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その婚約破棄、二言はございませんね?

作者: 茜カナコ
掲載日:2026/04/10

 大きなシャンデリアから零れた光が、辺りをキラキラと照らしている。

 舞踏会を行っている大広間の隅で、ダニエルはアニスではなくリリアの手を取った。


「私はリリアと結婚したいと思っている。アニスとの婚約は破棄する」とダニエルは言った。


 婚約破棄を告げられたアニスは眉一つ動かさず「婚約破棄、二言はございませんね?」とダニエルに問い掛ける。


 リリアがダニエルを見上げた。ダニエルの唇がわなわなと震えている。


 か細い声が聞こえた。

「……嘘に決まっているだろう?アニスと婚約破棄をするなど、天地がひっくり返ってもあり得ない」

 ダニエルはリリアから手を放し、アニスの手を取った。その手は緊張のせいか、冷え切っていた。


「でも、確かに婚約破棄とおっしゃいましたよね?」

 アニスは冷たい声で問いかけた。


「……君の気を引きたかっただけだ!」

 涙ぐみ、首を横に振るダニエルを冷然と見下すアニス。


「わかりました。婚約は継続したいと」

「もちろんだ。僕を見捨てないでくれ!」

 ダニエルは哀願した。


「……今回は見逃して差し上げますわ」

 アニスはダニエルの手を自分の手から外し、扇で口元を隠してツカツカと大広間を出て行った。


 リリアは顔を赤くして「私のことを可愛らしいっておっしゃっていましたよね!?」とダニエルを見上げたが、ダニエルは涙をぬぐいながら「ああ、だが私は可愛らしい女性より、凛々しい女性が好きなのだ」とダニエルは言った。


「リリア、悪いが君には興味がない」

「……わかりました」

 リリアはそれ以上何も言わず、小走りでアニスと同じく大広間を後にする。


 リリアが大広間を出て廊下を歩いていると「リリア」と呼ぶ声がした。

 リリアが空き部屋を覗くと、そこにはアニスがいた。


 アニスは小声で「ごくろうさまでした」と言った。

(涙ぐんで私に縋りつくダニエル様……可愛らしかった)とアニスはうっすらと微笑んでいた。


「リリア、ありがとうございました。これは謝礼です」

 リリアは金貨を受け取ると、ドレスの裾をつまみお辞儀をした。ふと、思いついたようにリリアはアニスに尋ねる。


「アニス様、本当に婚約破棄になったらどうされるおつもりだったのですか?」

「ダニエルが私と婚約破棄をする? ありえませんわ」

 アニスは笑った。


 最近のダニエルは、人前だとまるでアニスから求婚したかのようにふるまっていた。しかし実際は、ダニエルの熱烈なプロポーズにアニスが屈した形で婚約したのだった。


「ダニエル様は、どれだけ私を愛しているか思い知ったことでしょう」

 涙ぐんで縋りつくダニエルを思い出し、アニスはうっとりと微笑んだ。


「アニス! どこだ! 君がいない世界なんて耐えられない!」

 涙声で叫ぶダニエルの声が近づいてきた。アニスはまんざらでもないため息をついて、廊下に出た。


「……まったく、仕方がない人」

「アニス!」

 涙と鼻水で汚れた顔をくしゃくしゃにして、ダニエルはアニスに向かって喜びの笑みを浮かべる。


「とんだ茶番ですわ」

 リリアは金貨を握りしめたまま、ドアの影から二人を横目で見て肩をすくめた。


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