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人も亜人も、魔神から見りゃ同じ人

 店の前では、なぜか数人の鎧を着こんだ男が倒れていた。酔っぱらって眠ってしまったのだろうか。酔いと熱くなった頭を冷やすために雪に頭を突っ込むというのを、以前バラエティで見たカグラは、アレはバラエティだからではなく、地域によって行われる民間療法だったのだと納得した。とはいえ、ずっと雪の中にたら体の心から冷えてしまうと思うのだが。

「風邪ひくよぉ~」

 声だけはかけて、そのまま素通りする。今の自分には優先すべきものがある。酔っ払いに構っている余裕はない。店のドアを開けようとした。

「あ、あの、ありがとうございます」

 後ろから呼びかけられる。振り返ると、三人の亜人が立っていた。声をかけてきたのは真ん中にいる中年の、クマ耳の男性だろう。その男性を二人の女性が支えていた。一人は年上の、お淑やかそうな雰囲気を醸し出している妙齢の美しいご婦人だ。長い髪を後ろで三つ編みにしてまとめている。もう一人は美しい、というより可愛らしいと言ったほうが当てはまるお嬢さんだった。髪は肩にかかる程度の長さでバンダナを巻いて、いかにも溌剌として若さ、みずみずしさにあふれていた。男性と同じクマっぽい丸い耳がぴょこっと出ていて、ご婦人とお嬢さんはよく似ているから、姉妹か親子なのだろう。ではこの男性は二人の親か、ご婦人の旦那さんということになる。むう、うらやましい限りだ、と少しジェラシー。

「ええと、何か礼を言われるようなことしましたっけ?」

 全く心当たりがない。それよりもだ。

「あの、実は宿を探してまして。こちら、宿屋ですよね? あなたが店の人かな? 部屋はありますか?」

 男性が店の主人だろうとあたりをつけ、カグラは話しかけた。

「え、ええ。はい。ございますが・・・・」

 店主はなぜかおどおどしながらカグラと対応していた。はて、何か怯えさせる要素でもあったかな? しかし自分の言葉にそんな要素は毛ほどもなかったはずだ。

「では、五名でお願いします。うち三人が女、二名が男ですんで、できれば三人部屋と二人部屋を用意してもらえます? 無理なら後で応相談ってことで。あと、すぐに風呂を沸かしてください」

「風呂ですか?」

「はい。一人が凍傷にかかってしまいまして。あとお手数ですが医者を呼んできてもらえませんか。僕らはまだ、この土地に来たばっかで地理詳しくなくて。ああ、もちろんその手間賃も払いますから、できるだけ急ぎでお願いします」

 説明はし終えたつもりだった。だが、宿屋の店員のはずの彼らは動こうとしない。それどころか警戒心丸出しの目でカグラを見ている。

「ええと、なにか?」

 精一杯の営業用スマイルを浮かべてカグラが尋ねた。

「・・・あの、本当にうちに泊まるつもりですか?」

 言われている意味がさっぱり分からない。宿屋に来て泊まる以外に用なんてあるのか?

「カグラ、どうしたの?」

 オウカと、少女を抱えたアワユキがやってきた。気を失った子どもを担ぎ上げられなかったのでアワユキに代わってもらったのだ。アワユキを見た店主の視線から警戒心が薄れる。美女と野郎との扱いの差はどこの世界でも共通なのか、とカグラはふてくされる。そんな彼に構わず、店主がアワユキに話しかけた。

