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婚約破棄され、廃城へ  作者: 三羽高明
前編 婚約破棄され、廃城へ
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幽霊が仲間になりました!(2/2)

「いい眺めだろう?」


 急に声が聞こえてきて、私は飛び上がって驚いた。


 とっさに後ろを振り向く。でも、誰もいない。


「オ、オリー?」


 私は声を震わせる。無理に笑おうとしたせいで、顔が引きつるのが分かった。


「びっくりするじゃん。急に声かけないでよ。どこにいるの? 早く出てきて!」

「ボクはオリーじゃない」


 声が答えた。私は二の腕を抱きしめる。


 本当は、自分が会話している相手がオリーではないことくらい分かっていた。だって、これは彼の声じゃないもの。


 少しハスキーで澄んだ声色。昨日聞いたのと同じものだった。


「あ、あなた誰?」


 私は香水の瓶を握りしめ、勇気を出して声の主に話しかけた。


「オリーはここには亡霊なんかいないって言ってた。だったら、あなたは何なの?」


「ボク? そうだな……パーシモンと呼んでくれ。後、オリーは間違っている。ボクはずっとここに住んでいるのだから」


「やっぱりお化けなんだ……」


 私は愕然となった。


「どうしてオリーは嘘吐いたんだろう……? 本当はここは幽霊城だったのに……」

「オリーは嘘吐きなんかじゃない。彼にはボクの声は聞こえないんだ」


 声の主……パーシモンはオリーを嘘吐き呼ばわりされて憤っているようだった。私は「そ、そう……」と少したじろぐ。


「妖精って不思議な力はあるけど、お化けの声は聞こえないんだね。でも、どうして私はあなたの言ってることが分かるんだろう?」


「さあな。君が変わってるからじゃないのか?」


「そんなことないよ。私は普通だよ」


「普通なものか。妖精が見えてる時点で、充分に変わってるぞ」


「それは……否定しないけど」


 小さな声で返事しつつも、妙な気分になる。お化けは大の苦手だったはずなのに、こうして何でもないように話してるなんて何だかおかしかった。


 これもオリーが香水にかけてくれた魔法のお陰かな?


「パーシモンだよね? 私に『この城の在りし日の姿をもう一度取り戻してくれるか?』って言ったの」


「ああ、そうだ」


「何であんなこと頼んだの? それに、『この城の在りし日の姿』って?」


「ここは昔、賑やかで楽しい、楽園みたいな場所だったんだ」


 パーシモンが遣る瀬なさそうに言う。


「メアリアナ城は奇跡が起きるところ。不可能を可能にする場所。でも、今は荒れるに任せている。それがどうもやりきれなくてな」


「安心して。私、このお城を生まれ変わらせることに決めたから。……まあ、あなたのためじゃなくて私のためなんだけど」


「目的なんて何だっていい。ボクは城が昔のようになればそれで満足だ。手伝えることがあるなら、遠慮なく言ってくれ。もっとも、ボクにできることなんてたかが知れているが」


「うーんと……。それじゃあ、オリーがこの部屋に入っちゃダメって言ってた理由、分かる?」


 亡霊の協力者ができるなんて思ってもみなかった。でも、この際利用できるものは何でもしてしまおう。


「後、お庭の木立にも。オリーの様子が変だったから、訳を知りたいの」

「それは……多分、オリーにとって悲しい場所だから」


 パーシモンが静かに返す。


「ここはメアリアナの居室だった。この部屋でメアリアナは死を迎えたんだ。その後、遺言に従って遺体は木立に埋葬された。オリーにとって、円塔の最上階と木立は母の死を連想させる場所。だから近づきたくないし、他の人にも入って欲しくないのかもしれない」


「そうだったんだ……」


 この部屋で人が亡くなったと聞いても、あまり不気味な感じはしなかった。百年も前の話だからだろうか。ただ、オリーのことを思うと胸が痛んだ。


「私もお母様を亡くしてるから、オリーの気持ちは分かる気がするよ。オリーはメアリアナ王女に育てられたんだよね? パーシモンは王女のことも知ってるの?」


「まあな」


 どうやら彼は結構前からこの城に住み着いているらしい。オリーたちは自分でも気付かない内に幽霊と同居していたんだ。


「メアリアナのことより、今はオリーやこの城についての方が大事じゃないか? 君は色々と理解しておかなければならないことがあると思うよ」


「うん、そうかも」


 この部屋のことだって、パーシモンに聞くまでは何にも知らなかったんだ。ここに住む以上、元々の住民であるオリーやメアリアナ城そのものについて、もっと把握しておくべきというのは頷ける話だった。


「オリーってミステリアスっていうか神秘的な雰囲気だし、このお城も普通とはちょっと違った場所だからさ。秘密とかたくさんありそうだよね」


「……それは君も同じじゃないか?」


「私? 私に秘密なんてないよ」


「そんなことはない。こういうことにかけては、ボクは少しばかり勘が働く。君は自分で思っている以上に特別なんだよ」


「特別……」


 私は前髪の上から顔のアザに触れる。この人もお父様と同じことを言うんだな、と思った。


「私、もう少しオリーと話をしてくるね。あなたと知り合えてよかった、パーシモン。またお喋りできる?」


「ああ。ボクもこの城の住民と呼んで差し支えない存在だ。姿は見えなくても、ちゃんとここにいる」


 挨拶を交わし、私は部屋の外に出る。踊るような足取りで階段を駆け下りた。


 まさか幽霊の知人……それも協力者ができるなんて思ってもみなかった。多分こんなこと、何日か前の私に言ったって信じないだろう。幽霊と話? そんなの不可能に決まってる! って返されるのがオチだ。


 でも、私は不可能を可能にした。香水の瓶を握りしめる。大丈夫。今の私なら、何だってできるはずだ。

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