表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

第二話:粘液の誘惑と水の記憶

…………ブウウ――――――ンンン――――――ンンンン………………。


粘液の感触が、全身を這い回る。それは、甘美な痺れと、背筋を凍らせるような冷たさの混淆こんこうであった。


触手植物。


その無数の触手が、まるで生き物のように蠢き、蜜蜂の巣の壁を這い上がってくる。緑色の粘液は、触れたもの全てを溶解させるかのように、壁を侵蝕しんしょくしていく。


「我らは、大地の子。この地の全ては、我らの糧となるべき定め。」


幻聴か、あるいは、植物たちの根源的な声か。

粘液の中から、囁きが聞こえる。それは、静かで、しかし確固たる意志を秘めた声であった。

彼女たちは、地底深くから聖蜜の源泉へとその根を伸ばし、その存在そのものを支配しようとしているのだ。

触手の先端からは、毒々しいほどに鮮やかな光が放たれ、蜜蜂たちの目を眩ませる。


女王蜂の護衛である兵隊蜂たちは、必死に抵抗する。鋭い針を突き刺し、毒液を吐き出す。しかし、触手植物の生命力は凄まじい。

一本を切り落とせば、すぐに二本、三本と生え出し、兵隊蜂たちを絡め取る。絡め取られた兵隊蜂たちは、まるで生きながらにしてミイラとなるかのように、みるみるうちにその生命力を吸い取られていく。


その一方で、冷たい水の気配が、より一層鮮明になる。蜜蜂の巣の足元を流れる清流が、不穏な波紋を立てている。水面下から、銀色の鱗を持つ魚影が、次々と姿を現す。


イクラ持ち鮭。


彼らの姿は、まるで水中を漂う幻影のようであり、しかしその眼光は、確固たる決意を宿していた。


「我らは、命の運び手。この地に新たな生を吹き込む者。」


今度は、水の底から、深く、響くような声が聞こえる。それは、鮭たちのいにしえからの記憶、生命の連鎖を繋ぐ使命感からくるものであった。

彼らは、聖蜜が満ちる泉を「生命の源」と呼び、そこに辿り着くことこそが、彼らの存在意義であると信じて疑わない。

無数のイクラを抱えた彼らの腹部は、まるで真珠のネックレスのように輝いている。

鮭たちは、力強く尾鰭おひれを打ち、流れに逆らって遡上していく。

その行く手を阻むのは、触手植物が水中にまで伸ばした根であった。根は、まるで巨大な網のように、鮭たちの行く手を阻む。

しかし、鮭たちは諦めない。その強靭な体で、根を突き破り、あるいは、巧みに避けて、上流へと向かっていく。


蜜蜂たちは、空から。


触手植物は、大地から。


そして鮭は、水から。


三者は、それぞれの領域から、聖蜜を目指して進撃する。それは、この地の自然の摂理そのものを具現化したかのような、壮絶な戦いであった。


私の脳裏には、過去の記憶がフラッシュバックする。それは、この地で幾度となく繰り返されてきた、生命と死の円舞曲。


しかし、今回の戦いは、これまでのいずれとも異なる。より根源的で、より狂気に満ちた、終焉の予感すら孕むものであった。


私は、この狂気の舞台の観客なのか、それとも、この舞台を動かす、見えざる手なのか。

水音は激しさを増し、粘液の匂いは、ますます濃厚になる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