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3/5

3回目

3話です。2/8改編しました。内容は変わりません。

猫というのは思っていたよりも耳が良いらしい。

らしい、言うのは俺が今回生まれ変わって実体験して初めてわかったからだ。

人間の頃だったら決して聴こえなかったであろう—屋敷の中の色々な話し声、足音や天井裏をネズミや虫などが徘徊する音も聴こえるし、集中すれば母猫や弟妹達の心音さえ聴くことができるのだ。

だから、この部屋に真直ぐやって来る足音には気付いているし、足音のリズムでそれが誰かもわかる。

聞き覚えのある規則正しい足音が部屋の前で止まる。

そして、規則正しくノックの音が響き、

『失礼いたします』との声とともにドアが開けられ、若い女性が入って来る。

年の頃は十六~八歳、身長は一五〇㎝ぐらい、鼻筋が通ってカワイイというよりは美人といった顔立ちで色気のない黒いシンプルなメイド服に身を包み、その蒼い髪は生真面目な性格を表すかのように綺麗に切りそろえられ、髪と同じ色の眼と相まって全体的に冷たい印象を受ける。

一言で表せばクールビューティーといったところだ。

彼女の名前はメリッサ、生まれてからずっと俺達の世話をしてくれているメイドさんだ。

当然、これらの情報は例の鑑定能力で調べましたよ。

では結果発表


メリッサ 16歳

人間種

ギガクリア家メイド


これだけです。すいません、何回やってもこれが精一杯でした。せめて3サイズを・・・

ゲフン、ゲフン・・・


『マリア様、ご気分はいかがでしょうか?』

『に~』


念のために言っておくが『マリア様』と言うのはもちろん母猫マリアのことで同じ名前の人間がいるわけではない、この部屋にはメリッサ以外人間はいない。


『マリア様、紅茶をどうぞ』

『に~』

『マリア様、お食事です、どうぞ』

『に~』

『マリア様、毛布とシーツを交換しますね』

『に~』

念の為もう一度言うがこの部屋にはメリッサ以外人間はいない。

この部屋にいるのは最初から俺達 — つまり、猫だけだ。

そう彼女は誰も見ていないのに俺達=猫に対して、敬語を使い、甲斐甲斐しく世話をしているのだ。

その所作は嫌々やらされているといった様子ではなく、さも当然のごとく自分の行動に疑念を一切抱いていないのが見てわかる。

はっきり言って、彼女は変だと思う。

とは言っても、それは俺の記憶にある以前の常識から見ればの話であるが。

そもそも『常識』とはとても曖昧であやふやなものだ。

それは、時代や環境によって容易く変わってしまうものだ。

例えば、過去に実際アメリカでは禁酒法が施行され飲酒目的のアルコールが製造、販売、輸送が全面禁止されていたという事を思い出せば簡単に理解できるだろう。

つまり、ここでは俺から見て変だと思う彼女の行動も常識の範疇なのだ。

何しろ時代どころか世界そのものが違うのだ。

異世界

信じたくはないが俺が持つ鑑定の能力、それで得た情報の魔導士やケット・シーと言った単語、そして、何より彼女の事が確証となった。

まず彼女の様な蒼色の髪なんて元の世界では見たことがなかった。

染色したものや、ウィッグのような不自然な蒼色ではなく、なんというか神秘的としか言い表せない深くて美しい蒼い色で、それが彼女にとても馴染んでいる。

また彼女の書いたメモや本などに書かれている文字は全く見覚えがないものだった。

そして決定打は彼女が魔法を使うのを見たからだ。


一昨日の出来事だった。

いつものように彼女が俺達の部屋に来て甲斐甲斐しく世話をしている最中、1m程離れた壁に奴が現れたのだ。

カサカサと素早い動きは恐怖を抱かせ、飛べば阿鼻叫喚に陥れ、世界の終わりが来ても必ず生き延びるだろう驚異的な生命力をもつ、ある意味人類最大の敵と言っても過言ではない悪魔の虫、あのGが出現したのだ。

ただし、色は黒や茶色ではなく、青色で違和感が半端なかったが・・


『ミ!(ゲえッ!)』

見つけてしまった時、俺は思わず呻いて後退った。

(うわあ、出たよ。出来れば今世では再会したくなかった・・)

