第3話 波間に潜む影
朝日が昇り、町は静かな活気に包まれている。
佐藤美咲は制服を整え、家を出た。通学路には早朝の澄んだ空気が漂い、道端には色とりどりの花が咲いている。
彼女は学校へ向かう途中で、同じ釣り部の仲間たちと出会う。
「おはよう、美咲!」
彩が元気よく手を振り、美咲は笑顔で応えた。
「おはよう、彩。昨日のテレビ番組見た?あの釣りの特集、すごく面白かったね。」
彩が興奮気味に話し始める。
「うん、見たよ!特にあの大物を釣り上げるシーンが最高だったね。私たちもあんな風に釣れたらいいな。」
咲も後から追いつき、少し照れくさそうに言った。
「おはよう、みんな。今日の放課後、楽しみだね。でも、あの番組みたいにうまくいくかな…」
葵は少し緊張しながらも、楽しみな表情を見せていた。
「おはようございます。私も見ました。釣りのテクニックとか、色々勉強になりました。」
四人は並んで歩きながら、学校へ向かっていった。
朝の光が彼女たちを照らし、日常の風景が一層輝いて見えた。
放課後、釣り部の四人は新しく設置された家具やロッカーが整った部室に集まった。壁には釣り道具が掛けられ、机には釣りの雑誌やノートが広げられている。美咲がホワイトボードに計画を書き始めた。
「今日は何を釣るか決めようか。」
美咲が切り出すと、彩が雑誌を手に取りながら提案した。
「カサゴってどうかな?初心者でも釣りやすいし、美味しいらしいよ。」
彩はページをめくりながら、カサゴの写真を見せた。
赤茶色の魚体にトゲのある姿が特徴的だ。
「カサゴは根魚だから、テトラポッドの周りにたくさんいるって聞いたことがあるわ。」
咲が頷きながら加えた。
「そうね、カサゴなら私たちでも楽しめるわ。狙いやすいし、美味しいしね。」
葵も興味津々で写真を見ながら感想を述べた。
「このカサゴって、見た目がちょっと怖いけど、なんだか魅力的だね。赤茶色でトゲトゲしてて…なんかカッコいい!」
美咲は笑顔で頷いた。
「そうだね。釣り方も比較的シンプルだし、初心者にも向いていると思うよ。」
彩が続けて言った。
「それに、カサゴは美味しい魚だから、釣った後の料理も楽しみだよね。」
咲が少し興奮した様子で言った。
「早く釣りに行きたくなってきたわ。準備をしっかりしておけば、きっと大丈夫よ。」
全員一致でカサゴを釣ることに決まった。
美咲はホワイトボードに図を描きながら釣り方と道具の説明を始めた。
「カサゴを釣るには、ブラクリという仕掛けを使うのが一般的だよ。ブラクリはシンプルで初心者向けの仕掛けなんだ。まず、ブラクリに青イソメを付けて、テトラポッドの隙間に落とすだけ。」
美咲はブラクリを指し示しながら説明を続けた。
ブラクリは小さな鉛の重りに針が付いたシンプルな仕掛けで、海底に沈めて待つスタイルだ。
「ブラクリは海底に沈んで、そこでじっと待つ感じ。カサゴは隠れているところから出てきて餌に食いつくんだ。」
彩が補足した。
「ブラクリの針に青イソメをしっかりと付けることが大事よ。餌がしっかり固定されていないと、カサゴがすぐに餌を取ってしまうからね。」
咲が頷きながら、実際に釣り具の準備を進める様子を見守った。
話し合いの後、四人は学校の近くにある小さな釣具屋さんに向かった。店内には所狭しと釣り道具が並び、店主が笑顔で迎えてくれた。
「こんにちは、今日は何を探しているのかな?」
美咲が答えた。
「ブラクリと青イソメをお願いします。」
店主はすぐに必要な道具を取り出し、四人に手渡した。
「ブラクリはこのサイズがいいよ。青イソメも新鮮なのを選んでおいたから。」
店主は冷蔵庫から青イソメの容器を取り出し、四人に見せた。
中には活きの良い青イソメがうごめいている。
葵は青イソメを見た瞬間、顔を真っ青にし、目を見開いた。
「う…うわっ、これって…」
葵は青イソメの姿に驚きすぎて、目が回り始め、ついには意識を失ってしまった。
美咲と彩が慌てて葵を支え、そっと座らせた。
「葵、しっかりして!」
咲も驚きながら手を貸し、葵の意識を取り戻そうと努力した。
数分後、葵は徐々に意識を取り戻し、恥ずかしそうに周りを見た。
「ごめんなさい…青イソメが、ちょっと…怖くて…」
咲が優しく声をかけた。
「大丈夫よ、無理しないで。少し休んでからまた挑戦しよう。」
釣具屋で道具を揃えた後、四人は近くの堤防にあるテトラポッドへ向かった。
釣り場に到着すると、それぞれが釣りの準備を始めた。
波が穏やかで、絶好の釣り日和だ。
美咲と彩は手際よく青イソメをブラクリの針に付けていくが、葵は少し心配しながらも、再度挑戦することにした。
「葵、できるだけ頑張ってね。ここでは少しの勇気が大事よ。」
咲が励ましながら、葵が青イソメをブラクリの針に付ける様子を見守った。
最初は手が震えたが、葵は一生懸命に挑戦した。
「できた…かな?」
葵がようやく青イソメを針に付け、釣りを開始。しばらくすると、彩の竿に強い引きが伝わった。
「来たかも!」
彩は慎重に糸を巻き取り、見事なカサゴを釣り上げた。
赤茶色の体が夕日に照らされてキラキラと輝いている。
「見て、これがカサゴよ!」
続いて咲も次々とカサゴを釣り上げ、合計で20センチほどのカサゴが4匹釣れた。
「なかなかの収穫ね。」
咲は自信満々に言い、魚をバケツに入れた。
葵も再び竿を手にし、気を取り直して釣りに挑戦。
強い引きが伝わり、慎重に巻き上げた結果、30センチの巨大カサゴを釣り上げた。
「やったー!こんなに大きいの初めて!」
全員が拍手して喜んだ。
釣りを終えて帰宅した四人は、釣ったカサゴを調理することにした。
キッチンに立つ美咲が指示を出す。
「20センチのカサゴは唐揚げにしよう。大きいカサゴは甘酢あんかけにしてみない?」
全員が同意し、それぞれ役割分担して調理を始めた。
彩が魚を捌き、内臓を取り除いてきれいに洗った。
咲が唐揚げの準備を進める。
「まずは魚に塩を振って、水気を切ってから片栗粉をまぶすのよ。」
咲は手際よく魚に片栗粉をまぶし、油を熱したフライパンに入れて揚げ始めた。
葵は大きなカサゴを丁寧に揚げていく。
「葵、いい感じに揚がってるよ!」
美咲が甘酢あんの準備をし、酢、砂糖、醤油を混ぜてソースを作った。
揚がったカサゴにソースをかけて完成。
「できた!いただきます!」
四人は釣ったカサゴの唐揚げと甘酢あんかけを美味しそうに食べた。
唐揚げは外はカリカリ、中はふっくらとした食感。
甘酢あんかけはカサゴの旨味を引き立て、絶妙なバランスだった。
「自分たちで釣った魚って、格別に美味しいね!」
彩が嬉しそうに言い、他の三人も笑顔で頷いた。
「次の釣りも楽しみだね!」
こうして、釣り部のメンバーは釣りの楽しさと共に、美味しい食事を共有し、絆を深めていった。