前回のあらすじ的な話
「あああああもう! 寒いぃぃいいいいいいっ!」
亡国の王女オウカの絶叫が風雪吹き荒ぶ雪山に木霊した。
モコモコ毛皮のポンチョで全身を覆い、頭には毛皮の帽子をかぶっている。帽子には、はじめは尻尾が付いていた。尻尾がフリフリでラブリーと思っていたのもつかの間、風で前後左右に揺れてぺちぺち持ち主を叩く尻尾の邪魔なこと邪魔なこと。憐れラブリーな尻尾は苛立ったオウカによって引きちぎられ、鞄の中に放り込まれてしまった。いずれ焚き火の燃料となるだろう。彼女に制作した職人に対する敬意はなかった。
「うっせえな。解りきったこと耳元で叫ぶんじゃねえ」
隣を歩いていた男、ミメイが顔をしかめながら両耳を塞いで抗議する。彼もまた雪山にふさわしいジャケットを羽織り、腰には二振りの小太刀、背には大きなリュックを背負っている。
「何よ、寒いところで寒いって言って何が悪いのよ」
「余計寒くなるって言ってんだよ。叫んだら叫んだだけ体力を使うんだ。黙ってひたすら歩けよ」
「細かい事ねちねち言うんじゃないわよ。大体ね、あんたがセッカに行きたいなんて言うから、私たちはこんなところで雪山登山中なんでしょうが!」
「セッカに行くのははじめから決まってたことだろうが。お前が聞いてないのが悪い。この前のことを忘れたのか」
「前のことは謝ったでしょ。昔のことをほじくり返すなんてなんて器のちっちゃい男なの!」
「その昔のことを覚えてないのはどこのどいつだよ」
「よしなさいって」
いがみ合う二人の間に割って入ったのは二十四時間働く男の証、リクルートスーツの上に防水・保温性に優れつつも二百グラム以下の軽量と大幅プライスダウンに成功したダウンジャケットを着込んだカグラだった。彼女たちの喧嘩はいつものことであり、彼がそれを止めるのもいつものことだった。
「このくそ寒い中なにじゃれあってんの。先に急ごうよ」
「じゃれあうかこんな奴と。こいつがいつも俺に絡んでくるんだよ」
「こっちのセリフよ馬鹿野郎。ふん、どうせあれでしょ。私に突っかかってくるのは、男の子が可愛い女の子に素直になれずに意地悪しちゃうのと同じでしょ。ふ、可愛いって罪ね」
オウカは言う人を選ぶセリフをはいた。これがただの人であれば冗談か自意識過剰ではあるが、オウカはそのセリフをはいて許される愛らしい容姿をしていた。ただ、性格が少し、いや、かなり残念だった。喋らなければいいのに、を地で行く最たる例だった。
「そこで幻覚でも見ながら凍え死ね」
苛立たしげに言い捨てて、ミメイは雪を掻きわけて先に進む。
大陸の東の端に位置する小国が、経済危機により崩壊した。崩壊した国は世界中に広まる宗教国家に売り渡されることになった。
小国の名はイクグイ。そのイクグイの王女であったオウカは国の消滅と共にその身分を失い、ただの少女となった。
だが、彼女は諦めが悪かった。いつか必ず、国を買い戻そうと心に誓った。
その最初の一手として、彼女は魔神を復活させることを目論んだ。イクグイ王国には魔神の伝説が残っており、その強大な力を我がものにせんと画策した。
儀式当日、彼女は盗賊に襲われるも商人兼傭兵であるミメイに助けられる。ミメイは商人特有の勘の良さからオウカから金の匂いを嗅ぎ取り儀式に同行する。
だが儀式は失敗なのか成功なのか良くわからないまま終わる。
儀式に成功した時に現れる証、『夜明け』と『黄昏』の腕輪が二人に装着された。だが、現れたのは魔神どころかただの人よりも弱そうな、異世界から迷いこんだ男、カグラ。
どうしようもなくなったオウカは自分の教育係であり姉代わりでもあるアワユキに相談。アワユキは問題を解決するために一つの提案をする。
「我々でギルドを結成しましょう」
これは、全員にとって有益な方法であった。
ギルドとは、依頼をこなすことで報酬を得る集団のことだ。依頼内容が困難になればなるほど報酬は跳ねあがる仕組みになっている。これにより、オウカの目的である金を稼ぐことが出来る。
またギルドの仕事に遺跡の調査というものがある。
この世界には先史文明が残した遺産がいくつか存在している。先史文明は優れた技術を持っていたらしく、その理論や道具は今を生きる人々に恩恵を与えた。もっとも有名なのが『宝珠』と呼ばれる道具とそれが生み出す『術』という効果だ。宝珠によって火や水を生みだせるようになり、人々の格段に生活は豊かになった。
カグラが自分のいた世界から飛ばされたのも、そんな古代の遺跡に存在した品が作用したためだった。召喚の儀式とは、つまるところ先史文明の遺跡の力を用いて、異界の住人を呼び出して使役するものだったのだ。これにより、彼は故郷から次元を超えた遠い場所へ単身赴任してしまう。
それ以上に大きな問題は、オウカとミメイに填まっている腕輪だ。魔神召喚の儀式で現れたそれは、魔神を現世につなぎとめておくための力が働いていて、無理やり外そうとすれば死に、また、どちらかが死ねばもう一方も死ぬ、という危険性をはらんでいた。
だがこれもまた、先史文明の遺産に違いない。
故にギルドとして活動し、調査等で遺跡に関わる機会を増やせば、カグラを元の世界に戻す方法も、腕輪を外す方法も見つかるかもしれない。
最初は見知らぬ、それも怪しい男が二人も同行することに難色を示したオウカだったが、アワユキに説得され渋々承諾、ここに新米ギルドが誕生した。
最初の案件で同じギルド、それも高ランクのギルド『大地の盾』に騙されて一時はピンチに陥ったものの、ミメイ、アワユキの活躍やカグラの魔神の力にてそれを退けた。そのうえ、負かした相手『大地の盾』に極悪な条件を取りつけ、毎月高額の報酬を受け取ることにも成功していた。現時点で急ぎ解決しなければならない補給の心配がなくなったため、生活資金をさほど気にする必要が無くなった。
しかしそれでも、彼女たちは新米ギルドに変わりはなく、新米に任せる仕事が無いとすれば移動するしかなかった。生活資金に問題が無くなったというわけで、狙いを遺跡調査に絞る。かねてより候補に挙がっていた、隣国で一番遺跡数の多いセッカ国に向かうことになったのだが・・・
続きを書かせていただきました。
ぶっちゃけ前回のあらすじです。
読んでいただいている皆様向けというより
作者自身に向けたもので、内容を再度読み込むためのものです。
なのでここから読み始めても大丈夫(笑)!
読んでくれてありがとうございます!