9 我慢するのはもうやめた
◇◇◇
「好きだ。愛している」
カイの突然の告白に言葉を失うピアラ。
朝起きて身支度を整え、朝食の前に軽く散歩でも、と部屋の扉を開けた瞬間、目の前に大きな花束を抱えて跪くカイの姿が目に飛び込んできたのだ。
この一月、カイとは毎日夕食を共にしているし、たまに観劇に出かけるなど、程よい距離感で過ごしてきた。この国での生活にも、カイにも、何となく慣れてきたかな、というタイミングでの告白である。
「えっと……はい。ありがとうございます?」
よく分からないながらも、取り敢えず花束を受け取るピアラ。
カイは満足げに頷くと、そのまま執務室に向かっていく。
「今の、なんだったのかしら……」
「姫様!やりましたね!カイ陛下は姫様にメロメロですね!いつの間にこんなに距離を縮めたんですか〜」
キャッキャと盛り上がるソフィアにも、
「さぁ?」
と答えるしかないピアラだった。
ところがそれからカイは、毎朝花束を届けるのはもちろん、ドレスや宝飾品などをたびたび贈るようになった。元々ドレスルームには、十分すぎるほどドレスや宝飾品が揃えられているのに、こう毎日のように高価な贈り物をされては、さすがにピアラも心配になってきた。
「あ、あの!もう贈り物は結構ですから!」
ピアラの言葉にショックを受けるカイ。
「気に入らなかっただろうか……」
大きな体でしょんぼりと肩を落とすカイがなんだか可愛くて、ピアラはくすりと笑う。
「いいえ。どれもとても素敵でしたわ。けれど、ドレスも宝飾品 も、もう十分に持っております。王族の資産も無限では無いのですから、これ以上の贅沢は不要ですわ」
「そうか……」
ソワソワと落ち着かないカイに、ピアラは首を傾げる。
「……君は、何をすれば喜んでくれるんだ?俺は、君の喜ぶ顔が見たいんだ」
真っ直ぐに見つめられて言葉に詰まるピアラ。思わず、本音が零れ落ちる。
「どうして……陛下はどうして、私を娶ろうと思ったのですか?舞踏会でたった一曲、ダンスを踊っただけなのに」
ピアラの言葉にカイは一瞬迷って、そっと目を伏せた。
「違うんだ……」
「違う?」
「あのとき初めて出会ったんじゃない。俺は、ずっと前から君を知っていた」
カイの言葉にさっと顔色を変えるピアラ。
「私のことを、ご存じでしたの?」
ピアラの声が固くなったことに気付かずに、カイはこう続けた。
「ああ。最初から、君に会いに行ったんだ。結婚を申し込むために」
その言葉に、ピアラの中で疑念が膨らむ。
「どうして、私を選んだんですか。我が国にはまだ、未婚の姉もおりますのに。姉たちはみな、美しいでしょう?……私のことをご存じでしたら、私の噂もご存じのはず」
知らないから、選ばれたのだと思っていた。けれど、最初から知っていたのだとしたら。
「くだらない噂などどうでもいい。俺にとって、美しいと思うのは君だけだ」
嬉しいはずのその言葉が、ピアラの胸を刺す。
「……出ていって」
「ピアラ?」
「出ていってください!」
ドンっ!とカイを押しのけて、部屋の扉を閉めるピアラ。
呆然とドアの前に立ち尽くすカイ。
「どうして……」
ピアラは閉めた扉の前で泣き崩れた。




