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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

僕の1番は君だけど?

***BL***阿川君は何だか僕より大人っぽい。でも、本当は僕と変わらない一人の男の子だった。ハッピーエンドです。

 この人は、目黒の親しい人だ、、、。


 俺には見せない顔。

 気の許せる友人。

 長い付き合いの幼馴染。

 

 彼の「一番、、、



*****



「 阿川、また学年一位だって」

「流石だわ」

って言われる度に、地味に傷付く。ワザワザ声に出さないで欲しい。どうせ言葉に出すなら直接言って欲しい。

 こーゆう時、どんな反応を見せれば良いかわからない。喜ぶべき?でも、毎回一位なんだ。次は頑張れ?すごい嫌味。無視する?性格悪っ、、、。


「阿川君、すごいね!また一位でしょ?」

目黒は、直接俺に言うから返事もしやすい。

「目黒は英語上がった?」

「うん!3点上がったよ!でも、平均点が5点も上がってるから、、、」

「自分の点数が上がってるんだから、喜ばないと。はい、ご褒美」

ポケットに入れてあったチョコレートを一つ目黒に渡す。

 俺は試験が終わる度に、ポケットにお菓子を忍ばせる。目黒にご褒美を上げる為だ。

「やった!」

「阿川君は勉強が好きなの?」

「う〜ん、習慣にはなってるかな、、、」

「習慣!羨ましい、、、。僕なんて机に向かうとすぐ眠たくなっちゃうよ」

ふふ。目黒は可愛いな。

「阿川君、今日はもう帰るの?」

「本屋に寄ろうかと思って」

「一緒に帰っても良い?」

「うん、良いよ」 



*****



 俺は小学生の頃から身長が高く、痩せていた。ちからは無いけど、体育の授業はそこそこ出来たし、テストの成績も良かった。

 慕ってくれる友達も多かった、毎年委員長をやっていたし、小学校と中学校では生徒会長にもなった。

 何かあったら阿川を頼れば良い、そんな感じの子供だった。



*****



「欲しい本、あった?」

「う〜ん。ちょっと見つからないなぁ」

「阿川君は電車、どっち方面?上り?下り?」

「上り」

「じゃあ、移動しようよ。大きい本屋がある所」

「良いの?」

「僕もあの駅で乗り換えだから」

「じゃ、移動しようかな?」

俺は少しの時間でも目黒と一緒にいたい。


 夕方の電車は、人が多いけど、座れない程じゃない。丁度良い混み具合で、俺達は並んで座った。

「何の本、探してるの?」

「古文の先生が勧めてくれた本。興味あったから見てみたくて」

「タイトル覚えてる?」

「さっき、スマホ検索、、、」

フワッと目黒の香りがした。

「してみたから」

俺のスマホを覗き込む目黒は良い香りがした。

 目の前に、形の良い耳がある。白くて綺麗な耳だった。

「阿川君?」  

急に振り向かれ、顔がめちゃくちゃ近い。

「目黒、顔ちっちゃ、、、」

「顔だけじゃ無くて、全体がちっちゃいって言いたいんじゃ無い?」

目黒は座り直して、唇を尖らせる。

「僕は、これから身長が伸びるんだよ。来年には、阿川君の身長を追い越しちゃうよ」

「そんなに一気に身長が伸びたら、皮膚が追いつかなくて裂けちゃうよ」

「、、、え?」

目黒は、呆然として固まった。

「マジ?裂けちゃうの?、、、スプラッタじゃん、、、怖っ」

「夜にギシギシ言って、凄く痛いらしいよ」

俺は、目黒の反応が可笑しくて更に脅かす。

「え、音がするの?」

「痛くて寝られないって」

「、、、阿川君もなったの?」

「いや、俺は小学生の頃から徐々に伸びたから」

「僕、毎日牛乳飲むの止めようかな、、、」

ふふ。目黒、毎日牛乳飲んでるんだ。



*****



 阿川君は、初めて会った時から大人っぽかった。

 入学式で、僕はクラス発表の掲示板を端から見ながら何組か確認していた。

 後から来て、少し後ろで掲示板を見ていた彼は

「3組」

と呟いて体育館に入って行った。 

はっや!)

と思いながら自分の名前を探すと、僕も3組だった。

 チラッと顔を見ただけだけど、阿川くんは印象に残り、何と無く興味が湧いた。



 阿川君は出席番号が一番で、更に印象が強くなった。背も高いから目に付くし、僕は阿川君を探すのが上手かった。

 


