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恋人の星  作者: 逍蕾花実
14/15

14話

 照明がまたたいて、一斉に点いた。闇が追い払われたことに安堵したアリルが、大きく溜息をついた。


 「よかった、ハポナがかったんでしょ?」


 「ん、んん。たぶん」


 幸いにも生きているインターナル・インターフェースに、船内情報を求める。


 「情報を取得できません、か」


 やはりそうか。


 もしマイダスのコンピューターがイカレたのだとしたら、もう僕たちは死んだも同然だ。宇宙を驀進する船の中で、ゆっくりと死ぬなんてごめんだ。無駄なこととは知りつつも、コンソールを拳で殴った。ポンコツの機械じゃあるまいし、叩いて直ったらむしろ驚愕だ。アリル真似して、コンソールを両手で叩いている。


 ああ、アリル。


 ダメ元で、ダミーキーを引き抜き、もう一度差し込んでみる。


 こんなことしてもだめか。半ば諦めたそのとき、古代文字のロゴと流れるデータがメインモニターに映し出された。ついで、「セーフモードで起動中……」と謎の文言。

 僕とアリルは、ブリッジのあちこちで復活してゆくモニター群を眺めた。だしぬけに女性の声でアナウンスが流れる。


 「本船の管理システムに異常が発生しました。現在、本船の管理システムは初期インストールの状態でセーフモードにて起動しております――」


 使用言語は英語だった。航海士になるための必修科目だから学びはしたが、第1文明後期時代の標準英語は苦手だ。特にスピーチは酷いものだと自覚している。


 「異常って言ったか?」


 僕がもらしたヘタクソな発音の英語を拾って、マイダスが答える。


 「ユーザーが指定した擬似人格設定ファイル名“ゲシュタルト・コピー”が致命的なエラーを起こしました。現在、擬似人格設定ファイルの読み込みを停止しています。詳細の説明が必要ですか?」


 「いや。君は誰なんだ?」


 「私は本船の管理システムにデフォルトで指定されているAIです。致命的なエラーが発生した場合、ユーザーの再設定が済むまで本船の管理サポートを行います」


 有能そうなAIだな。僕たちが使えるAIなど、あいまいな命令は全て「理解できませんでした」ではじかれてしまうというのに。


 僕が沈黙していると、AIが逆に話しかけてきた。


 「本船の稼働時間が極めて長くなっています。また、本船の現在位置はラカーユ8760星系です。他星系への移動は法律で禁じられている場合があります。何かお困りではありませんか?」


 僕は舌を巻いた。自意識持ってないか、こいつ。


 「困ってない。ラカーユ8760、第2惑星、衛星軌道、行けるか?」


 「本船の自力航行には、ユーザーの再登録が必要です。旧ユーザーの登録国家“両トロヤ共和国”の認証が必要です」


 「はぁ? そんなもんとうに滅びてるよ!」


 「……ユーザーの使用言語が理解できません。以下の400言語のいずれかを使用してください」


 メインモニターにずらりと言語の一覧が表示された。


 「なんでもない。それじゃ、手動で操船する」


 180度回頭して、とりあえず1G噴射を10000秒に設定しよう。その間に帰還コースを計算すれば――。


 「申し訳ありません。本船の自力航行には、ユーザーの再登録が必要です」


 「なんだって?」


 「ユーザーの生体キーに異常があります。法律により、ユーザーの再登録が義務付けられています」


 「そんな馬鹿な。AI、お前が知っている国、全部滅びた。法律、必要ない」


 AIがそんなカタコトの抗議で納得するはずはなかった。速攻で拒絶。


 「ねえ、どうしたのさっきから。へんなことばばかりしゃべってるよ」


 アリルが心配そうに僕の顔をのぞきこんだ。


 上げて落とすのはかわいそうだ。助かる望みを与えては奪うの連続に、僕の心は痛んだ。言葉にする代わりに、彼女の首を、豊かな髪の毛ごとかき抱いた。少しは安心しただろうか。そんな僕の期待を、次の言葉が無残に打ち砕いた。


 「警告。本船に向かい人工物が接近中」「お知らせします。本船を知能ミサイルが追尾しています」


 インターフェースとマイダスのAIが、ほぼ同時に警告を発したのだ。情報はマイダスのAIがより詳細だった。


 「知能ミサイルの識別情報。グッドホープ政府外宇宙防衛任務部隊所属。知能ミサイルよりメッセージを受信。“貴船の破壊を命じられたことは満悦至極である”以上です」


 いきなり忙しくなったブリッジのモニター群を、アリルは身をすくめてみつめた。

 アリルが英語を理解できないのは幸いだった。AIが氷のような沈着さで、こう言ったからだ。


 「本船を追尾している知能ミサイルは、私の時代よりも後にルナで製造されたと自己申告しております。最大加速度は1078m/s2、航続距離は無制限。VEDを搭載しているものと考えられます。回避は不可能です」

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