8 海亀との楽しい日々
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それからピアラは、毎日のように浜辺に出かけては、巨大な海亀を探すようになった。
海亀がのそのそとピアラに近付いてくると、すかさずその巨大な甲羅に抱きつくピアラ。
「今日も会えたわね!嬉しいわ」
そして、喋れない海亀相手にとりとめもないおしゃべりをするのが、楽しかった。
「昨日はね、カイ陛下と一緒に観劇に出かけたのよ。けれど、その内容があまりに甘ったるいラブストーリーで、お互い気まずくなっちゃったわ」
「そうそう。海で泳いでいる女の人をみたわ。本当に泳いでいてびっくりしちゃった。それにね、その人はなんと、裸で泳いでたの!寒くないのかしら。あ、でも、海で着る洋服のようなものもあるんですって。一度見てみたいわ」
ピアラのお喋りに、じっと耳を傾ける海亀。
ピアラはその大きな体に、こてんと頭を預ける。
「ねぇ、あなたは何歳くらいかしら。海亀って長生きなんでしょう?あの頃は、子亀だったのかしら。こんなに大きくはなかったわよね。もしかして、後何年かしたら、もっともっと、大きくなるのかしら?」
もっと大きくなった姿を想像して、クスクスと笑うピアラ。
「海の宮殿に連れて行ってって言ったことを覚えてる?今なら、私をその甲羅に乗せて連れて行ってくれるかしら」
そのとき、海亀がこくりと頷いた気がして、目を見張るピアラ。
「あなたって不思議ね。本当に、私の言葉が分かるみたい。……でもだめよ。だって私、結婚したんだもの。まだ、正式な花嫁ってわけじゃないけど」
ピアラをじっと見つめる海亀に、ピアラは自嘲気味に微笑む。
「なぜ、ルミエル王国が白い結婚を持ち出したか、わかる?……それはね、私が醜いからよ。普段は隠れてて分からないけど、脚にね、鱗が生えてるの。まるで魚みたいな鱗が」
そこでピアラは、溜めていた息を吐き出した。
「子どもの頃は、この脚が嫌で嫌で仕方がなかったの。でも、そのうち諦めたし、どうせ誰にも見せないんだから、関係ないって思ってた。でもね、今はちょっと怖いの。もし、カイ陛下がこの脚を見て醜いって顔を歪めたら……泣いちゃうかもしれないわ」
ピアラは目に浮かんだ涙をぐいっと腕で拭う。
「ねぇ、陛下は私のどこが気に入ったのかしら?やっぱり見た目かな?脚に鱗があっても、綺麗だって言ってくれると思う?」
無理に明るく笑うピアラ。
海風に揺れる真珠のような髪も、海のように煌めく紺碧の瞳も、夢見るように美しいのに、誰よりも醜いと思い込んでいるこの小さな姫を、海亀は誰よりも愛しいと思っていた。