*****



「阿川君、一緒に行こう」

初めての移動教室の日。僕は、ちょっと方向音痴の自覚がある上に、パソコン室の場所がわからなかった。

「先に図書室に寄りたいんだけどいいかな?」

と言われ、阿川君に着いて歩く。

「目黒、こっち」

「あ!えへへ。教室の場所、まだ覚えて無くて」

「じゃあ、図書室寄ってから行ったら、パソコン室覚えられないかな?」

「大丈夫、大丈夫。何とかなるよ」


 図書室から出ると、阿川君に腕を引かれた。

「目黒」

「あれ?」

「ふふ、こっちが近道だから」

阿川君の笑顔は優しい。

「そっか、そっか」

僕はへへへと笑う。



*****



 その日、目黒は雨に降られてびしょ濡れだった。

「折りたたみ傘が入って無くて、、、」 

駅から学校まで歩いている間に本降りになったらしい。

 取り敢えずタオルが無いから、部活に入っている人にタオルを借りた。

「ごめん、ありがとう」

「トレーニングウェア貸すから、濡れたの脱いじゃえよ」

「うん、そうする」

目黒はシャツを脱ぎ出した。

「ちょ?此処で脱ぐの?」

と言っている間に上半身裸になって、トレーニングウェアを着る。

 目黒の顔が少し赤い。

「大丈夫?寒くない?」

俺が手を伸ばして、額に触れると

「大丈夫、大丈夫」

と慌てた。

制服のズボンも裾がかなり濡れてたから、トレーニングウェアのズボンも貸して

「流石に下は、トイレで履き替えて来な」

と声を掛ける。



*****



 阿川君の服を着たら、阿川君の匂いがしてドキッとした。

 額を触られて、ちょっとびっくりしたけど、嬉しくて。でも、恥ずかしいから、何でも無いフリをした。

 着替えて戻って来ると、濡れた制服がロッカーに掛けてあった。

「帰るまでに乾くかな?」

心配すると

「後で先生に聞いてみよう」

と阿川君が言う。

 朝のホームルームが終わり、担任に相談すると保健室で乾かしてくれる事がわかった。

 僕達は一時間目が始まる前に急いで保健室に行き、養護教諭の先生にお願いした。すぐに一時間目が始まるから

「授業が終わったら一度来てね」

と言われて、次の休み時間に二人で顔を出した。


 保健室には小さな洗濯機があって、先生がシャツだけ軽く洗って干してくれていた。扇風機の風を当てて早く乾くようにしてある。

「軽く洗ったけどね。帰る頃には乾くと思うから取りに来て」

「ありがとうございます」

二人でお礼を言って教室に戻った。

「このトレーニングウェア、洗って返すね」

僕は上着から指先だけ出して言う。トレーニングウェアがめちゃデカくて指先しか出ないし、ズボンの裾は折り曲げてある。

「え?良いよ。明日体育あるし、使ってから持って帰るよ」

阿川君はいつも何だか余裕があって優しい。



*****



 目黒はトレーニングウェアの袖口から指先を少し出していた。それが何だか可愛くて、堪らない。

「このウェア、洗って返すね」

と言われて、そのまま返して欲しかった俺は適当に言い訳を探した。

 目黒の着たウェアを洗っちゃうなんて勿体無い。

(ん?勿体無い?何で?)

最近の俺はちょっと変だ。



*****



 僕は、昨日のトレーニングウェアのお礼に、阿川君に何かご馳走したかった。でも、何をご馳走したら良いかわからなくて、近くの席の人に聞いてみる。

「あのさ、お礼に何かご馳走するなら、何が良いかな?」 

「え?女の子?彼女?何のお礼?」

「クレープとか良いんじゃ無い?高過ぎ無いから、相手も遠慮しないかも」

「え〜、俺はたこ焼き!」

「ドーナツ!」

「俺はハンバーガーのセット」

「ラーメン」

、、、なんか段々食事って感じになって来た。

「フードコートで、好きな物選んで貰ったら?」

四人くらいでワイワイやっていたら、近くの女子が「目黒君、彼女いるの?デート?」

なんて聞いて来る

「違う違う!お礼に何かご馳走しようと思って!」

「あ、私ならアイスが良いなぁ〜!」

とか

「私、あそこに行きたい!ほら、新しく出来たカフェ!なんて名前だっけ?」

めちゃくちゃ盛り上がってしまった。



*****



 俺が教室に戻ると、目黒の周りが一際賑やかだった。食べ物の話しで盛り上がっているみたいで楽しそうだ。

 誰かが

「目黒君、彼女いるの?デート?」

なんて言うのが聞こえてギクリとした。

 目黒、彼女がいるのかな?

 その後すぐ

「違う違う!お礼に何かご馳走しようと思って!」

って聞こえたからホッとした。

 でも、彼女の存在を否定しなかったから、もしかしたら彼女がいるかも知れない。



 俺達は入学してすぐ仲良くなったから、その後誰かと付き合う事になったら知っていると思う。もし、いるなら中学生の時からかな?

