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はみ出し者たちの建国記  作者: 叶 遼太郎
アウトロウ結成
4/16

報復と登録と法の外

「くそ、まだ報告は来ないのか!」

 高級レストランのVIPルームで、老人はグラスをテーブルに叩きつけた。彼こそ大地の盾ギルドマスターであり、今回の首謀者であった。

 ギルド『大地の盾』は、発足当初は発掘と古代史研究がメインの小さなギルドだった。メンバー全員が他に職を持ち、休日などに集まって遺跡を巡り、古代の謎を純粋に追い求めるだけの趣味の集まりだった。ギルドとして登録しておいたのは、斡旋所からの情報が手に入るためだった。

ある日、大地の盾は赴いた先の遺跡で他のギルドに出会った。出会った、というのは語弊があるかもしれない。彼らは遺跡の罠を作動させ、大けがを負っていたのだ。けがを負った彼らを介抱し、出来得る限りの治療を施したものの、彼らは息を引き取った。近くの街へ運ぶ途中のことだった。亡骸を埋葬しようという段取りになって、せめて身分がわかるものはないかと調べた際、ボロボロの布袋から遺品を発見した。宝珠とまではいかないが、それでも充分に価値のある遺品だった。

彼らの代わりにこれを公表した。遺品は万人の生活環境を向上させるために公表されるべきだ。最初は本心からそう思っていた。それだけで終わっていれば、彼らは小さなギルドとして一生を終えていただろう。平凡でありながらも、ささやかな幸せの中で生涯を終えただろう。

だが彼らはそうはならなかった。遺品発見の功績は彼らのものとなり、莫大な財産と認知度を得ることになったのだ。

人々から送られる賛辞と尊敬のまなざしで彼らは酔いしれ、金の山は人格を狂わせるのに十分だった。金と人気があれば人が集まるのは道理。次の日から大地の盾に入団希望者が続出した。人が集まれば多くの仕事が受注できるため、資金はどんどん増えていった。金があれば武器も人も比例して増加する。ギルドの規模はどんどん膨らんだ。たったひと月でギルド『大地の盾』は、世界中に山ほどある弱小ギルドから大所帯の有名ギルドへと変化した。

彼らは味を占めた。誰が発見しようと遺品は遺品。誰が使うか、誰が公表するか、誰が売るかなのだ。彼らの良識、道徳観は完全歪んでしまった。

ギルドマスターになった老人がグラスに手酌で酒を注ぎ、一気に仰いだ。ボトル一本が馬一頭分の値段がする高級酒を味わうわけでなく、ただ苛つきを抑えるためだけに浴びるように呑んだ。製造主がみたらむせび泣くのは必至だろう。

まだか、報告はまだか。小娘の死亡報告はまだか。

愚かな娘だった、と老人は自分が死地に追いやった少女のことを思い出す。根拠のない自信を持ち、世間を知らず、己を知らない何一つ価値のない娘だった。

 いや、一つ価値があるとすればその容姿だろう。整った顔立ち、瑞々しい穢れを知らぬ肌。高慢そうな性格も良い。そんな娘を強引に押し倒し、苦痛によって美しい顔をゆがめ、遂には何人もの男に囲まれあえぎ声を上げる様を見てみたかった。飽いたら、隣にいた亜人の娘で楽しむ。毛色の違う女を抱くのも一興だ。もしかしたら、奴らは私の知らないところで楽しんでいるのかもしれない。それで遅れているのなら、けしからん、報酬を削ってやる。これから半刻遅れるたび一割ずつ引いてやる。

 そんな高級酒を何本も開けたころ、外が騒がしくなった。何か騒ぎがあったのか。それともまさか!

 老人の期待が膨らんだ。やっと報告が来たか。散々待たせおって。やれやれと老人は椅子に深く腰を落ち着けた。老人の期待を裏付けるように、数人分の足音が部屋に向かって近づいてくる。

『・・・て、止まっ・・・・』

『ど・・・、・・・・れと・・・・いの?』

『・・・・の先・・・・、・・・・可な・・・・・』

『・・・丈夫、・・・・から・・・・』

 ドア越しにくぐもった声が響いてくる。どうやら店員がうちの部下連中を足止めしているようだ。困った奴らだ。こういう店に入るにはきちんとした服装でなければ入店を許可されることが多い。どうせ武装したまま入ろうとしているのだろう。店員も店員だ。私の部下は通せと言っておいたはずなのに。

勢いよくドアが開き、バタバタと部下たちが入ってくる。

「遅いぞ貴様ら。いつまでかかっ・・・て・・・・」

老人の声がしりすぼみになって消えていく。入ってきたのは待ち望んだ部下の姿ではなく、世間知らずのガキと蔑んだあの少女だった。その後ろには亜人の娘と、見知らぬ男が二人立っていた。

