それぞれの推察
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この立て続けに起こった3件の狙撃事件は、警備の問題として大いに警察内部を混乱させた。
銃器の特定も完全には出来ておらず、それ以前にこの3件の狙撃事件の犯行動機が不明のままだ。
わずか2週間の間に3件もの別々の国会議員への狙撃事件が起こっている。
週刊weekly JAPAN編集部の記者、宮下結子はこう推察した。
「犯人の目的は、命を狙った狙撃じゃないんじゃないかしら。そうは思わない、小林君」
「またまたぁー。なにまた馬鹿なこと言ってるんですか、宮下さん。それじゃ、何が目的だっていうんですか」
「そこなのよ。一番わからないのは。だってスパイ映画じゃなくても、あれは完全にプロの手口よ」
「なんでそんなことが言えるんですか、弾は全部外れてるんですよ。2件目の事件なんて5発も撃ってて1発も当たってない。逆に下手くそなんじゃないですかね」
「でも、もしそれがわざと外していたとしたら?」
宮下結子の意味深な言い方に、パートナーカメラマンの小林は唾を飲み込んだ。
「そ……そんなことする意味あります?」
「もしも、そんな意図があったら、面白いんじゃないかなーって話」
「もぉー、またドキドキさせないでくださいよ」
こんな風に小林を驚かせることは、宮下にはしょっちゅうのことだった。
「でもね。あれだけ現政権を理不尽に叩いてたオールドメディアが、完全に沈黙しているのもおかしいわ。絶対になにかある」
「また怖いこと言ってぇー。そういう僕たちも、俗にいうオールドメディアですけどね」
「でもうちはかろうじて中道保守を貫いている会社よ」
「まぁ、確かに」
「そして週刊weekly JAPANは、不毛な論争記事は上げない」
「はい。そうです」
「うちが記事を上げないのは、いまのところ情報量が少なすぎて不明瞭だからよ」
「その……新しい情報は見つかりますかね?」
「さぁ、それもわからないわ。もし、犯人が弾を当てなかった理由がわかれば真相に近づけるかもね」
宮下結子は、やはり犯人たちにそんな意図もあるのではないかと思っていた。
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警視庁は、外務省と防衛省を通じて、世界各国の準同盟国の機関に協力を仰いた。
これがもし、他国のスナイパーによる犯行だったら、場合によっては外交問題にもなりかねない。
唯一の救いと言えば、まだ誰も死傷者が一人もいないということだけ。
もし仮に、本当にスナイパーが命を狙って狙撃していたとしたら、この3人は本当に無傷で済んでいただろうか。そんな疑問も当然ながらにあった。
2件の狙撃で、どちらも弾が1発ずつしか撃っていないという事実と、その当たった箇所がまったく同じというのも不可解過ぎる。
狙撃犯は、明らかに用意周到だ。国会議員を乗せた公用車がどこを通るのか初めからわかっていたはずだ。そうでなければ、あんな完璧な狙撃ができるはずがない。
未だその犯行動機や目的は不明だが、その一番の難関を解く必要がある。
そんな捜査の議論が、警視庁内の特別捜査本部で行なわれていた。
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もう一つ警察が抱えていた大きな問題として、これからの国会議員の警備をどうするかということだ。
SP特別警護は、通常内閣閣僚・大臣クラスにしか付けておらず、そんな大人数に対する特別警護など当然ながら想定してはいない。
もし、一般の警察官をそのような職務に付かせようとしたら、聞いただけで辞退して、場合によっては警察官を辞めてしまう者もいるかもしれない。そんな懸念もあった。
ただ一つ。狙撃対策として実行したのは、国会議員が乗っている車両を特定されない為に、民間のレンタカーやリース車。それがなかった場合はシェアカーに切り替えたことだ。
その車種も、公用車のような大型セダンではなく、中型セダンやコンパクトカーにした。
これは、国会議員が乗っている車を簡単に特定させない為である。
この為の車両の確保や事務手続きには、初めてのことがほとんどでかなり骨が折れた。
この運転手たちの中には、もちろん自分の命も危険もあったのでかなり渋る者もいたが、結局一乗務ごとに高額の特別手当を出すということで解決した。




