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第四話:錯乱と融解の螺旋(らせん)

…………ブウウ――――――ンンン――――――ンンンン………………。


女王蜂の放つ漆黒の粘液は、触手植物の体内を侵蝕し続け、彼らのネットワークは、完全な錯乱状態に陥っていた。触手たちは、無秩序に暴れ回り、味方をも攻撃し始めた。緑色の粘液と黒い粘液が混じり合い、おぞましい色合いの沼が形成されていく。触手植物は、自壊の道を辿り始めていた。


「ああ、我らが女王……その御力みちからは、全てを凌駕する……」


兵隊蜂たちの狂信的な賛歌が、巣全体に響き渡る。彼らは、女王の力を目の当たりにし、さらなる狂気に駆られていた。彼らは、自らの命すら顧みず、触手植物へと突撃していく。しかし、錯乱した触手植物の無差別な攻撃は、兵隊蜂たちをも巻き込み、多くの命が失われていく。

一方、聖蜜の泉へと辿り着いた巨大な鮭は、泉の底に横たわる、まばゆい光を放つ物体を目撃した。それは、聖蜜の結晶体。泉から湧き出る聖蜜が、時間をかけて凝縮された、この地の生命の真髄であった。鮭は、その結晶体へと近づき、自らのイクラをその上に産み落とそうとする。聖蜜の力によって、イクラの生命力を最大限に引き出し、新たな生命を創造しようとするのだ。

しかし、その瞬間、泉の奥から、別の触手が伸びてきた。それは、他の触手よりも太く、暗い色をしていた。触手植物の本体の一部、最も聖蜜に近い場所に根差していたものであった。その触手は、鮭の身体に絡みつき、鮭の命を吸い取ろうとする。


「愚かなる魚よ……この聖なる場所は、我らのもの……」


触手植物の本体から、より強く、より冷酷な声が響く。それは、これまでの植物たちの囁きとは異なり、明確な意思と、深い憎悪を宿していた。触手植物もまた、聖蜜の力によって、その意識が覚醒し、個としての存在が確立され始めていたのだ。


女王蜂、触手植物、そして鮭。三者は、聖蜜を巡る争いの過程で、互いにその存在を進化させ、より高次の意識を持つようになっていた。しかし、その進化は、同時に彼らの本能的な欲望を増幅させ、より深い狂気へと陥れるものであった。

聖蜜の結晶体は、その光を強め、周囲の空間を歪ませ始めた。それは、生命の創造と破壊、その両方の力を内包しているかのようであった。結晶体から放たれる光は、女王蜂の粘液と触手植物の粘液を融解させ、三者の生命力を混淆させていく。


私の意識は、この融解の螺旋らせんに飲み込まれていく。私は、この物語の語り手なのか、それとも、この混沌の中で生まれようとしている、新たな生命の萌芽ほうがなのか。境界線は、曖昧になるばかりだ。


空間は歪み、時間はねじれていく。

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