「お待たせして申し訳ありません。ですが、この通り、依頼品を持ち帰ってきましたよ?」

 少女はにこやかな笑みを浮かべてこちらに何かを放った。テーブルの上に音を立てて落ちたそれは、確かにあの遺跡に行って死んだ部下が持っていたものだった。彼女の後ろでは、連れの男たちが「仕事の話だから」と店員を追い払いドアを閉じた。

「な、なぜ貴様がここに・・・・」

 目の前のことが信じられない。夢でも見ているのだろうか。酒で見る夢がこれほどの悪夢なら今後酒を断つ。老人はそう決心した。老人の決意など知ったことではない少女オウカは笑みをたたえたまま、その内側にマグマのような怒りを漲らせていた。

「なぜ? なぜとおっしゃる意味が良くわかりません。私たちは貴方の依頼を受けてそれを取りに行っただけですよ? 依頼を達成して、戻ってきただけです。それをなぜ不思議がるのでしょうか」

「と、とぼけるな! ぶ、部下はどうした! 遺跡にいたあの巨人は! 貴様ら一体どうやってぷぎゃぁっ!」

 老人の言葉はつかつかと歩み寄ったオウカの見事な右フックによって遮断された。椅子ごともんどりうって老人が倒れる。鼻血で上等の服を汚す老人を踏みつけ、オウカの怒りがとうとう爆発した。

「ざけんじゃねーわよこのくそ爺が。よくもまあこの私を騙したわね!」

 ガツンと全力のフットスタンプ。鳩尾に入り、老人は体をくの字に曲げ、転げまわって呑んだ酒を一気に吐き出した。

「汚いわね。靴にちょっとかかったじゃない!」

 横向きになっていた老人を蹴り飛ばし仰向きにさせる。今の彼女に容赦という言葉は無い。

「ひ、ひぃ」

「ひいじゃねえわよ! あんたは豚よ。人間の言葉をしゃべるな!」

 再度のスタンプは男にとって致命傷だった。老人は泡を吹いて白目をむいた。そばで見ていたミメイとカグラが思わず小さく悲鳴を上げ、自分の股間を両手で押さえて内またになる。必殺の一撃だった。

「オウカ様。それ以上やると死んでしまいます」

 それまで傍観していたアワユキがオウカの肩に手を置いた。そう、傍観していたことからもわかるように彼女も怒っていた。ただそれ以上に優先する物があるので、自分の怒りと打算の妥協点で止めに入る。

「殺すつもりでやってんのよ。わかる? 私これ以上ないってくらい怒ってんのよ?」

「お怒りはごもっともですが、それでは私たちの益になりません」

「なるわよ。とりあえず私の気分はすっきりするわ」

「我々の最終目的を忘れないでください。こんな老人を殺しても良心の呵責は全く苛まれませんが、利益も生まれません。ですが生かしておけばそれなりに使えます」

「どう使うってのよこんなクズ。細切れにして魚の餌か、裸にひんむいて殴ってくださいと看板立てて大通りの広場にさらしておく使い方しか思い浮かばないけど?」

 「まあ任せてください」とアワユキは気絶している老人の半身を起こし、喝を入れた。老人が意識を取り戻す。

「大丈夫ですか」

 後ろから回り込み、アワユキが老人に話しかける。

「貴様ら、私をこんな目にあわせて、た、ただで済むと思っているのかっ?」

 あくまで強気に返す老人。

「どうやって逃げてきたかは知らないが、大地の盾を甘く見るなよ。貴様らのような生まれて間もないひよっこギルドとは規模も実力も経験も違うんだ。今もきっと、私の仲間が異変に気付き、ここへ軍隊を差し向けているころだろう。そうなったら貴様らではどうにもできん。逃げるなら今の内だ。だが、逃げ切れるとは思わないことだ。草の根わけても見つけ出し、殺してやる。貴様らは追われる恐怖を味わって残り少ない人生を怯えながら暮らすが良い」

 決まった。ここまで言えばいかに愚か者どもでも私に許しを請うに違いないと老人は確信した。だが、彼女らの表情に浮かんだのは、人を馬鹿にしたような嘲りの表情や憐みの苦笑であった。

「ミメイさん。あの人をお連れして」

 アワユキの指示にミメイが一旦部屋を出て、すぐに戻ってきた。彼の隣に立っている人物を見て、老人は心臓が止まるかと思った。

 立っていたのは老人の信任厚い部隊長だった。優れた法術師であり指揮官でもある彼にオウカたちの後を追跡させ処理を任せたのだ。彼を見た老人の頭がパニック状態に陥った。老人の推測では、オウカたちは彼の追跡を振り切ってここまで進撃してきたことになっている。大地の盾のマスターである自分を抑えれば、部下たちも大人しくなるだろうという魂胆だと思っていたからだ。だからさっきからギルドの凄さを語り、自分を人質にしても無駄だという論法で追いつめていたのだ。