 目黒は人当たりも良いし、彼女がいても可笑しく無い。

 目黒の彼女か、、、。羨ましいな、、、。と思いながら、自分の気持ちにやっぱり「?」と思う。



*****



 最近、僕は毎日阿川君と一緒に帰る。それが当然みたいな感じになって来たけど、寄り道を誘うのは初めてで、何故か少し緊張する。

「あのさ、ちょっと軽く食べていかない?」

ドキドキしながら聞いてみた。

「ん?目黒、お腹空いちゃった?」

「うん!お腹空いた。軽く何か食べたい」

お腹が空いたフリをしたら、阿川君も一緒に行ってくれるだろう。実際、お腹は空いてるし。

「良いよ。何処に行く?」

「阿川君は何が食べたい?」

「俺は帰ったら晩飯あるから、軽めが良いな」

二人で歩きながら、考える。

 駅までの歩き道、いつも商店街を通るけど、買い食いした事は無かった。商店街の入り口におにぎり屋さんがあって、天むすとか、イクラのおにぎりとかメチャクチャ美味しそうだった。和菓子屋さんのお団子も餡子がたっぷりで心惹かれた。肉屋さんのコロッケとメンチカツも夕方の僕達のお腹には堪らなかった。

 結局、商店街を通り抜けてしまって、戻るか駅まで行ってしまうか悩んだ。

「あのさ、ちょっと食べたい物があるんだけど」

阿川君が言う。

「あそこのフードコートにあるんだ」

「いいよ、いいよ。阿川君の食べたい物にしようよ!」

「ホント?いいかな?」

二人でフードコートを目指す。

「昨日、テレビでクレープ見てさ。何だかすごく食べたくなって、一人だと恥ずかしいし」 

阿川君はちょっと照れていた。

 僕は、阿川君の口からクレープなんて単語を聞いて、親近感が湧いた。

「どんなクレープが食べたいの?」

「昨日はアイスクリームが入ってるヤツだった。バナナとチョコ、アーモンドも入ってた。生クリームも乗ってたよ」 

「バナナとチョコレートは美味しいよね」

お店に着いて、メニューを見ながら阿川君は結構悩んでいた。

「あ!クーポンあるよ」

と言うと阿川君も探して二人でクーポンを使う。

「僕がまとめて払うね」

と言って、電子マネーで払った。

僕達はクレープを受け取り、空いてるボックス席に座る。

「後でお金払うよ」

「あのさ、実はトレーニングウェアを貸してくれたお礼にご馳走したかったんだ。そのつもりで今日誘ったの」

と返事をしたら阿川君は嬉しそうだった。

「クレープって、たまに食べたくなるけど、何となく恥ずかしくて食べられないんだよね」

「うん!持ち帰りも出来ないし、なかなか男子にはハードルが高いよ」

「次、またクレープが食べたくなったら、目黒を誘おう」

阿川君が微笑んだ。

 次も阿川君と次も来れると思うと嬉しかった。



*****



「あれ?目黒じゃん」

呼ばれて二人で顔を上げると知らない人がいた。

「わぁ!久しぶり、南高なんだ」

駅の反対側にある高校の制服を着ている。

「目黒は相変わらず、ちっせーなぁ」

「うるさいなぁ!すぐ大きくなるからいいんだよ」

目黒が笑いながら答える。

「美味そーなの食ってんじゃん。一口ちょーだい!」

俺は一瞬ギョッとした。目黒は何も気にする事無く、クレープを差し出す。

 中学の友達だろう。ものすごく仲が良い。

 目黒の話す口調や表情が俺の時と違う。

「おまっ!そんなデカい口で食うなよ!アイスが、、、。あ〜あぁ、、、。僕のアイスが、、、」

「ご馳!」

と言って、彼は帰って行った。

「アイツ、もう少し遠慮しろよ、、、」

目黒は本当に悲しそうだった。

「俺の食べる?」

さっきのやり取りが何と無く面白く無かった俺は、クレープを目黒に差し出した。

 目黒はちょっと驚いた顔をした後

「あー、、、んっ!」

と言って、アイスの部分を食べた。

「美味っ!チョコアイスも美味いね」

いつもの目黒だけど、さっきの友達と話しをする目黒は俺の知らない目黒だった。



*****



 家に帰ってからも、目黒の友達とのやり取りが忘れられなくて、モヤモヤした。

 そう言えば学校でも、俺以外の人と話す時、ちょっと違う感じがする。

 俺に遠慮してるのかな?随分仲良くなったと思ったけど、一線引かれてるのかも、、、。



 考え出すとキリが無い。目黒の事で気分が浮いたり落ち込んだりする自分に気付く。



*****



「阿川君は誕生日いつ?」

「ん?10月」

「来月だね。何か欲しい物とかある?」 

「欲しい物?」

、、、何だろう、、、。俺は昔から物欲が無くて、欲しい物が無い。

「欲しい物、欲しい物、、、欲しい物かぁ、、、」

「無い?」

「う〜ん、、、ごめん。あ、目黒の誕生日は?」

「僕は一月」 

「目黒は何か欲しい物あるの?」

「え?僕は、いいよ。阿川君のを聞いてるんだから」 

目黒が笑う。

「目黒の欲しい物あったら教えて」

「うん」



*****



 結局、俺の欲しいものは見つからず、誕生日前の土曜日、目黒と買い物に行く事にした。

 休日に会うのは初めてで嬉しい。


 待ち合わせ場所に行くと、私服の目黒が待っている。まだ約束の10分前。

「目黒、お早よう」

「阿川君お早よう」

目黒の私服はオシャレで可愛かった。

 

