精ケットシーは月の女神の加護を受けているため他属性の魔法は使用不可です。だから攻撃系や防御系の魔法は一切使えません。あしからず。


・・あしからずって、なんだよ!あしからずって!


ああ、そう、そうだよね、そうなんでも上手くいくわけがないよね。わかっていましたよ。いやいや強がりじゃないよ、本当だよ。あれだけ強力な魔法が何の対価もなく使えるはずがない。おそらく時空魔法は本来狩りや外敵から逃れるために使われていたのが発展していったものだろう。考えれば、なんとも猫らしい魔法だよ。それでも支援系としてはこれ以上ない強力な魔法だ。だからこそ猫妖精ケットシーは貴重で魔導士は俺達を従魔にしている。俺達は彼等に力を貸す対価として庇護してもらう。持ちつ持たれつということだ。


『マリア、すまなかった』

『ごめんなさい、マリアたん』

しばらくして、ようやく頭が冷えたヴィーエルとミナエルラが謝罪してくる。かなりバツが悪そうだが。

『に~』

と、まるで返事をするかのようにマリアが鳴く。もしかして言葉がわかるのか?

『マリア様はこう仰っています。(謝るのは私にじゃないはずよ)と』

今まで静観していたメリッサが口を開く。

まるでマリアの言っていることがわかっているような口ぶりだ。一体何者だ、このメイドは?

『ふん、悪かった・・』ヴィーエルは渋々と

『ごめんなさいね、シロたん』ミナエルラは素直に俺に謝る。


『にー(ところで、ミナエルラは随分この仔にご執心のようだけど、無理強いは感心しないわね。本来、従魔契約は従魔の方から主を選ぶもの。意に沿わない契約は双方にとって不幸しか生まないわ。それに、この仔は私のお気に入りなの、だから尚更、不幸な契約はしてほしくない。でも、貴方も引き下がれないみたいだから、こうしましょう。本来の形通り貴方達の中からこの仔自身に選んでもらう。それなら文句はないでしょ。幸い、ここにいる全員と魔力の波長の相性は良いようだし)』

と、マリアが言っている(らしい)とメリッサが彼等に訳して伝えている。

明らかに文字数がおかしいが話が進まないのでここは無視しよう。


『当然、私は辞退させていただく』

『私は希望しますわ』

『ダメだ、ミナ!私に恥をかかす気か』

『にー(ヴィーエル君、さっき言ったことは貴方にも言ったつもりなのだけど・・無理強いはしない。いいわね)』

『・・・・・わかった』

猫に窘められるなよ、兄さん

『にー(そう、よかったわ。では、この仔と契約を結んでもいい人はそこに並んで頂戴)』


マリアにそう言われて、ミナエルラ、マリー、そして何故かメリッサが壁際に並ぶ。


おい!駄メイド、どさくさに紛れて何しとんねん!


『にー(さあ、坊や、選びなさい)』


え~選べと言われても・・そんな重要なこと・・すぐには無理ですよ、母上。せめて1週間ぐらい考えさせて・・・・いや、はい、それも無理なんですね。


俺の弱気を読み取ったのか、母猫マリアがすごい形相で睨んできた。


選ぶしかないのか・・まさか、いきなり将来を決定しかねない選択を迫られるなんて思いもしなかった。

もし彼等と契約したらどうなるか俺は想像してみる


ミナエルラと契約すればとても大切にされるだろう、毎日アバラでゴリゴリされるが

マリーと契約すれば俺が毎日可愛がることができるだろう、主人としては頼りないが

メリッサと契約すれば俺が毎晩可愛がられるだろう、色んな意味で・・


『に~(何があなたにとって大事かよく考えなさい)』


自分にとって何が一番大事か、自分がどうしたいのか、それをするにはどうすれば良いか、よく考えて、考えて、考えて、考えて・・・・・・・

俺は契約者を選んだ。


俺はその人物の前までゆっくり歩き、そして契約の儀式を行った。





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