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第三話:女王の覚醒と聖蜜の真実

…………ブウウ――――――ンンン――――――ンンンン………………。


蜜蜂の巣の奥深くに眠る女王が、微かに身動ぎをした。その胎内から、どす黒い、しかし力強い波動が発する。それは、長きにわたり蓄積されてきた、聖蜜の精髄を吸収した結果であった。女王の身体は、聖蜜の力によって、おぞましいほどに肥大化し、その羽は、鈍い光を放っている。


「愚かなる虫けらども……草の根ども……魚の群れども……」


女王の声が、巣全体に響き渡る。それは、数多の羽音をかき消すほどの、圧倒的な威厳に満ちた声であった。その声には、怒り、侮蔑、そして絶対的な支配欲が込められていた。彼女は、自らをこの地の真の支配者と信じている。聖蜜は、女王蜂の血肉となり、彼女に途方もない力を与えていた。

女王は、自身の体内から、漆黒の液体を放出した。それは、聖蜜の力を凝縮した、おぞましい粘液であった。粘液は、糸のように細く、しかしとてつもない速度で、触手植物の触手へと絡みつく。絡みつかれた触手は、まるで電流が走ったかのように痙攣し、瞬く間に黒く変色していく。女王の放った粘液は、触手植物の生命力を逆流させ、彼らを内部から破壊していくのだ。

触手植物たちは、苦悶の声を上げる。粘液によって侵蝕された触手は、自らの意思とは関係なく、他の触手へと絡みつき、互いに潰し合うかのように蠢き始める。女王蜂の攻撃は、触手植物のネットワークそのものを混乱に陥れた。

一方、水中の戦いも激化していた。イクラ持ち鮭たちは、聖蜜が湧き出る泉の入り口へと到達していた。しかし、そこには、触手植物が張り巡らせた、より強固な根の壁が立ちはだかっていた。根は、泉の入り口を完全に封鎖し、鮭たちの遡上を阻む。

鮭たちは、自らの身体を根の壁に打ち付け、突破を試みる。その度に、彼らの鱗は剥がれ落ち、血が水中に拡散していく。しかし、彼らは諦めない。その瞳には、聖蜜への渇望と、子孫へと命を繋ぐという、根源的な使命感が宿っていた。

その時、一匹の巨大な鮭が、根の壁の隙間から、辛うじて泉の中へと滑り込んだ。その鮭は、他の鮭よりも一回り大きく、その腹部には、ひときわ大きく輝くイクラが満ち溢れていた。聖蜜の光が、泉の奥から漏れ出ている。

聖蜜。それは、甘美な蜜であると同時に、この地の根源的な生命力を凝縮したものであった。その力を得た者は、この地の全てを支配する力を得る。しかし、その力は、同時に狂気を孕むものであった。聖蜜は、ただ生命を活性化させるだけでなく、その存在の最も深い部分にある欲望を増幅させるのだ。

女王蜂は、聖蜜の力でその支配欲を増幅させ、触手植物は、その繁殖欲を暴走させた。そして、鮭は、その生命の連鎖を永劫に繋ごうとする、根源的な本能を刺激されていた。

私の意識は、この三つ巴の戦いの中心へと引きずり込まれていく。聖蜜の真実。それは、単なるエネルギー源ではなく、この地の生命そのものの根源であり、同時に、それを巡る争いが、この地の歴史を紡いできたことを示唆していた。

脳裏に、いにしえの文献の断片が浮かび上がる。


「聖蜜は、混沌の母であり、秩序の父である。」


混沌が、今、再びこの地に現れようとしている。

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