3 トルティア王国での歓待
◇◇◇
「ねえ、本当についてくるの?私、向こうでどんな扱いを受けるか分からないわよ」
「当たり前です!ピアラさまのお世話をする係は、絶対に譲りませんわ!それに、万が一ピアラ様に生意気な態度を取るメイドがいたら、この私が黙っていませんっ!」
「ハイハイ。頼りにしてるわ。……ばあやも、住み慣れた国を離れても、いいの?」
「姫様のいる場所が私の居場所ですわ」
ピアラは当初一人で海を渡る予定だったが、どうしてもついてくると言って聞かない、侍女で乳姉妹のソフィアと、生まれたときからずっと仕えてくれているばあやを連れて、トルティアから来た迎えの船に乗り込んだ。
「わぁ〜。乗ってみると改めて大きいですね。こんなに立派な船は初めて見ます」
「ほんとね。さすがトルティア王国の誇る帆船だわ」
百人は乗れそうな大きな帆船は、さすが海の覇者と呼ばれる、トルティア王国の国力の強さを感じさせるものだった。逞しい男たちが船を操る様を、興味深く観察するピアラ。トルティア王国とルミエル王国は、狭い内海を挟んで隣国に位置するが、ルミエル王国にはこのような造船技術はない。
ルミエル王国側が勝手に敵視しているが、船一つ見ても、国力の差は歴然だった。海を自由に行き来するトルティア王国は、豊かで強い国だ。気位ばかり高くて、古い慣習や価値観に縛られたルミエル王国とは、何もかも違う。
「……カイ陛下は来られませんでしたね」
迎えの船に、カイの姿は無かった。花嫁を迎えるためにみずから来てくれるかも、と、ほんの少し期待していたのだけど。
「だから言ったでしょう?どんな扱いを受けるか分からないって」
自嘲気味にくすりと笑うピアラを、心配そうに見つめるソフィア。
「大丈夫ですよ。カイ陛下はきっと、首を長くして待っておいでですわ。もしくは、案外近くでこっそり見張ってるかもしれませんよ」
ばあやの言葉にふふっと笑うピアラ。
「そうね。これからの身の振り方は、取り敢えず、トルティア王国に着いてから考えるわ」
水面にゆらりと揺れる大きな影。船を守るように悠々と泳ぐその姿に気が付いたものは、誰もいなかった。
◇◇◇
「トルティア王国にようこそ!」
「歓迎します!真珠姫さま〜!」
港に着くなり、沢山の民衆からワッと花吹雪で出迎えられるピアラ。
「ようこそピアラ姫さま!お付きの方たちも。花輪をどうぞ!」
小さな女の子たちが次々に色とりどりの花で作った花輪を渡してくれる。
「あ、ありがとう……」
突然の歓待に驚くピアラ。
ピアラ達を乗せた馬車は、そのまま王宮まで、花びらの舞い散る中、パレードのように進む。
「何だか、想像以上に歓迎されてるみたいね」
腑に落ちずに首を傾げるピアラ。ピアラがトルティア王国に来るのは初めて。まして、長年利権で争っていた隣国の姫を、これほど歓迎してくれる理由が分からなかった。
「さすが姫様。海を挟んだ隣国でも、すでに大人気ですね?」
フフンと自慢気に胸を張るソフィアとばあやも、子どもたちから貰った花輪で花だらけになっている。
王都を練り歩くようにしてパレードは続き、馬車が王宮に乗り入れると、見たこともない豪華な宮殿の前で、今度は大勢の使用人たちが一斉に出迎えてくれる。
「ピアラ姫様!お待ち致しておりました!」
「我ら一同、心を込めてお仕えいたします!」
嵐のような歓待の中、ここでもカイの姿は見えなかった。
◇◇◇
「こちらがピアラ姫様のお部屋になります。寝室のほかに、いくつかの部屋と、執務室、書斎、ドレスルーム、浴室などがございます。何か足りないものがあれば、すぐにお申し付け下さいね。家具や調度品なども、姫様の好きなものを揃えるようにと申しつかっております。ドレスルームにはドレスと靴、宝飾品などが揃えられておりますが、こちらも後日職人を呼びますので、お好きなものをお選びください」
侍従から部屋に案内されると、その部屋の広さや調度品の素晴らしさに目を見張った。飾ってある花瓶一つとっても、素晴らしい芸術品であることが分かる。
(本人の出迎えはないけど、表面上は、大切に扱ってくれるみたいね。それとも、国力の違いを見せつけて、大人しくさせる作戦かしら)
用意されたお茶とお菓子を食べて、一息つくピアラ。そこへ、ノックの音と共に、執事から声が掛かる。
「ピアラ姫様。カイ陛下がいらっしゃいました」
(いよいよ本人とのご対面ね)
ピアラはカチャリとカップを置くと、すっと背筋を伸ばす。
「……どうぞ」