 電車に乗り、駅ビルの沢山ある場所まで移動する。何だかデートみたいだな、なんて思ったら急に恥ずかしくなった。



*****



 僕は待ち合わせの20分も前に着いてしまった。ちょっと早く出たつもりが、乗り換えも上手くいったお陰か、予定よりもかなり早かった。

 でも、待ち時間も何だか楽しくてドキドキする。

「目黒、お早よう」

と阿川君の声がした。、、、カッコ良い、、、。阿川君の私服、カッコ良いよ、、、。

 黒いジャケットが良く似合ってる。

 それに比べて僕の服装はこれで良かったかな?ちょっと恥ずかしくなって来た。



*****



 目黒は、一所懸命プレゼントを探してくれる。でも、俺はなかなか欲しい物を見つけられない。

 何だか申し訳無くなって来る。

「阿川君は何の動物が好き?」

「動物?」

目黒が動物のキーホルダーを見ていた。キーホルダーを見る目黒が可愛い。

「目黒はこの中でどれが好き?」

「僕は、、、これかな?」

手に持っているクマのキャラクター。シャツに赤いハートが付いていた。

 目黒の親指が赤いハートを撫でている。

「え、可愛い、、、」

「でしょ?」

「それ、俺が買おうかな、、、」

「、、、なんで?」

やっと俺の誕生日プレゼントが見つかったのにって顔してる。

「目黒は俺にこっちを買って」

同じクマのキャラクターだけど、身に付けているものが違う。

「そっちは俺が買うから交換しよう?」

「いいの?」

俺達はお互いにキーホルダーを買った。

 店を出て、すぐにキーホルダーを交換する。俺が早速鞄に付けると、目黒も鞄に付けた。

 

 買い物も終わり、腹が減ったから何か食べようと話す。低価格のファミレスがあったから列に並ぶ。

 目黒はぬいぐるみを触っていた。



「裕!」

目黒がパッと顔を上げた。

「けんちゃん!」

「ウェ〜イ。久しぶりぃ〜!」

「けんちゃんは相変わらずだねぇ」

「こんにちは」

けんちゃんは、俺に礼儀正しい挨拶をくれた。俺も頭を下げる。

「裕、そのキャラクター好きだなぁ。今も好きなの?」

「へへへ」

と、恥ずかしそうに笑う。




 この人は、目黒の親しい人だ、、、。


 目黒が俺には見せない顔をしている。

 気の許せる友人?

 長い付き合いの幼馴染かも。

 

 きっと、彼の「一番大切な人」だ、、、。




「俺、ちょっとトイレ」

何と無く逃げてしまった。



 目黒が少し恥ずかしそうな顔をしていた。どんな相手なんだろう。


 友人

 幼馴染

 初恋の人

 好きな人

 元恋人、、、。


 楽しい気分が一気に冷めて行く。



*****



 けんちゃんは、僕の幼馴染。僕が男の人を好きになる事を知っている唯一の友人。

「ね、さっきの人、彼氏?」

「へへへ」

少し話しをした後、けんちゃんは耳元で小さく聞いた。

「まだ、告白して無いんだ。僕の好きな人」

「やったじゃん。良い人そう」

「ホント?」

「お揃いのキャラクターのキーホルダー付けてくれるなんて優しいな。同じ学校?」

「うん、同じクラス」

「頑張れよ」

けんちゃんは友達を待たせているらしく、先にお店に入って行った。



*****



 けんちゃんさんが目黒にそっと耳打ちして何かを話していた。目黒の表情が嬉しそうで、俺は自分が自惚れていたと気が付いた。

 目黒の好きな人はあの人だ。あんな目黒の顔、俺は見た事が無かった。



 俺は、目黒の仲の良い友達。ただそれだけ、、、。



*****



 阿川君が急に大人しくなった。僕があちこち連れ回したから、疲れちゃったかな?

