5 おとぎ話の国
◇◇◇
ピアラが、トルティア王国に来てから一週間。その間、カイがピアラの寝室に突撃してくることもなく。ピアラは王宮内での自由を許され、比較的のんびりと過ごしつつ、花嫁教育の一環としてトルティアの歴史についてあれこれ学んでいた。
「この国は海を統べる海神が主神なんですね」
「ええ。我らトルティア王国は、大小様々な数多くの島が集まってできた海洋王国であり、それぞれが海と共に生きる民ですからね。トルティア王国周辺には、海にまつわる伝説が数多く残っています。……まぁ、実際に生きる伝説的な存在もありますしね。そうそう、この海のどこかに、それは美しい海神様の宮殿があると言われています」
「素敵ですね。海の中の宮殿。子どもの頃聞いたお伽噺みたいだわ」
「ルミエル王国にも、そう言った伝承や伝説が残っているのですか?」
少し驚いた顔をする教師の言葉に、そう言えばと思い直す。
「ああ、いえ、もしかしたらルミエル王国で伝わる話では無いのかもしれません。私の世話係として長く仕えてくれている者が聞かせてくれたのです」
「そうですか。ルミエル王国では、何代か前の王の時代に、古い時代の話は全て禁書にして燃やしたと聞いたことがあります。中には歴史的価値の高い、貴重な物も多かったと思うのですが。実に勿体ない話です……あ、王族の方に対し、失言でしたね。お許し下さい」
「いえ……その話は初耳です。ルミエル王国はどちらかと言うと、古臭い慣習にとらわれた国だと思っていたのですが、そんなことが……」
「ご存じ無かったのですね。当時は鎖国のような状態がずいぶん続いていたと聞いています」
「なぜ、そのような状態になったのかは分かりますか?」
「……なんでも、王国内でクーデターがあったみたいですね」
「ああ、それで……」
新しい王が誕生すれば、古い王の血統は根絶やしにされたはず。となれば、古い王の正統性を表すような資料が残っているとは考えにくい。
(過去の書物を、禁書として全て燃やす徹底ぶりからすると、その時代の王は、当時としては正統性を欠くものだったのかも……王族の血筋ではない、軍部や他家の可能性が高いわね。そして、古い時代の話が今だに伝わっていないということは、新しく王になった者の血筋が、今だに王族として君臨しているということ。トルティア王国に来てから、ルミエル王家のルーツを知ることになるなんて、皮肉なものね)
「とても興味深いお話でしたわ。ルミエル王国とトルティア王国の成り立ちを、もっと詳しく知りたいわ」
「作用でございますね。長い歴史の中には色々なことがございます。それを紐解いていくのが歴史学の面白い所で。幸いトルティア王国の図書館には、貴重な歴史書が数多く保管されております。ただ、王家のみ閲覧可能な貴重な資料もございますので、一度陛下に閲覧許可を取ってはいかがでしょう」
「そうね。そうするわ」
ピアラは授業が終わった足で、早速カイの執務室に向かった。
「これはピアラ様。陛下に御用ですか?」
「ええ。ちょっとお願いしたいことがあって。いらっしゃるかしら?」
「あいにく陛下は息抜きに泳いでくると仰って。先程出ていかれたのですが、多分近くの浜辺にいらっしゃると思います。お急ぎのようでしたら、私がお探ししてまいりましょうか?」
「浜辺にいらっしゃるのね。いいわ。私もちょうど休憩中だから、散歩がてら探してみるわ」
「作用でございましたか。では、日差しが強いので日傘をお持ちくださいね。護衛の者をお付けします」
「ありがとう」
◇◇◇
(そう言えば、聞きそびれてしまったわ)
護衛とともに海に向かいながら、ピアラは日傘をくるくると回す。
(トルティアの生きる伝説って何かしら)
海の中の宮殿に、生きる伝説。まるでおとぎ話の国だと、ピアラはくすりと微笑むのだった。




