表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

甘い香りに包まれて

作者: 白鷺雪華

今日は10月31日

世間一般で「ハロウィン」と呼ばれる日である。

どこかの地では仮装した大勢の人間が、

群がってバカ騒ぎをするという話も聞くが、

他人と群れるのが何より嫌いな私にとっては

普段と変わらない日常の一コマである。


「う〜〜〜ん」

私は布団の中で大きく、

ゆっくりと伸びをする。

「昨日も怒涛の一日だったな〜」

そう言って昨日の事を振り返る。

「外国や団体のお客様が

 ひっきりなしに来られて、

 調理場も戦場と化してたし」

「しっかし、まさかタイミーで応募して

 勤務した店舗でスカウトされて、

 正式に入社するとは思わなかったしな〜」

「まぁ、雰囲気はいいし、

 スタッフの方もいい人だし

 自分に合ってるかな」

そう言って布団から起き上がる。

「さ〜〜て、

 今日は家の仕事片付けるか〜」

そして普段通りにシャワーを浴びて、

歯磨きの後にお風呂掃除。

洗濯物を洗濯機に放り込んで、

スイッチを入れて洗濯機を回す。

洗濯機を回している間に

シンクの汚れを激落ちくんで落としていく。

「勤務の日は閉店まで仕事だから、

 なかなかお掃除ができないんだよね〜」

「だからこういうできる日に

 一気に終わらせておくのさ~」

私はシンクの汚れやコンロ周りの汚れも

まとめてお掃除していく。

「この後にお買い物行って料理作るんだけど、

 やっぱり綺麗なキッチンで作りたいよね〜」

うんうんと頷き、洗濯物を干していく。

最後は掃除機で床周りを綺麗にしていく。

「よ〜し、一通りは終わったかな」

部屋を見渡して出来栄えに満足すると、

買い物に行くための準備を進める。

「財布に鍵にエコバッグっと……」

「すぐ近くだし、スマホは持っていかない」

私は最低限の準備を済ませると、

普段使いのスーパーへと向かった。


スーパー店内

私は真っ直ぐに青果売り場へと向かう。

「まずはかぼちゃ〜」

「ハロウィンとかは関係なく、

 毎回使う主菜だからね〜」

かぼちゃの売り場の前で立ち止まる。

「う〜ん」

「いくつか種類があるね〜

 日本の農家さんが作ったものと、

 外国産のかぼちゃにオーガニック……」

「安いのは外国産だけど、

 応援の意味も込めて農家さんのかな」

「地産地消とはいかないけど、

 やっぱり国内生産の野菜を選ぶね」

農家さんのかぼちゃを一つかごに入れる。

「次の野菜は〜と……」

「お! 小松菜がセールしてるね」

「かぼちゃに小松菜は相性がいいからね」

「どれがいいかな……」

次は良い小松菜の見分け方を

勉強してこようと一つの学びを得て、

自分がいいと思ったものをかごに入れる。

「そしてもちろん、人参と玉ねぎ」

「バラ売りしてるのが助かるね〜」

「袋入りはお得に感じるかもしれないけど、

 一人暮らしだと日にちが経って

 傷んじゃうことがあるからね」

「それに私の場合、一度に作って

 何日かに分けて食べるから

 バラ売りがちょうどいいんだよね」

そう思い笑みを浮かべる。

「さて、次は卵」

卵売り場へと向かい足を止める。

「う〜ん 高級というのか餌が違うのか、

 値段が倍くらい違うのがあるね〜」

「それに色も白と赤茶色と違う」

「なにがどう違うのかは帰ってから

 調べるとして今は……」

6個入りの白い卵を選びかごに入れる。

「4個入りのもあるけど明日も使うから

 6個入りがちょうどいいんだよね〜」

「じゃ次は麺ね」

そして乾麺などの売り場へと向かう。

「ラーメン、うどんに蕎麦……」

「どれも合うとは思うんだけど、

 にしんやお揚げがあるから蕎麦ね」

「蕎麦一つとってもいろいろあるね〜」

「5割に8割と調理法によっても

 変わるんだろうね〜」

「まぁ、今日作る料理にそういうのは

 いいと思うからね」

「それより私が重要視しているのは……」

「その商品に一体なにが使われているのか」

裏の表示を一つずつ確認しながら、

