6 もしかして、あのときの亀?
◇◇◇
ピアラが護衛たちと共に浜辺に向かうと、ちょうどカイが海から上がってきた所に出くわした。
鍛え抜かれた端正な体に、濡れた黒髪からポタポタと水が滴り落ちる。大人の男の色香を纏った扇情的なその姿に、思わず顔を赤らめるピアラ。
カイはピアラに気が付くと、そのまま近づいてきた。下履きは履いているが、上半身は裸のまま。
男性の半裸姿など見たことのないピアラは、大いに焦った。
「あ、あの!服!服を着て下さいっ!」
「?ああ……」
今気が付いたとばかりに、浜辺に投げ捨てられていたシャツを羽織るカイ。
「これでいいか?」
「……はい」
今度は素肌に張り付くシャツがいやらしく見えるとは言えず、そっと視線を逸らすピアラ。
どうもこの男といると、いつも調子が狂ってしまう。
ピアラの言葉を待つように、じっと見つめてくるカイ。その瞳もまた、髪と同じ黒曜石のように、黒く謎めいた魅力がある。
「ごめんなさい。休憩中にお邪魔して」
ピアラはカイからなるべく目を逸らしながら、話しかける。
「いや、今上がった所だ」
「そ、そうですわね。海にはよくいらっしゃるんですか?」
「ああ。泳ぐのが好きなんだ……君は?」
カイの質問に驚くピアラ。
「泳いだことなんてありませんわ。精々水に手を付ける程度で」
普通の貴族令嬢は海で泳ぐことなどしない。重いドレスを纏って海に入れる訳がないし、仮にドレスを脱いだとしても、肌を見せるなどもってのほかだ。
いくらお転婆なピアラとて、さすがにそのようなことはしたことがない。
「そうなのか……」
と、首を傾げるカイ。
「あの、もしかして、この国では女性も海で泳ぐのですか?」
恐る恐る聞いてみると、カイは当たり前だと言わんばかりに頷いた。
「そうだな。幼い頃から海で遊んで、物心ついたころには泳げている者が多いな」
文化の違いに驚くピアラ。
「君は……海が、怖いか?」
けれど、その問いに、静かに首を振った。
「いいえ。怖くないわ」
「そうか……」
そのとき、わずかに口角を上げて微笑むカイ。
(わ……この人、こんな風に笑うのね……)
ピアラは、初めて見るカイの笑顔をまじまじと見つめてしまう。
(うん、悪くないわ)
「そう言えば、何か用があるんだろうか?」
カイがピアラに問いかけたそのとき、ピアラは海から上がってきたものに目が釘付けになった。
「嘘でしょう……」
思わず口を覆い、信じられないと呟くピアラ。
ピアラの視線の先には、大きな海亀の姿があった。
カイもまた、ピアラの視線の先に目を留める。
「ああ、海亀、だな」
ピアラは思わず、海亀に向かって走り出した。
驚くカイ。
「あなた、もしかして、あのときの海亀?大きくなって!」
海亀の大きな甲羅にひっしと縋り付くピアラ。
「心配してたのよ!」
カイは何も言えず、海亀との再会を喜ぶピアラを、ぽかんと見つめていた。




