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初恋

「これはこれは、よくおいで下さいました」

 先日あったばかりだというのに、もう何年も会っていない古い友人でもあるかのように、満面の笑みで両手を広げ、交互に二人に抱き着いては、

「ようこそおいでくださいました」

と何度も言った。ピュテアスは二人を客人用の椅子に座らせ、家人に上等な飲み物を持ってこさせた。

「ニーケーは、あなたの娘でしょうか」

 飲み物を一口すすったプブリウスは、早速聞いてみた。ピュテアスは一瞬何のことかわからなったようだが、すぐに目じりに皺を寄せて何度も頷きながら、

「なるほど、なるほど、全くもってお目が高い。あの娘に目を付けられるとは、これはこれは、油断ならない方だ。ニーケーは私の実の娘ではありませんが、養女です。あれはよく気が利く娘で、才覚があり、意志の強さも持ち合わせています。容姿端麗と申しましょうか、貧しい生まれですがなかなかの娘なので、奴隷の身分から解放して養女にしました。私には実の娘が二人いますがね、それでも娘にしたい、奴隷として一生を終わらせるのはおしいと思ったのですよ。将来の執政官になられるお方に目をつけてもらえるとは、これは私にとってもニーケーにとっても、ありがたいお話ですね」

 ピュテアスはそう言って、大きな声で笑った。

「用件が済めば、ニーケーを紹介しましょう」

 プブリウスの胸は高鳴った。こんな気持ちは初めてだった。これがプブリウスの初恋であった。

「まあ、お楽しみはとっておきましょう。早速のご来訪です。何か困ったことでも。この私が力になれそうなことがありましたか」

 浮かれていることにはっとしたプブリウスは、真面目な顔になって軽く頭を下げ、任務が思うように進みそうにないことを打ち明けた。

「苦い経験をしたようですが、思い返せばよい経験だったと思える時がきっとくると思いますよ」

 昨日の出来事を一気に口から吐き出した青年らをじっと見守っていたピュテアスは、そう言ってにこりと笑った。プブリウスにとってそれは決して嫌味には感じられず、彼の言葉をそのまま素直に受け入れることができた。

 魅力的な人だ。プブリウスは知り合ってまだ間もないこのグラエキア商人に自分が強く惹かれているのを感じていた。誠実さと包容力、それに優れた頭脳を兼備している。まだ生まれてから十七年のことだが、こうした人物は少ないように感じた。ピュテアスと出会えたことは幸運であり、プブリウスは密かに神に感謝したのだった。もちろん、ニーケーと出会えたことも、ピュテアスとの出会いに起因している。

「どうかマッシリアを御嫌いにならないでください。新参者にはちと厳しいところはございますが、この町にも多分によいところがあるのは、ご存じでしょう。さあ、さあ、気分を上げていきましょう。それにお忘れでしょうか。この町にはあなたたちのすばらしい友達が一人いることを」

 そういってピュテアスはおどけて見せた。その友達とは、もちろんピュテアスである。そして、二人の青年がうっすらと笑みを浮かべたのを見て、その下がった目じりをいっそう下げながら、

「まだお伝えできるほどの量ではありませんがね、私も方々に耳を傾けましたよ。ハンニバルのこと、私が知ったことをお伝えしましょう。それで少しは元気がでるでしょう」

 と言って、カルタゴの将軍ハンニバルについて話し始めた。


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