「阿川君、疲れた?」

「ちょっとね」

小さく笑う。本当は夜まで一緒に居たかったけど、今日はもう

「ご飯食べたら帰ろうか?」

「そうだね、、、」

その返事に少しガッカリする。

「僕があちこち連れ回したから疲れちゃったでしょ。ごめんね」

「そんな事無いよ。楽しかった」

頼んだ物が運ばれて来て、遅い昼ご飯を食べた。



*****



 昼ご飯を食べて、電車に乗ってもまだ3時前だった。俺は夜まで目黒と遊びたかったけど、恋人でも無いのに、一日中一緒にいるなんて変かな?と考えてしまった。

 思えば僕は、友達とこうやって遊んだ事が無い。小学生の頃は外で遊んでいたけど、中学の頃は部活と塾で忙しかった。


 電車は思った以上に混んでいた。目黒をドア側に立たせて、俺は正面に立った。

 たまに電車が揺れて、目黒に当たりそうになり、ごめんと謝る。

 乗り換え駅で降りて改札を出る。目黒の乗る電車の改札まで行き、見送ろうとしたらけんちゃんさん達がいた。

「あれ?裕、もう帰るの?」

「、、、うん」

「伸達もいるよ。一緒に帰る?」

「じゃぁ一緒に」

俺は目黒の腕を掴んでいた。

「?。阿川君?」

けんちゃんさんが笑いながら

「裕はもうちょっと用事がありそうだね」

と言った。


 改札前は邪魔になるから、少し離れた場所に移動する。

「阿川君?」

「ごめん。何と無く、、、」

「、、、カラオケでも行こうか?」

「カラオケ?行った事無い」

「ルームだから、歌わなくてもゆっくり出来るよ。僕、試験勉強しに行った事ある」

目黒は俺を連れてカラオケに行く。



*****



 阿川君はキョロキョロしながら着いて来た。こんな阿川君は初めて見た。何だか可愛いな。

 僕は、照明を落として、エアコンのスイッチを入れ、ボリュームを下げた。

「何か歌う?」 

阿川君が首を振る。僕はBGM代わりに何曲か入れた。

「この曲知ってる、、、」

阿川君が少しリラックスして来たみたいだ。

 頼んだ飲み物が来て、店員さんが部屋を出てから僕は靴を脱いだ。

 椅子の上に足を乗せる。膝を抱えて

「阿川君も靴脱いだら?楽だよ」

と誘ってみる。阿川君がおずおずと靴を脱ぐ。

「あのぬいぐるみ、前から好きだったんだね」

阿川君はまだ少し元気が無い。僕は鞄に付けたキーホルダーのぬいぐるみを触りながら。

「このクマも可愛いけど、シャツの赤いハートが何だか好きなんだ」

阿川君が僕のぬいぐるみを撫でる。

「目黒に似てる。可愛い」

ボソッと呟きながら、だんだん顔が赤くなって行く。

「ごめん」

えー、、、阿川君、、、可愛い、、、。

「さっき、何か話したい事あったみたいだけど、、、」

阿川君は赤い顔を見られたく無いのか、抱えた膝に頭を乗せて顔を隠す。でも、耳まで赤いんだよね。

 僕はドキドキする。

「けんちゃんって人と一緒に帰らないで欲しかった、、、」

「それで、腕を掴んだの?」

「何て言っていいかわからなくて、咄嗟に、、、」

「けんちゃんはね。僕の幼馴染。小学校の低学年から仲が良かったんだ」

「そっか」

「けんちゃんが一番僕の事を知ってる。悩み事も沢山聞いて貰ったし、高校は離れちゃったけど、中学は3年間同じクラスだったよ」



*****



 一番目黒を知っている人か、、、。やっぱりけんちゃんには、敵わないんだ、、、。


「さっきけんちゃんが、阿川君の事「良い人そう」って褒めてたよ」

良い人そう、、、害の無い人って事かな、、、。

「目黒の周りにはいつも人が沢山いるね」

「そっかな?」

「俺といる時は二人きりだけど、休み時間とか自然と目黒の周りに人が集まって来る。けんちゃんさんも声掛けてたし、前にも南高の友達に声掛けられてた。、、、俺と居てつまらなくない?」

「え?」

「目黒はさ、自分で気付いてないと思うけど、俺以外の人といる時、すごく楽しそうで元気だけど、俺といる時は少し違う。何て言うか、テンションが違うんだよね。俺に気を使ってる?みたいな。あんまり、楽しく無いかな?」

「クラスの友達と阿川君は違うよ。だって僕、阿川君と仲良くなりたいもん」

「、、、」

「他の人は同じクラスの仲間。阿川君の存在はちょっと違う」

俺は友達位になれたのかな?。

「初めて会った時から、大人っぽいなって思ってた。背も高いし、成績も良いし、運動だって出来る方だよね。いつも僕の話しちゃんと聞いてくれるし、声も好き。阿川君といると、無理して会話を探さなくて良いし、テンションも上げなくて良い。自然でいられるから楽なんだ」

「俺、大人っぽいかな?。何でも考え過ぎるし。タイミングを合わせるのが下手で、気の利いた事が言えない。臨機応変にも出来ない、、、」

「知ってる。最近の阿川君はちょっと可愛いから、大人っぽいだけじゃないな〜って思ってた」

「、、、小学校からずっと委員長とか生徒会長とかやってた。先生からの頼まれ事も多かったし、人に頼られると嬉しかった。だから、落ち着いて見られたけど、、、人との接し方とか、そーゆうのが上手く出来ない、、、。好きな人にも、、、」

「阿川君、好きな人いるの?」

「多分、、、」

「そっ、、、かぁ、、、」

「目黒は好きな人いる?」

「いるよ」

「だよね。でも、この好きが友達の好きか違う好きかわからないんだ。、、、目黒はその人の事好きって、どうしてわかったの?」

「難しい事聞くね、、、。取り敢えず、その人の名前呼んで好きって言ってみたらいいよ」

「え?!」

「口に出して、自分の耳で聞くと意外とわかるもんだよ」

「、、、、、」



*****


 

  阿川君がチラリと僕を見る。

 

 阿川君の好きな人が僕なら良いのに。なんて考えながら、もし、僕じゃ無かったら、、、と淋しくなる。その時は阿川君を応援しよう、、、。応援出来るといいな、、、。




  

「目黒、好き、、、」



 僕の瞳孔が開くのがわかった。

「僕も、、、」

あ、返事しちゃった、、、。

 阿川君がキョトンとした顔をしている。


「あの、、、」

僕はつい、声が出た。阿川君の「目黒、好き」は告白じゃ無いのに。


阿川君が微笑んだ。

「目黒、好き」

阿川君がそっと手を伸ばす。

「目黒、大好き」

阿川君がポロっと涙を流した。え?どうしたの?