「ま、マスター、無理です。無茶です。この方々に逆らっちゃ、駄目です・・・」

 息も絶え絶え、という様子で部隊長は言った。

「どういう、ことだ。なぜお前がここにいる。部隊はどうした。他の者は?」

 狼狽した老人の問いに、部隊長は顔を伏せ一言。

「降伏しました」

 老人から血の気が引いていく。

「な、んだ、と?」

「部隊は圧倒的な戦力差の前に降伏、ギルド本陣からも援軍が到着したのですが、敗北しました。大地の盾は、この方々に全面降伏したんです」

「信じられるか! 千人だぞ。武装した傭兵軍団千人が、たった四人に敗北したなんて信じられるわけが無かろうが!」

 叫ぶ老人の肩がポンポン、と叩かれる。振り向く先にカグラが立っていた。彼の手には老人の見慣れない箱が握られている。

「信じられないのも無理ないけど、本当なんだよね。こいつが証拠。デジタルカメラって言って、詳細は省くけど、ようはその場で起こっていることを映像で記録しておける道具なんだ。百聞は一見に如かず、見てみてよ」

 カグラが操作すると、画面が再生された。どこかの岩場が映り、ずらりと武装した兵が隊列を組んでいる。老人自慢の大地の盾の大部隊だ。その前に、カグラが現れた。腕にはあの砲が付いている。

「音聞こえないな。画面もぶれてるし。ちょっと姫さん。自分から使ってみたいって言ったんだからちゃんと撮ってよ。僕の晴れ舞台なのに」

「うっさいわね。仕方ないじゃない初めてなんだから。だいたいあんたの教え方が悪いのよ。初めての人間にも簡単に使えるよう教えるのが本物よ」

 映りが悪いとか、音声が届いてないとか、老人にはどうでもよかった。カグラの砲が輝き、光の帯が放たれたかと思うと、またたく間に全員の武器を破壊していったのだ。軍隊は一気に戦意喪失し、降伏した。降伏するしかなかった。勝てるはずがないと、悟らざるを得ない力だった。

「こんなわけで、あんたの自慢の軍団は僕たちが押さえたよ。それでも嘘だというなら、証拠見に行く? 今、外で全員正座させて待たせてるけど」

 しばらく呆然として、再生の終わった真っ暗な画面を見ていた老人がぽつりと一言こぼす。

「お前らは、一体何なんだ・・・」

 憔悴のためか、老人の頬はごっそりと削げ落ちて一気にふけこんだように見えた。

「私たちが何者かなんて、この際どうだっていいでしょう。それよりも、どうします?」

 アワユキは老人の耳元に口を寄せ

「絶体絶命ですよ?」

 歌うように、楽しそうに囁いた。びくりと老人が体を震わせる。

「私をどうする気だ?」

「それはあなたの態度次第です。いまやあなたの命は私の気分次第ということをまずご理解ください」

 老人が何度も小刻みに頷く。

「よろしい。私のお願いさえ訊いていただければ、あなたの命は保証します。どころか、ギルドも何一つ危害を加えることなくお返ししましょう。どうです? 好条件でしょう?」

「どう、どうしろ、というのだ」

「この書類にサインをしてください。それで万事解決です」

 アワユキがテーブルの上に一枚の用紙を広げた。カグラが老人を立たせ、椅子に座らせる。

「実はこんなに遅くなってしまったのは、この書類を作っていたからなんですよ。申し訳ありませんでした」

 全く悪びれてない調子でアワユキが言った。書類に目を通していた老人の顔色がまたしても変わっていく。

「何だこれは! こんなもの、こんな要求、呑めるわけがない!」

「呑むしかないと思いますけどね。嫌だというなら、あなたのギルドを丸々我々が貰い、あなたのポストだけを入れ替えます。無理かどうか、試してみますか?」

 ハッタリであるはずがなかった。あんな映像を見せつけられて、それでも逆らおうという気がどうして湧くのか。しばし顔色を赤や青に変化させて逡巡していた老人であったが、最後にはガクリと項垂れ、要求を呑んだ。

「上手くいったな」

 後ろでぼそぼそとミメイとカグラが内緒話。

「まったくだね。実はあれだけの出力でファランクスの砲撃ぶっ放せるのって一日に一、二回くらいが限界なんだけどね」

 カグラの話では、あれを使うと無茶苦茶疲れるらしく、乱発は不可能とのこと。動力源である『メビウス』は、地を砕き海を割る出力を叩きだせるが、カグラ自身の体力がエネルギーであるため限界があった。一旦使い切ると、休むなどして回復させる時間が必要なのだ。