「あなたは、亜人ですか?」

「え? はい、そうですが」

「この方たちはお連れ様ですか? ともに旅を?」

「まあ、そうです。こちらのカグラさんが説明したと思いますが、泊めていただきたいのです」

「は、はい。あと風呂と医者でしたか。すぐに用意させます。ノキア。風呂の用意を。フィリオネ、お前はギリー医師を呼んできなさい」

 主人の命を受けて、ご婦人のほうが宿の中へ、お嬢さんは雪道を苦も無く軽快に走っていく。

「どうぞ中へ。外は寒かったでしょう」

「ありがとうございます」

 なぜ僕の説明では納得せず、アワユキさんで納得したのだろう? 不思議に思いながら、カグラは店主の後に続いて店内に入った。

なぜか店内は荒れていた。乱闘でもあったのだろうか。もしかしたらさっきの酔っ払いたちだろうか。明るい場所で見れば、店主は額や口に血が滲んでいた。巻き込まれたのかもしれない。同情はするが、今自分たちにできることはない。

アワユキは店の奥の暖炉の前に少女を運び、ゆっくりと横たわらせた。それを囲むように、近くの椅子にオウカとカグラは腰を下ろす。ほどなくして、荷物を担いだミメイが入ってきた。部屋の隅に荷物を置き、カグラの隣に座る。そこへ、店主が暖かいお茶を淹れて持ってきた。四人は礼を言って受け取る。

「散らかっていてすみません。すぐに片付けますので」

 空いたお盆に汚れた食器を乗せて厨房へ戻っていく。そのすぐ後にフィリオネが戻ってきた。ぜいぜいと荒い息をついた白衣の男性が続いて入ってくる。耳が鋭くとんがっているところをみると、彼も亜人のようだ。

「こんな、ふぅ、夜更けに、ひぃ、どうしたんだ、ぜぃ、シンド」

 全体的に丸いフォルムの医師ギリーが持っていた救急箱を机に置き、椅子によっこらしょと腰を下ろす。長くとがった耳とつるりと禿げ上がった頭が特徴的な親父で、いかにも町医者、という感じがした。そのギリーがこそこそとシンドに耳打ちする。

「外の兵士たちは、まさかお前がやったんじゃないだろうな」

「まさか。私にそんなことはできん。こちらの方々が、助けてくれたのだ」

 シンドがオウカたちを紹介する。ギリー医師は全員の顔を見回して、ふんと鼻を鳴らした。

「後で問題になっても知らんぞ」

「その時はその時だ。妻子を連れて逃げることにするよ。それよりも今は、この人たちの話を聞いてくれないか」

 シンドは暖炉の前に固まっている面々を紹介した。

「みなさん。こちらギリー医師です。お察しの通り亜人ですが腕は確かです」

 シンドが先にこのような断りを入れたのは当然だった。人は亜人を自分たちより劣っているものだと思っている。そんな劣った人種に治療などできるはずがない、ましてや自分の体を見てもらおうと思わないだろう。シンドにとって、人とはそういうものだという認識があった。

「は? 人だから亜人だからとかで、腕の優劣は変わんの?」

 だからシンドは、カグラがさっぱり理解できないといった顔をして尋ねてきたので驚いた。

「ああ、なるほど、多少体の構造が違うとかで、治療の勝手が違うとか?」

 勝手に納得しようとしたカグラの視線がギリーに向く。ギリーもまた驚いて、自分に話が振られたのだと気づいてあわてて返答した。

「そういうわけじゃ、ないのだが」

「じゃあ、悪いんだけどこの子を早く見てやってくれないか」

 カグラが手で少女を示す。

「・・・良いのか? わしは亜人だぞ?」

「で?」

「で? って・・・」

 心底不思議そうにカグラが首をかしげる彼を見て馬鹿らしくなったギリーが毛布をめくる。

「ひぁっ」

 空気が口と鼻以外から漏れ出したかのような甲高い悲鳴を上げ、ギリーが腰を抜かした。

続きを書かせていただきました。

ちょっと予定より少し、いや多少、大幅? とにかく遅れてしまいました。申し訳ございません。

てめえの話の掲載が遅れようが世界中の誰も迷惑しねえから気にすんな!

という声が聞こえてきそうですが。まあ、そんなことおっしゃらずに

ぜひとも次回も楽しみにお待ちいただければと思います。

頑張るから! 必死で頑張って面白くするから!

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