 僕は自然に阿川君を抱き締めた。いつも僕より大人っぽい阿川君が小さな子供みたいに見えた。

「どうしたの?大丈夫?」

「大丈夫。俺、目黒の事友達以上に好きだ」

「うん」

「でも、目黒は違う。けんちゃんって人と話してる時、幸せそうだった、、、。目黒の好きな人ってけんちゃんだよね?」

「けんちゃん?」

「ファミレスで、、、」

「あれ、阿川君の事話してたんだよ」

「俺?」

「けんちゃんに彼氏?って聞かれて、まだ告白してないけど、好きな人って言ったんだ」

阿川君は、僕の顔を見て、もう一つ涙を流す。


 さっき入れた曲が全部終わってしまう。部屋にBGMが流れて、くっついて座っていた僕達はそっと手を繋いだ。

「けんちゃんはね、、、。僕が男の人を好きになる事を知ってる唯一の友達」

阿川君は静かに聞いてくれる。

「小学生の頃からずっと悩んでいて、けんちゃんに沢山相談したんだ。けんちゃんは最初びっくりしたけど、僕の事を揶揄ったり嫌いになったりしなかった。何でも相談して良いよって言ってくれたんだ」

「そうなんだ。信頼してるんだね」

「阿川君もけんちゃんときっと仲良くなれるよ」

「、、、それはイヤだ」

「、、、?」

「、、、ごめん。何と無くイヤだなって、、、」

僕は阿川君もけんちゃんも好きだから、二人が仲良くなってくれたら嬉しいけど、、、。


 カラオケは次の予約が入っていたから、二時間で退室した。阿川君は僕を家まで送ると言って、一緒に帰る事にした。



*****



 目黒がけんちゃんさんと俺が仲良くなれるって言ったけど、瞬間的に無理だと思った。

 目黒があんな顔する相手と仲良く出来る訳が無い。多分嫉妬してるんだ。目黒が俺をあんな風に見てくれたら嬉しいのに。



*****



 俺の誕生日当日、目黒はあのキーホルダーを買った店に行きたいと言った。

「ごめんね、急に。時間大丈夫?」

俺はにっこり笑う。

「目黒と一緒なら何処でも楽しい」



 目黒は、俺がプレゼントしたぬいぐるみと同じ物を手に取ると、しばらく悩んでいた。どうしたんだろう、、、もう、持っているのに。目黒のリュックには同じぬいぐるみが付いている。