「まあ、ゲームで言うマジックポイントみたいなもんだよ。アイテムか宿屋で回復させるしかないんだ」

 ゲームやマジックポイントが何かさっぱり分からないのはともかく、一日に数回しか使えないなら使いどころが問題だ。ミメイとアワユキは作戦を練った。どれほど強力な武器を持っていても、相手は世界に名だたる大ギルド。人数も半端ではない。どうすれば最も効果的に使えるか、相手に二度と逆らえない気を起こさせるかを考えた。思いついたのが、派手に見せつけて《脅迫》することだった。何も敵に命中させて皆殺しにする必要はない。最初に戦った部隊のように、全員の戦意を挫けば勝ちだ。むしろ殺害してしまえば余計な反抗心を持たれかねなかった。ゆえに、全員をおびき出して脅迫シーンの撮影と相成った。


 翌日、オウカたちは再び斡旋所へ赴いていた。オウカを見た途端、受付嬢が怯えた目をして身構えた。先日会った受付嬢だった。その前へとオウカはずんずんと進み出て、ガバッと勢いよく頭を下げた。

「先日は、本当に申し訳ございませんでした!」

 受付嬢が「へ、は?」と驚きのあまり警戒を解く。そこへすかさず口が達者なカグラが援護する。

「いや、あれからこの子も反省したんですよ。ひどいことを言ったってね」

「そ、そうなんですか?」

 それでもまだちょっと疑わしげな目を向ける受付嬢に、カグラはわざとらしくもハンカチを握りしめながら語る。

「実はね、この子も苦労してるんですよ。多額の借金を抱えちゃって、何とか返そうと必死になってた。でもなかなかうまくいかない。そのイライラのせいで、つい当たっちゃったんだ。どうかそのあたりの事情も組んで、許してくれないかい? 僕からもお願いするよ。この通り」

 カグラもきっちり四十五度の礼をする。さすがは流浪の就職難民、礼に始まり礼に終わる社会人のマナーも完璧だ。つられるように後ろに控えていたミメイ、アワユキもお辞儀する。四人は頭を下げて、受付嬢の反応を待った。

 しばらく時間がたったが、何ら反応が返ってこない。オウカはこっそりと受付嬢を盗み見た。

「う、ううっ」

 すすり泣いていた。泣き声を聞き、他三人も顔を上げる。

「あ、あなたも苦労したのですね。それでも挫けずに、戦い続けようというのですね」

「え、うん。まあ」

 逆にオウカが若干引いていた。ここまで上手くいくとは思ってなかったからだ。当初の予定では、「それじゃあ仕方ありませんね」くらいの感じで許しを得て、ギルド登録をするはずだったのだが、こんなに同情されるとは思わなかった。

「多額の借金、ご両親の病死、味方の裏切り、村八分、相次ぐ不幸にもあなたはめげず、ギルドという茨の道を踏破しようというのですね。お姉さん、感動しました!」

 どうやら彼女の中ではオリジナルストーリーが展開されているらしい。感極まった受付嬢は台から身を乗り出し、オウカの手を取った。

「今日から私はあなたの味方です。私の力なんか微々たるものだけど、喜んであなたの力になります!」

「あ、ありがと」

「あなたの情報を他の店舗へ伝えておきます。私の紹介ってことであれば、隣国にある斡旋所なら優先的に仕事回してもらえますから。他にも有益な情報も押さえておきますので、どこか街によったら必ず斡旋所へ顔を出してください」

「えっ」

「私に出来るのはそのくらいだけど」

 受付嬢と握られた手を交互に見比べて、オウカは困惑していた。

 彼女の申し出を、以前の自分であれば「当然」と思い感謝などすることもなく受けていただろう。だが今のオウカは違った。たった数日間の経験が、彼女を成長させていた。柔軟な頭と心はその経験を咀嚼し、吸収し、彼女の知識となり道理となった。アワユキやミメイがあれほど信頼、礼儀と繰り返していた理由が今なら分かる。

 だからこそ、受付嬢の申し出を素直に受けていいのか迷っていた。自分にその資格はあるのか、と。自分の矮小さをしったオウカはすっかり自信を喪失していた。

「せっかくの申し出だ。お願いしとけよ」

 後ろにいたミメイがオウカの迷いを見透かしたように言った。良いの? と目線で尋ねる。

「それは俺に訊くことじゃない。受付のお姉さんに訊け」

 言われて、視線を前に戻す。

「その、良いの? 私、あなたに酷いこと言ったのに」

「良いんです。その年でそんな苦労しょってるんだもの。仕方ありませんよ。そりゃ、確かにあのときは怖かったけど」

 目もとの涙をぬぐって受付嬢は言った。

「でも、あなたきちんと謝ってくれたじゃないですか。自分の非を認めたじゃないですか。この世界にいると、自分の間違いを認めない連中が結構いるんです。たとえば、遺品を暴発させたのに、証拠がないからって認めない連中がたくさん。いい大人が何言い訳してんのっていっつも思ってました。だからこそ、反省できるのは素晴らしいことだと思います。反省できるってことは、それだけ成長できるってことだと祖父が言ってました。そんな素直な人の方が、応援し甲斐あるじゃないですか」

