責めてる訳じゃないのよ?
バタンと風で木製のドアが引くまでもなく閉まった。とたん、部屋の中から冷気が消えていく。外気を遮断するだけで体感温度はずいぶん変わってくる。
アワユキが小屋に入ったとき、部屋ではミメイが囲炉裏で火を起こしていた。火の灯りが、その周りに座った三人の姿を照らしている。
「ふう、落ち着きますね」
「ホッとするよね。外がむちゃくちゃ寒かっただけに」
囲炉裏の前に手をかざしながらカグラが言った。
「アワユキも座ったら? 今お茶淹れるから」
「淹れてるのは俺だけどな」
見れば、ミメイがヤカンとカップを用意している。ヤカンの中に雪を入れ、天井から吊るされたロープとフックにセットして囲炉裏の火で熱することしばし。カタカタとヤカンの蓋がカタカタと音を鳴らし始めた。蓋を外し、乾燥した茶色の茶葉を入れた。
「なんというお茶ですか?」
濡れた毛皮のコートを壁側のフックに吊るし、アワユキも車座に加わる。焚き木の熱気が肌をピリピリと刺激する。凍えて悪くなっていた血流がほぐれていくのがわかる。
「アール茶って現地の奴は教えてくれたな。温まるし、健康に良い成分が含まれている、らしい。本当かどうかはわからねえが」
手袋をはめてヤカンを持ち上げ、それぞれのカップに注いでいく。薄い茶色の液体が湯気を立てながらカップに満ち、隣で座っていたカグラがオウカとアワユキに回す。カップは火傷するほど熱く、冷たい手袋をもう一度はめなおしてもお釣りがくるくらいだ。何度も息を吹きかけて、ようやくちびちびとすすることに成功する。それでもまだ熱かったのか、オウカは顔をしかめながら舌を歯にあてて痛みをこらえる。
「ああ、美味い」
ほうっと長い息をついてカグラがつぶやいた。体の奥から湧き出た本音だった。
「香りが少し違うけど、僕の世界のお茶と味がよく似てる。あぁ、落ち着くなあ」
「・・・そうか、気に入っていただけて何よりだ。まだあるぞ」
珍しく気を使ったミメイがカグラのカップにお茶を継ぎ足す。
「ほら、もっと火に近づいて温まりなさいよ」
オウカまで気を使いだした。なんだこれは、どうしたことだ? カグラの脳内に疑問符が浮かぶ。
「どうぞ、これ、備え付けの毛布です」
アワユキが小屋の隅にあった毛布の、いちばん汚れの少なそうな一枚を差し出す。
「え、ちょっとどうしちゃったのみんな。なんでこんな優しいかな。あは、あはは」
カグラが三人を見渡す。妙にしんみりとしてお通夜みたいになっていた。そこでようやく自分の先ほどの発言に気づく。あれでは、自分は郷愁の思いをはせているように聞こえてしまう。
「おぉう、失言だったかねぇ・・・」
自分としては何気ない一言だったのだが。
カグラは召喚の誤作動でこの世界に放り込まれた。その原因がオウカの魔神召喚の儀式だった。彼女らにとって、カグラは帰る場所を失った被害者であり、自分たちは加害者なのだ、という引け目が少しある。
「いや、その、そういう意味で言ったわけじゃないし。そんな気にするこっちゃないんだよ? 僕もそんな気にしてないし、こっちでの生活も結構気に入ってるしね?」
しんみりした空気が苦手なカグラは盛り上げようと明るくいってみたが、逆効果だった。
「うん。わかってる。わかってるから。私が必ず、あんたをもとの世界に戻してあげるから」
「姫さんからかつてない優しいお言葉?!」
「可能な限り協力するからな。だって、相棒だろ」
「ミメイさん? どったのミメイさん急に?」
「悩みがあるなら言ってください。いつでも相談に乗りますから」
「嬉しいけど、その言葉は嬉しいけど今そういう言葉が聞きたいんじゃないんだよアワユキさん・・・」
変に気を使われ、逆にいたたまれなくなったカグラは勢いよく立ち上がり
「無性に雪だるま作りたくなったんで作ってきまっす!」
ダウンジャケットとランプを持って外へ駈け出した。
続きを書かせていただきました。
ちょっとづつちょっとづつ頑張ってます。
区切り方は場面が変わったら、を意識してます。