「うん、やっぱり買う」

目黒は、ぬいぐるみをレジに持って行き

「プレゼント用にラッピングして下さい」

と頼んだ。誰に上げるんだろう、、、けんちゃん?まさかね。

 ラッピングされたぬいぐるみを受け取ると、目黒は歩きながら

「あのね、、、。このぬいぐるみ、リュックに付けてくれる?」

と俺に渡した。

「え?俺になの?」

「他に誰にプレゼントするの?。今日は阿川君の誕生日だよ?」

「そうだけど、この間ちゃんと貰ったよ?」

「阿川君、僕のぬいぐるみ見て、僕に似てるって言ったの覚えてる?」

駅の改札を抜けながら

「僕は、もう一つのぬいぐるみを見て阿川君みたいだと思ったんだ」

確かに俺が持っているクマは、あの日の俺のシャツと同じ色のシャツを着ている。目黒のクマは、目黒の服と同じ色だった。

「だからね、阿川君に似たクマの横に、僕に似たクマを付けて欲しいんだ。ダメかな?」

「え?待って、それなら俺も目黒に俺のクマも付けて欲しい、、、」

「あ、、、」

階段を、降りながら二人で笑った。

 改札を通ってしまったから、今日はもう戻れない。帰りの電車に乗り込んで潰されそうになりながら帰る。

 乗り換え駅でホームに降り、人並みから外れてベンチに座る。リュックを膝の上に置き、折角ラッピングして貰ったシールを丁寧に剥がす。

 俺がぬいぐるみをリュックに付けると目黒がちょっと嬉しそうだった。

「二つも貰っちゃったけど、大丈夫?」

「へへ、ちゃんと貯金してたからね」

しっかりしてるな。ベンチに座りながら手を繋ぐ。

 もう帰らないといけないのに、もう少し、後、5分とドンドン時間が経ってしまい、俺達は漸く重い腰を上げる。



*****



「あれ?増えてる」

「けんちゃん!」 

学校の帰り、家の近くのコンビニでけんちゃんに会った。

「告白したの?」 

けんちゃんは僕のリュックのぬいぐるみを指差しながら言った。

「今、付き合ってるんだ」

「良かったねぇ」

「へへへ」

後ろからグイッと引っ張られてびっくりすると、阿川君だった。

「いたんだ」

けんちゃんが苦笑した。

「飲み物見てた」

「家、この辺なの?」

「違うよ。駅からここまでいつも送ってくれる」

「ふぅ〜ん。じゃあ、ここから先は俺が送るから、君は帰りなよ」

けんちゃんが何だか、不穏な笑顔をしている。

「裕、行こう。帰りが遅くなる。君も、駅まで戻るなら気を付けて帰ってね」

と言いながら、けんちゃんが僕の手を握る。珍しいな。

「わっ!」

阿川君が僕の腕を引っ張って、急に抱き締めた。

「ど、ど、ど、どうしたの?」

阿川君は何も言わない。言わないけど、ギュッとちからを込めた。

「へぇ、ちゃんとヤキモチ妬くんだ」

「けんちゃん?」

「いや、本気なのかな?って思ってさ。冷やかしとか、お試しで付き合ってるなら、早く辞めた方が良いかと思って」

「けんちゃん?」

阿川君は一言も話さない。でも、顔を見たらものすごく怒っているみたいだった。

「健?何やってるの?」

制服を着た女の子が二人入って来て、けんちゃんに近付く。一人はけんちゃんの妹、ゆのちゃんだ。

「俺の彼女」

けんちゃんが右側の子を紹介すると、阿川君の力が抜けた。

「こんにちは」  

紹介された子が優しく笑う。

「、、、めちゃ、タイプ」

ゆのちゃんが呟く。

「ゆの、辞めて、、、」

ゆのちゃんは、阿川君を見て呟いた。僕的にも辞めて欲しい、、、。

「えーっ!紹介してよぉ!」

「だぁーめっ!行くよ、ゆの。またね、裕」

三人はコンビニを出て行く。

「裕君、相変わらず可愛かったねぇ」

「ゆの」

けんちゃんも大変そうだった。

「阿川君?」

阿川君は、さっきのまま僕を抱き締めている。

「ごめ、、、」

「大丈夫?」

「うん」

「帰れる?」

阿川君は僕を見る。

「10分だけ」

阿川君はレジ横の肉まんを一つ買って、近くの公園に移動した。

「はい」

肉まんを半分にして分けてくれる。あったかくて気持ち良い。

「ヤキモチ妬いてくれたんだ」

僕は一口、肉まんを食べた。

「ワザとだって、わかったけどイヤだった」

阿川君も食べた。阿川君は半分の肉まんを二口で食べた。

「、、、あのさ。阿川君の恋愛対象って、基本女の子だよね?」

「、、、?」

「僕は、男の人しか好きにならないけど、阿川君は女の子の方が良いでしょ?」

「、、、え?わからない」

「ん?意味が通じて無いのかな?」

「違う。今まで誰かを好きになった事無いから、わからない」

「僕が初恋なの?」

「あー、、、。そう」

阿川君は恥ずかしそうになる。

「そっか、、、」

不謹慎ながら、ちょっと嬉しかった。

 阿川君はブランコの柵に寄りかかる様に座った。僕は正面に立ち続ける。

「あのね。阿川君がヤキモチ妬く対象は男の子だけど、僕がヤキモチ妬く対象は、男の子も女の子もいるんだ。阿川君の倍もいるんだよ」

「ヤキモチ妬くのが見っともないのはわかってるんだ、、、」

下から見上げる様に言う。ちょっと可愛い。

「違うよ。そうじゃ無い。僕もヤキモチ妬いてるって話し、、、。今も、ヤキモチ妬いた、、、」

「今?どこで?」

「けんちゃんの妹、阿川君の事「めちゃ、タイプ」って言った時、、、イヤだった」

「ごめん、、、」

「阿川君は何も悪く無いよ。何もしてないでしょ?僕が勝手にヤキモチ妬いただけ、、、。阿川君がヤキモチ妬く様に僕もヤキモチ妬くって、知ってて欲しいなって、、、」

阿川君は僕の指先を触り、そっと引っ張る。