 にっこりと彼女は微笑んだ。

「つまりさ、これが信頼されたってことなんじゃないの?」

 カグラが言った。

「信頼ってさ、どうやって得るものかわかるかい?」

 その問いに、オウカは首を振った。

「まあ、僕も偉そうなことは言えないし、正しい方法は確立されてないから何とも言えないんだけど、確実に必要なものがある。誠意ってやつだ。目の前の相手に対して自分にできることを精いっぱい、全力を尽くすんだ。それで得られるかどうかは分からないけど、最初から手抜きのやつより確率高いと思わない?」

 自分に置き換えてみて、その通りだと思う。後ろにいつもいてくれるアワユキに視線を向ける。アワユキのことを自分が信頼してるのは、長く一緒にいた年月以上に、自分に対して真剣に向き合ってくれていたからだ。そのアワユキが言った。

「もっと胸を張ってください。あなたは今、なかなか出来るものじゃない成功を収めようとしているんです」

 さあ、と三人が促す。背を押されたオウカは、姿勢をただし、受付嬢に向き直る。

「すみませんお姉さん。名前を教えていただけますか」

「私? 私はアヤメって言います」

「私はオウカと言います。アヤメさん。お願いします。私たちに力を貸してください」

「お願いされました。当斡旋所はこれより、オウカちゃん率いるギルドを誠心誠意、全力を持って援助します」

 がっちりと固い握手を二人はかわした。


「では、手始めにこれをお願いしても良いですか」

 アワユキが一枚の用紙を手渡した。昨日、大地の盾ギルドマスターの老人に書かせた書類だ。それをみたアヤメの表情が驚きに変わる。

「何これ! 大地の盾って、A級のギルドじゃないですか! そのギルドがどうしてあなたたちにこんな条件を?」

 アヤメが驚くのも無理はなかった。そこに書かれていたのは大地の盾がオウカおよび彼女のギルドに対し行う援助が列挙されていた。

「大地の盾がこれから得る報酬の五割を提供する、要請に応じて可能な限りの協力をする、裏切らない、敵対しない、無茶苦茶ですね。彼らは無条件降伏でもしたんですか?」

「似たようなものです。ちょっとした決闘を持ちかけられまして、色々賭けて勝負した結果です。証拠もあります」

 アワユキがカグラから借りたデジカメとカードを提示する。デジカメのディスプレイにはぎこちない笑みを浮かべる大地の盾の老人と満面の笑みを浮かべたオウカが写っていた。

「・・・確かに、大地の盾ギルドマスター、バジェス・ゴドフリー本人と確認。この識別カードも間違いなく彼らの物。あなたたち、一体何者なんですか? この遺品といい。A級ギルドって伊達じゃないんですよ? そんじょそこらの小国の一個中隊くらいの戦力は軽く超えるんですよ?」

「油断した傲慢な相手を倒すことなど造作もないことです。ただ、逆恨みされても困るので、私たちに今後一切迷惑をかけない、裏切らないといった項目も付けくわえさせて頂き、さっさと登録に来ました」

「なるほど。了解しました。私もあの人たちあんまり好きじゃなかったので、良い気味です」

「確か、報酬の受け渡しも斡旋所が担当するのでしょう? その時に報酬のピンハネをお願いします」

「了解。あ、でも、今のままじゃ無理ですよ?」

「なぜです?」

「正式なギルド登録、まだですよね。名前はお決まりですか? 無ければ登録することすらできませんよ。オウカちゃん、どんな名前にします?」

「そうね、麗しき姫とその従者たち、でどうよ」

 オウカがとち狂ったネーミングセンスを発揮した。ぶはっと聞いていた三人が噴き出した。

「あ、すみません。それもう誰か使ってるようです」

「「使ってんのっ!?」」

 一同びっくり。言い出しっぺのオウカでさえ驚いた。ただのお茶目だったのに。

 そこからオウカ率いる新米ギルド最初の仕事は難航した。言う名前閃く名前全てが既に使用中だったのだ。最初は皆、真剣に恰好いい名前を考えていた。ずっと使っていく名前だから、どうせなら愛着の湧くものにしたいと考えるのは当然だった。

「獅子の咆哮」ミメイ作

「クルセイダーズ」カグラ作

「白夜旅団」アワユキ作

「姫御子守護隊」オウカ作

 そのことごとくが却下され、その後も「流浪旅団」「トリックスター」「東天十字士」「覇道行進軍」など様々な案が出るものの、「あ、駄目だ」「似たようなのがあるから、止めた方が」とアヤメからことごとくダメ出しをされた。案も尽きた面々はおざなりになり、もう何でもいいやと適当に思いついた名前を言っていく。