『ミ~?ミミミッ(え、ちょっ、待て、待て、待って、ダメ、ダメ、やめて!)』

『ミュウ、ミミッ(やめなさい、身構えないで、コラコラ、ダメ、ダメ、汚いから!)』

何故、俺がいきなり焦っているかと言うと好奇心旺盛な弟妹達もGを見つけ、興味津々、体を低くしてシッポを激しくフリフリしながら獲物を狩る体勢をとったのだ。

まさにロックオン『狙い撃つぜ!』と言った感じである。

『ミャウ(ダメだって、お前達は知らないだろうけど、あれにはピロリ菌とかバイ菌が沢山いるんだから病気になったらどうするの、良い子だからおとなしくしようね)』

必死で阻止しようとするが弟妹達の興奮は収まらない

エメラルドグリーンの瞳がいつも以上にキラッキラッ輝いているし、眼の錯覚だろうか体全体も光っているように見える

『ミ~、ミ!(ああクソ、こんな時でもカワイイな、こんチクショウ。非常事態発令!緊急事態発生!救援求む、―って、母よ、お前もか~)』

母猫乱入!もう収拾がつかない。

そして俺達が騒ぎ始めたせいで、メリッサもGに気付いた。

俺はGを見た彼女が一体どんな反応をするのかちょっとだけ興味があったもしかしたら、普段、冷静な彼女が可愛い悲鳴を上げたり、涙目になって逃げだしたりするのかも、と要はギャップ萌えを期待していたのだが—

彼女は少し眉を顰めると

『クリアボール』

と、呟くように唱えた。すると彼女の手のひらの3㎝程上に水滴が集まりだし、あっという間に直径8㎝ぐらいの水の球になってGに目掛けて放たれる。

『ミ?(あれって魔法?でも・・)』

思わず俺は顔をしかめる。

このままだと間違いなく水の球がGをグッシャアと押し潰し、中身がグッチャアと撒き散らされて、綺麗な壁に世界一見るに堪えないアートができてしまうと思ったからだ。


だが、予想に反して水の球はGに命中するとすっぽりとその中に奴を閉じ込めると、壁にグシャッではなく、ポヨヨ~ンという感じで跳ね返り、シャボン玉のように空中に浮かんでとどまっている。

なるほど、閉じ込めて窒息させるのか。ちょっと拍子抜けだけど思ったような危険な魔法じゃなくて良かったよ。

まあ、さすがにメイドが自ら部屋を汚すような真似はしないか・・などと俺は安心したのだが、


ジュウウウウウウウウウ、シュルルルルルルルッ、パッシュッン


と、不気味な音を立てて球の中の水が渦巻きながら、Gを分解、いや、跡形もなく溶解すると霧散した。



(・・・・・・・・・・・・汗)


訂正します。思った以上に危険な魔法でした。


そして、そんな危険な魔法を行使した彼女は何事もなかったかのように再び甲斐甲斐しく俺達の世話をし始める。

どうやら彼女はそれなりに強いのだろうと思う。どうやら彼女はただの使用人というだけではないようだ。

絶対に彼女を怒らせないようにしよう、そう俺は心に誓うのだった。



クールで美人、常に冷静沈着で何事もソツなくこなし、魔法さえ使いこなす

そんな、ある意味完璧人間である彼女なのだが・・・・・・・


『はあ、はあ、じゅるるっ、さあ、若様達も綺麗にしまちょうね』


俺達=仔猫の世話をする時には、必ず心音は乱れ、恍惚とした表情で息遣いも荒く、瞳が怪しい光を湛え始める。

本人は平静を装っているつもりなのだろうが、ダダ漏れている心の声のつぶやきも俺達に丸聴こえなのだ。


『はあ、はあ、モッフモッフ、じゅるるっ、プニプニ、堪りません!』


そして、俺達は彼女からのお世話、もといセクハラをされるがまま、なすがまま、彼女の気が済むまで受け続けるのだ。


『うふふふふ、はあ、はあ、ん、もう、シロ様、逃げちゃ、メです』


なかでも俺は彼女のお気に入りフォルダに登録されてしまっているようだ。


コイツもかよ!


彼女は興奮のあまり俺を抱き上げると柔らかな双丘の谷間に包み込む、“もにゅん”結構大きい・・・どうやら着痩するタイプなようだ。


『シロ様、シロ様、ああ、この毛並、このモフ具合、プニプニ最高!もう、食べていいですか?というかもう食べます、良いですね』


『ミ~(決定事項かよ! ってかダメに決まっているだろ)』


『有難うございます、では遠慮なく、イタダキマス』


『ミ~、ミミミ!ミー(了承したんじゃねえよ!この駄メイド、誰かヘルプ、ミー)』


ファンタジーな世界のくせに【意思の疎通ができない】という大事なところがやたら現実的な状況に俺は辟易しながらメリッサに一方的に弄ばれ続ける。


常識は別として、彼女は変・・いや、変態さんだった。




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