原材料が小麦粉とそば粉のみの蕎麦に決める。

「添加物って保存や食中毒防止とかに

 必要だから入ってるんだろうけど、

 私はできるだけ摂らないようにしてる」

「サプリとかの薬物やピザやバーガーとかの

 薬物まみれの超加工食品なんか

 私にも地球にも必要ないからね」

うんうんと頷きながらお酒売り場へと向かう。

ワイン売り場の前で足を止める。

「うんうん 無添加赤ワイン一択だね」

「辛口に甘口……

 その時の気分によって変えてるんだけど、

 どっちかって言うと私は

 辛口が好きだから辛口にする」

酸化防止剤無添加赤ワインをかごに入れる。

「味噌に出汁にキムチはあるし……」

「よし! 買い物は終わりかな」

気分良くセルフレジで精算を済ませて、

ポイントもしっかり獲得して家路に向かう。


帰宅後……

購入した食材を冷蔵庫に入れて、

お茶を入れて一息つく。

「ふぅ……」

「やっぱりお買い物は楽しいね〜」

「飲食店で勤務するようになってから、

 食材を見る目や意識が変わったね」

「なるべく無添加を選ぶのは前からだけど、

 産地や生産者、食材の状態などを

 自分の目で確認して自分が納得できる

 ものだけを選ぶクセがついたね」

お茶を一口飲む。

「それに選んで購入したもの以外でも

 どんな商品があるのか、

 どんな食材と合わせたら良くなるのか、

 どう調理したら良くなるのか

 考えるだけで楽しいね〜」

「作った料理を食べて味わって、

 次はこうしたら良くなるかな、

 この食材と合うんじゃないかなって

 イメージを広げて頭で組み合わせて

 新しいアイディアを産んでいくのも

 私の人生の楽しみであり喜びなんだ〜」

「あくまでも自炊の範囲だけど、

 世界に自炊の良さや楽しさを

 広げていけたら世の中もっと

 良くなるかもしれないね」

「外食は家で作れないその店でしか

 味わえない料理を楽しめるけど、

 食材や調味料、調理法などは

 自分で選んで決めることができない」

「その点、自炊なら使う食材も調味料も

 調理法も分量も全て自分の好きに

 決められるからね〜」

「それに作り置きもできて、

 アレンジや工夫も好きに自由自在」

「あ〜 早く作りたいな〜」

「まぁ、作るのは夜だから、

 それまで食材について勉強しておくか!」

「まず最初は小松菜と卵から……」

そう言ってPCを立ち上げる。


「小松菜は……

 葉の緑色が濃く鮮やかで葉そのものが肉厚

 みずみずしくピンと張っているもの、

 茎が太くしっかりしているもの……か」

「やっぱり色が濃くて大きくて

 肉厚なものがいいのか……」

「今日買ったのはどうだったかな?

 なるべく濃くて大きいのを選んだけどな」


「そして卵は……

 卵の殻の色は鶏の種類で決まるのか。

 白色たまごが白色レグホンなどの白玉鶏

 赤色たまごがロードアイランドレッド

 などの赤玉鶏

 ピンクたまごが白玉鶏と赤玉鶏を

 掛け合わせた鶏種」

「ピンク色の卵もあるんだ。

 牧場物語で金の卵はあるけどな」

「それに、同じエサを食べた場合、

 鶏種による栄養価の差はほとんどないか」

「それじゃ選ぶときに殻の色は

 意識しなくていいか」

「問題は中身だよね

 これは購入して割ってみないと分からない」

「鮮度の良い卵は卵黄が

 こんもり盛り上がり指でつまめる。

 反対に、卵黄が平べったく卵白が

 大きく広がるものは鮮度の悪い卵か……」

「食塩水に浮かべるなんてのもあるけど、

 そんなことはいいか」

「指でつまむか……

 映像では見たことあるけど

 実際にやったことはないな」

「産みたての卵ならつまめるかもしれないな」

「今日買った白色の卵はどうだろう?

 もしかしたらつまめるかも?」

そんなことを思いながら「フフ」と笑う。


「人参に玉ねぎに蕎麦も調べてみるか」

「蕎麦は加工品だからややこしいかもね。

 なになに……蕎麦とそばですでに違うんだ」


「う〜〜ん!」

PCから顔を上げて大きく伸びをする。

食材の違いや見分け方を調べていくと

面白く、こう調理したらいいんじゃないか?