「全員の名前の頭を取ってアオカミ団」

「ださい、却下」

「ごめんなさい、それも・・・」

「一攫千金狙い隊とかどうですか。目的がわかりやすくて良いと思いますが」

「露骨すぎないそれ」

「ああ、駄目です。使ってるところがある。億万長者になり隊とかもありますね」

「みんな欲望に忠実だな」

「じゃあ、ロマンと夢を追い求め幾星霜、遂に悲願成就団は? これだけ長けりゃかぶらないっしょ」

「その代わりに誰も覚えらんないわよ」

「じゃあ略してロ団」

「彫刻家か! 元が何なのかさっぱりわからないじゃない!」

「駄目だわ。それ、両方あります」

「あるんだ・・・こんなのもあるんだ・・・」

 適当に考えるにも限界があった。四人はとうとう力尽きる。

「決まんねー」

 机に突っ伏してミメイが嘆いた。

「もう、明日にしますか。付き合ってくれたアヤメさんには申し訳ありませんが」

 アワユキの表情にも疲れが見えた。

「そうですね、それもいいかも。一晩休めば、また良いのが浮かびますよ」

 気遣うアヤメがこの場で一番疲れていた。

「じゃあ、撤収。ほら、カグラ。行くわよ」

 オウカがぼうっと宙空を見つめるカグラに声をかけた。しばらく前から喋ることもなくなってずっとこの調子だった。考えているのか、考えを放棄してだらけているのか。ともかくこの場は解散という運びになった。そのとき

「アウトロウ」

 カグラの口からぽつりと言葉が漏れた。

「え?」

「アウトロウ、ってどう?」

 カグラが目を輝かせてアヤメに訊く。無理じゃないかと思いながらも、アヤメは名前を打ちこみ、結果を見て「あ」と声を上げた。

「大丈夫、です。アウトロウ。誰も使ってない」

「よしっ」

 アヤメの返答を訊いたカグラが嬉しそうにガッツポーズ。「じゃ、それで良いです?」とアヤメが他の三人を見渡した。

「ちょっと待ちなさいよ。何よアウトロウって。なんでわざわざ無法者なんて名乗らなきゃいけないのよ」

 待ったをかけたのはやはりオウカだった。

「まあまあオウカ様。どうやら何か考えがあるようですよ」

カグラが得意そうな顔をしているのを見たアワユキがオウカを押しとどめた。もちろん、と自信たっぷりに頷く彼の話を訊くことにする。却下する、しないは訊いてからでも構わないだろう。「一つ話を訊きましょう」と提案した。人の話をちゃんと聞く大切さを、身をもって学んだオウカにそれを否定する理由はなかった。全員の注目が集まるのを見計らって、わざとらしく咳払いしたカグラが説明を始める。

「今回の大地の盾の連中が良い例。どこの世界も法律は万全じゃない。どこかに抜け穴があるものなんだ。そこをつき、あいつらみたいにあくどい事をして、財を築くやつらが山ほどいるはずだ。ここで提案。ギルドの主目的のひとつに、彼らのような悪党どもを標的にする、ってのを追加してみてはどうだろうか」

 ニパッと邪悪な笑みをカグラは浮かべた。

「別段正義の味方を気取ろうってわけじゃない。その方が効率的だからだ。ああいうやつらの方が裏の情報網を持っている可能性が高い。これは、ミメイと僕の目的である遺跡や遺品に関しての情報が集まりやすい。また、彼らは違法で集めた金を所持している。違法だからこそ、彼らはそれを公にできない。公にできない金は、無いのと一緒なんだ。たとえ奪われても、無い物を奪われているのだから」

「無いはずの金を、私たちが頂く、そういうことね?」

 オウカも、隣で聞いていたアワユキやミメイも同様の暗い笑みを浮かべた。後ろでは「協力するなんて軽はずみに言っちゃったけど、ちょっとはやまったでしょうか?」と心配顔のアヤメが事の成り行きを見守っている。