 大きく開いた両足の間に入り、阿川君が僕の腰に手を回す。抱きつく様に僕を抱き締めて

「うん」

と言う。

「でもね、、、。もし、誰か他の人を好きになったら、遠慮無く言って欲しい、、、」

阿川君が僕を見上げて見つめる。

 そんなのホントは嫌だけど、、、。いつか阿川君は、女の子を好きになって、結婚して、パパになるんだ、、、。

「ね」

「目黒、、、」

阿川君がゆっくり立ち上がる。僕の目線が下から上に上がる。

「俺も名前で呼びたい」

「いいよ」

「裕一、、、」

僕は少し淋しくなった。いつかパパになった阿川君を想像したから、、、。

「裕一、、、」

背の高い阿川君が僕の頬を包み、上を向かせる。

「大好き」

「僕も、、、」

言った途端に息が漏れ涙が溢れた。

 阿川君がキスをする。そっと触れるだけの小さなキスだった。

「ホントは嫌だ。誰の事も好きにならないで、ずっと僕を好きでいて、、、」

阿川君が包み込む様に抱き締めてくれた。

 僕は阿川君にしがみついた。くっついた身体が、もっともっとくっついて、一緒になって溶けて仕舞えば良いのに、、、。

「ずっと一緒にいたいよぉ」

高校生の僕達は、もう帰らないといけない時間なのに、、、。

「帰りたく無いな」

「裕一、冬休みにうちに泊まりにおいでよ、、、」 

「え?」

「1日、ずっと一緒にいたい」

「いいの?」

阿川君はにっこり笑った。

「俺の事も、義孝って呼んで」



*****



クリスマス前の金曜日、裕一が泊まりに来る事になった。

「けんちゃんと彼女さんだ」

二人が手を繋いで、ケーキを見ている。

 俺はけんちゃんを見てもイライラしなくなった。多分、彼女を大事にしているけんちゃんを何度か見たからだ。

 今日も二人で仲良くケーキを選んでる。

「けんちゃんはいつから香織ちゃんと付き合ってるんだろう」

「ん?」

「いつから付き合ってるのか聞いた事無いから」

「そっか。あの二人、仲が良いよね。見てると安心する」

「うん。喧嘩する所、想像出来ない」

俺は何と無く、長い付き合いなんじゃ無いかと思った。でも、裕一に恋人が出来るまで言わなかったとか、、、理由はわからないけど、そんな気がした。


 俺達は、裕一の家まで行き、学校の荷物を置いて、泊まり用の荷物を準備する。

 駅まで歩いて戻り、電車に乗った。授業は半日で終わっていたので、まだ夕方前だった。

「母さんが、お土産買いなさいってお金くれたよ」

「え、良いのに」

「義孝の家は何人家族?」

「四人、姉さんがいる」

「じゃあ、ケーキ6個買って行こうよ」

「やった!ケーキ!」 

駅のケーキ屋でケーキを選ぶ。二人でみんなのケーキを選ぶだけなのに、楽しい。ケーキ屋でケーキをじっくり見る事が無かったから、カラフルでお洒落なケーキを選ぶのは大変だった。



 母さんに裕一を紹介して、お土産のケーキを渡す。裕一に一番にお風呂に入って貰い、俺もサッサとお風呂に入り、晩御飯を食べて二人で俺の部屋に行く。客用の布団が一式置いてあった。それを見ただけで、何だか嬉しかった。

 早々に布団を敷いて、ゴロゴロしながらスマホを見る。

 裕一がオススメの動画を見せてくれた。途中で俺は、裕一の後ろに移動した。裕一はちょっと恥ずかしそうにしたけど、ダメとは言わなかった。

 裕一のお腹を抱きながら、肩に顎を乗せる。裕一はちょっと頭を傾けてくっついて来る。

 動物の可愛い動画を見ながら、同じ所で笑う。

 ただ一緒に動画を見ているだけなのに、すごく楽しい。



*****



 義孝が後ろに回り、僕を抱き締める様にくっついて来た。肩に顎を乗せて来たから、義孝の顔がすぐ横にある。温かくて気持ちが良い。

 一緒に動画を見ていたはずなのに、気が付いたらウトウトしていた。スマホを布団の上に落としてしまい、寝ぼけながら慌てると、義孝もウトウトしていたらしくてそのまま二人で横になる。

 睡魔には勝てないらしく、電気を付けたまま二人で寝てしまった。

 途中で寝返りを打った様で、義孝の胸の中で寝ていた。


 義孝の匂いと体温で、もう一度眠くなる。今までに無い位気持ちの良い眠りだ、、、。義孝が僕の前髪を触る。髪にそっとキスをする。僕はモゾモゾと動き義孝の背中に腕を回すと、義孝の唇にキスをした。

 義孝は僕をギュッと抱き締める。もう、何もかもが気持ち良くて、幸せだった。

「義孝ーっ!」

二人でビクッと跳ねた。台所辺りから叫び声が聞こえた。

なぁにー?ねぇさーん!」

義孝が僕を隠す様に抱き締めて返事をする。

「ケーキ貰うねー!」

「どうぞー!」

「ごゆっくりー!」

僕はそっと義孝を見る。

「ごゆっくりだって」

義孝が僕を見て笑う。

「姉さん、相当酔ってる」

クスクス笑う。僕も何だか可笑しくて、義孝を抱き締めながら笑う。

 義孝が笑いながらキスをした。背中の手がシャツの中に入り、ズボンの淵を撫でる。たまに、僕の素肌を触りゾクゾクする。

 僕は恥ずかしくて義孝の顔が見れない。義孝は僕の頭にキスをしながら、シャツの中に入れた手で背中を撫でる。僕は、瞼をギュッと閉じながらドキドキした。

「義孝ー!」

「、、、今度は父さん、、、」

「ケーキ貰うからなー!」

「どうぞー!」

僕と義孝は目が合った。

 お互いにフフフと笑いながら抱き締め合った。

 義孝の心臓の速さと、自分の心臓の速さが同じで、どっちの音が自分の音かわからなかった。



続きはご想像通りです、、、ふふふ

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