など新しいアイディアが産まれて

この先のお買い物がますます

楽しくなっていく予感がしている。

それに将来独立して開業もしくは

起業する際にも大いに役立つことだろう。

明るい気持ちで「フフ」と笑う。

スマホを見ると19時を過ぎていた。

「よし! 作るか!」

私はPCを閉じるとキッチンへと向かう。


シンクの上にまな板と包丁をセットして、

今日購入した野菜をカットしていく。

「かぼちゃは種を取って一口大に切っていく」

「小松菜人参玉ねぎも同じ様に

 一口大に切っていく」

「切った野菜を鍋に入れて火をかけて炒める」

「野菜に塩を加えてさらに炒める」

「炒めることで水っぽくならずにコクも増して

 1段階上の仕上がりになるんだよね〜」

「鍋に水を加えて出汁と卵を割り入れる」

「蓋をして沸騰するまで煮込む」

煮込んでいる間に包丁やまな板を洗って

片付けてから、グラスや食器でテーブルを

セッティングしていく。

「沸騰したら火を止めて蕎麦を加えて煮込む」

「煮込んだら火を止めて味噌をとき入れる」

「沸騰してる状態で味噌を入れちゃうと

 栄養素が損なわれるからね」

「火を止めて10分くらい落ち着かせてから

 味噌を入れるようにしてる」

「よし! できた!」

今日のメインディッシュの完成である。


大きめのお椀に味噌汁と蕎麦を入れて、

その上にお揚げをのせる。

明日はにしんをのせる予定である。

グラスに赤ワインをついで、

キムチを用意すれば宴の準備が完了する。


ちなみに私は一日一食を心がけているので、

これが本日最初で最後の食事である。


「いただきます!」

私は手をあわせて食前の感謝を述べる。

まずは水で口と喉を潤してから、

赤ワインを一口口に含む。

「あ〜いいね〜」

「週1ぐらいで飲んでるけど

 ぶどうの香りと風味が全体に広がるね〜」

「それに酸化防止剤無添加だからか、

 余計なものがないぶどう本来の味わいかな」

「まぁ、ワインによっては

 何十年も寝かさないと飲み頃に

 ならないのもあるみたいだし」

「そのために酸化防止剤が必要なのは分かる」

「だがしかし、それでも私は無添加を選ぶ」

「まぁ、それが自分に合ってるからね」

「フフ」と笑いかぼちゃを口に運ぶ。

「ん〜〜 ほくほくした甘さが広がる」

「それに煮込んでるから皮まで柔らかい」

「やっぱり産地や農家さんによって

 全く味も香りも違ってくるね」

「味噌の濃さと甘さにもマッチしてる」

「私が選んでる味噌も大豆米塩のみの

 無添加味噌だからね」

「まぁ、出汁は市販品だから

 そうはいかないけど……」

そう言って蕎麦をすする。

「うんうん、蕎麦もコシや香りが素晴らしい」

「うどんやラーメンは味噌煮込みがあるのに

 蕎麦は聞かないね」

「あるとこにはあるんだろうけど、

 わざわざ食べにいこうとは思わない」

「こうして家で作って食べられるからね」

「それにやっぱり味噌汁には

 玉ねぎが必須なんだよね!」

「甘さが加わるのはもちろん、

 食感もよくなるし血行もよくなるらしい」

「かぼちゃは味噌汁や蕎麦にはあわない

 なんてことも聞くけど、本当にそうかな?」

「実際に作って食べてみないと

 分からないんだよね」

「そもそもあわないとは?」

「感じた味は個人にしか分からない」

「同じ料理でも感じ方はそれぞれ」

「全く同じ味を共有することはできない」

「現に私はすっごく美味であうと感じる」

「私があうと感じるならそれが私の中の正解」

うんうんと自分の考えに納得する。

「蕎麦とお揚げもさすがにバッチリだよね〜」

「味噌が全体をまとめてるから

 どの食材も一つに調和している」

赤ワインを口に含む。

「メインが甘い系統だから

 辛口ワインにして正解かもね」

「甘口ワインなら違う世界が広がったかも」

「それはまた明日のお楽しみにしておこう」

私はお椀に視線を落とす。

「この料理もう一つの主役である、

 丸ごと煮込んだ卵」

「白身に包まれた黄身は半熟とは言えないが

 決して硬くはない」

「おでんの卵のように箸で切れる柔らかさで

 黄身と白身が味噌にからみあう」

卵のみを掴んで口に運ぶ。

「ふっふっふ 白身のたんぱくさと

 黄身の濃い味わいがお互いを引き立てる」

「味噌と絡んで煮卵とはまた違う味わい」

「卵本来の旨味を余すことなく味わえるから

 味噌汁作る時は毎回丸ごと割り入れてる」

「これが私の中で卵の調理法の正解の一つ」

「溶き卵にすると容器に卵が残って

 もったいないんだよね〜」

時折キムチを挟みながら

今日の出来事を振り返っていく。

「ふぅ〜〜 今日は久しぶりに

 ゆっくり過ごしたな〜」

「掃除や洗濯も終わらせたし、

 新しいアイディアも産まれたしね」

食材の違いや見分け方を調べた後は

それらをメモ帳にまとめて記載している。

そしてこれまで自炊で作って、

お気に入りの料理はレシピ帳として

別のメモ帳に記載している。

「ハロウィンなんて言っても

 私には関係ないけどかぼちゃ料理はいいね」

「次はサラダもいいね

 じゃがいもと卵も使ってね」

「その場合味噌汁はどうしようかな?

 白菜とキノコ……小松菜にさつまいも……」

新しく作る料理をイメージしながら、

私は赤ワインを口に含む。


秋の収穫を祝う意味を持つこの日の夜は

まだ始まったばかりである……


数十年後の10月31日

この日も私はかぼちゃの味噌汁と蕎麦を、

無添加赤ワインとともに味わっていた。

私が食事を楽しんでいるテーブルの向こうで

父と母が笑っている気がして、

ワイングラスをそっと前に傾けた……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