「なもんで、アウトロウって名前は僕らみにぴったりだと思う。まさに法の外を歩く、だ」

 どうだろうか? とカグラが決を取った。

「異議なし、良いんじゃないか?」

 最初に賛同したのはミメイだった。

「うん、何度か頭の中で反芻してみたが、しっくりくるくる。というか、これ以外考えられない気がしてきた」

「さっさと決めたいところでもありましたから、皆がそれで良いなら私に異論はありません」

 アワユキも賛成と手を上げた。残すはリーダー、オウカのみ。視線が彼女に集中した。オウカはふう、と大きく息を吐いて

「それでいこうじゃない。もう他の名前考えるのもしんどいし。アヤメさん、登録お願い」

「わかりました。『アウトロウ』登録いたします。また、先ほどの大地の盾の条約も同様に登録し、全ての斡旋所に通達しておきます」


「これで、働かなくても収入を得られるわけだ。夢のようだね」

 就職難民が皮肉気に口をひん曲げた。自身の世界には不況の嵐が吹き荒れていたのにな、と離れて数日の故郷を思う。

「大地の盾の年間収入は金貨百枚を超えることもあるそうです。少なく見積もっても一年で金貨三十枚は固いでしょう」

 アワユキがほくそ笑む。彼女の脳内では楽しい借金返済計画が練られているようだ。

「そのうち、俺たちの取り分はどうなるんだ?」

 いま最も気になることをミメイは尋ねた。遠慮知らずの大食らいに財布が空になるまで飯を奢るはめになったからだ。

「もちろん、きっちり三等分します。私とオウカ様分、ミメイさん分、カグラさん分です。大地の盾から入ってくる金も、これからギルドで稼ぐ金も全て配当します」

「助かる。じゃあ、俺が仕入れた商売の金も、そっちで管理してもらっていいか? 同じように分割してくれていい」

「構いませんが、良いのですか? そちらはあなただけの取り分として取っておいて貰っていいのですが。そもそも、私たちはあなたを雇う金すら支払っていないのに、ギルドに引き込んだのです。ちゃんとした契約では無かったのに」

 あらゆる手を使って金を稼ぐつもりのアワユキではあったが、きちんとするところはきちんと義理を通す考えでいた。彼女は巻き込んだミメイとカグラに多少の引け目を感じていて、それで三等分、自分とオウカで一人分という分け方をしたのだ。

「じゃあ、きちんとした契約をしようや。俺は金の管理が苦手でな、どうにかしたいと思ってたんだ。人を雇おうにもそこまで稼いでいるわけじゃないしもったいない。だから、あんたが管理してくれ。分割した分はあんたらの給料としてとっておく。それなら良いだろう?」

「わかりました。そこまでおっしゃるなら、私に否やはありません。・・・・・ありがとうございます」

「礼なんかいらない。俺も助けてもらうんだからな。持ちつ持たれつだ。な?」

 ミメイがカグラの肩を叩いた。

「そうだね。僕なんか、君らの助けがなけりゃこの世界で生きていけないし。もちろんこれからも協力する。でも、やっぱり危険手当は別途欲しいかな」

 自分の身に起きた出来事を反芻する。

 異世界への人事異動、体内への異物混入、約三十キロの荒れ道踏破、ロボットとの戦闘、大地の盾との戦闘、出来た思い出と筋肉痛はプライスレスだ。労働基準法違反も甚だしい。

「あんた見かけによらず強欲ね」

 ミメイでさえ三分の一で満足しているというのに、とオウカが呆れた。

「どれだけの取り分が欲しいんですか」

 眼鏡のズレを直してアワユキが訊いた。確かにカグラに対してもミメイと同じように申し訳ないとは思ってはいたのだが、やはり抑えられるなら抑えたいのが本音ではある。

「お金は、別にたくさんはいらない。衣食住に不便しなければ。多分、君らについていけばその辺苦労しないだろうから、僕の分のお金は月に使う額を決めて小遣いみたいにちょうだい。余った分は家賃みたいにそっちに納めるよ」

「なら、何が欲しいの?」

 金以外に欲しいものなんて、今の私たちが持っているだろうか?

「なに、簡単だよ。僕にこの世界の常識を教えてくれ」

 金よりも知識、というカグラの言葉にオウカは驚いた。

「常識、って、そんなもので良いの?」

「世間知らずがよく言う」

 後ろで茶化すミメイを睨みつけ、またカグラの方を向いた。ふざけているわけではなく、顔は真剣そのものだ。緊張感があまりない真剣な顔ではあったが。カグラが懐をごそごそと探り、携帯電話を取り出した。

「幸か不幸か、僕はこんな力を持っちゃったからねえ」

「不幸ってなによ。力があるってのは良いことじゃない」

 オウカがぶーたれたが、カグラは分かってないなあと言わんばかりに首を振った。

「そりゃ、無いよりはいいさ。選択肢が広がるからね。でも力を持つってことは、それを正しく有効的に使わなきゃならない必要がある。少なくとも、無知によって罪もない他人を傷つけるようなことはしたくない。だから、知識が必要なんだ。この世界の常識、法律、それらを知らなければ、子どもに刃物を持たせるようなものだ。無邪気に罪を重ねてしまうかもしれない。それ以上に怖いのは、僕が自分の無知に甘えて、君たちに責任を押し付けて逃げることだ」

 じっと手の中の携帯を見つめる。ちょっと前まで手放すことすらできなかった現代の必需品が、核ミサイルの発射ボタンみたいに思えた。元の世界に戻れたとしても、大統領にだけはなるまいと心に誓う。

「それだけは出来ない。だって、カッコ悪いだろ? だから知識が欲しい。知らなかったなんて言い訳できないように。自分の判断や行動の責任を自分が取らないでどうすんの」

 神楽家家訓にして、どの世界でも言えること。自分のケツは自分で拭け。オウカに色々説教してきた手前、自分の責任さえ果たせないのはまずい。「ま、そう言うわけさ」とおどけたカグラの手をひょいとアワユキが掴んだ。

「あなたの住む世界は、平和だったんですね」

「いきなり突拍子もなく、何を言ってるのかな?」

「この手、昨日から震えてますよ? 後、会った当初と比べて喋る量が格段に増えています。不安を紛らわせようとしているのがバレバレです」

 おおう、とカグラが唸った。

「今まで戦ったことなど無かったのでしょう? 戦うのが怖いなら怖いと言えば良いのです。恰好つけるんじゃありません」

「それは、ちょっと言い出しにくいじゃない? だってギルド活動に参加するってのはそういうのは避けて通れないだろ? 君らだって扱いに困るかなあと思って」

「いざという時に本来の力を出してもらえない方がよほど困ります。良いんですよ。不安なら不安と、怖いなら怖いと言っていただいて。あなたにはその権利があります」

 不安にならない方がおかしいのだ。どれほど表面上取り繕うとも、突然の環境の変化に戸惑わない人間はいない。むしろカグラは順応が早い方だ。泣き言も言わずについてきてくれている。

 そのせいで忘れていた。彼はこの世界の住人ではないのだ。家族や友人と、慣れ親しんだ世界と引き離されて不安にならないはずがなかった。我々のせいで、だ。

「知識が欲しいなら教えます。でも、全て自分で背負おうなんておこがましいです。あなたの責任は、仲間の私たちにもあります。部下の責任は上司の責任でもあるのです」

「男前だねぇ・・・・」

 この時カグラは、アワユキの姿に理想の上司を見た。

「いやしかし、それじゃああまりに僕は情けなくない?」

 自分より年下の女の子に全て押し付けてってのは、いかなカグラでも抵抗があった。

「じゃあ、こうしましょう。あなたの責任の半分は私が負います。代わりに、私の分を半分あなたが負ってください。それなら良いでしょう」

 これ以上責任のありかなどと不毛な会話は避けたいがため、妥協案を提示した。カグラの心意気は買うが、こちらとしても彼に全てを負わせるわけにはいかない。また、やはり先ほどのギルド名を考えていたので疲れている。これ以上話し合いをしたくない。カグラが押し黙ったのを見て、納得したと思ったのだろうアワユキは「それで良いですね」と踵を返そうとした。

「何か、プロポーズみたいだね?」

「は?」

 聞き捨てならない発言にアワユキの足が止まる。

「だって、お互いに半分ずつ背負いあうなんて、まるで結婚式の宣誓のようじゃない?」

「違います。そう言う意味で言ったんじゃありません」

 いつもの調子を取り戻し、ふざけた感じでニタニタ笑いを浮かべるカグラに、真っ赤になって否定するアワユキ。必死になればなるほどカグラのからかいを勢いづかせるということが彼女はわかってない。

「いやあ嬉しいね。君がそんなに思ってくれていたなんて。知らなかったよ。今まで気づかなくてごめんね?」

「だから、違うと言ってるでしょう? 何を勘違いしてるんですかこの人は。ちょっと、お二人も見てないで何とかしてください。この妄想癖のある男を止めてください!」

 らちが明かないと思ったアワユキがオウカとミメイに助けを求める。二人ともどこか勝手にやってくれとどうでもよさそうな表情をしていた。

「カグラ」

 オウカがずいと前に出た。アワユキにしてみれば助けに入ってくれたと思っただろう。

「あんたの報酬の話がまだだったわね。じゃあ、これにしましょう。あんたが私たちの目的達成のために尽力してくれたら、アワユキを娶ることを許可するわ」

「なっ」

 もはや声も出ないアワユキ。

「一生忠誠を尽くしましょう」

 ひどく真剣な顔でカグラが片膝をつく。彼にとって最高の報酬だった。

「はい、これで万事解決。さっさと宿に戻って次の街へ行く支度をするわよ。年収に金貨三十枚確保できたとはいえど、借金はまだまだあるんだから。休んでる暇は無いわよ」

「ちなみに、借金ってどれくらいあるんだ?」

「とりあえずこのままだと後三百年くらいかかっても無理ね」

「単純計算で金貨が約一万枚か。一国の国家予算だな」

 オウカとミメイが用は済んだとばかりにさっさと歩きだす。

「ちょっと、置いていかないでください! それよりも人の人生を適当な扱い方しないでください!」

「ね、どうする? 子どもは何人欲しい? 僕は野球が出来るくらい欲しいな。サッカーでも可」

「五月蠅い! もう何ですかヤキュウって!」

「野球は一チーム九人で行う僕の世界の競技ですよ?」

「九人産めと? 無茶な!」

「え? 違うよ。対戦するんだから二つチームいるよ?」

「倍なんですか? 十八人なんですか?」

 アワユキと冗談とも本気ともつかないことを喋り続けるカグラが後に続く。

こんなグダグダな感じで、オウカ率いるギルド《アウトロウ》は始動した。

借金完済まで、残り、金貨一万枚。

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