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あるべきものが、あるべきところへ(2/3)

「どうしてだよ……」


 パーシモンは少し首をうつむけた。紫のオーラが段々と薄くなっていく。


「この百年間……ボクに救いなんて訪れなかったのに。なのに、どうして君の言葉一つで、こんなにも心が軽くなってしまうんだ?」


「それはね、多分、私とあなたが似たもの同士だから」


 彼女の疑問を、私は柔らかに受け止める。


「パーシモンはフェアリー・アイに『助けて』と願ったんでしょう? だから私が現われた。あなたと同じで、最初は自分の可能性を信じ切れていなかった私が。それでも、ついには自分の内側にある希望をつかみ取れた私が。あなたとそっくりの私が変われたんだもの。あなただって、同じことができるはず。パーシモンは無意識の内にそう思ったんだよ」


 私たちは見た目も境遇もまるで違う。でも、根っこのところでは繋がっていたんだ。


「パーシモンの声が私にだけ聞こえたのは、そのためだったんじゃないかな? あなたを救えるのは私しかいないってことだったんだよ」


「皆フェアリー・アイの導きだっていうのか? ボクが宝石に願ったのは、もう百年も前の話なのに。……その前に、君は半妖精なんだろう? だったらフェアリー・アイの力は効かないはずじゃないか」


「昔のお願いだから叶わないって思ってるの? それに、宝石の魔力が通じないからってこの出会いには何の意味もないと? もう忘れちゃった? 大事なのは……」


「信じる心、か」


 パーシモンがかすかに笑った。


「そうだな。強く願い続ければどんなに昔の願いだって叶うし、ボクたちの邂逅にはフェアリー・アイとは別の運命的な力が働いていたのかもしれない。……いや、ボク自身が君を引き寄せたのかも。……ありがとう、コンスタンツェ。ボクを救ってくれて。幽霊だから未来も希望もないなんて、もうそんな風には思わない。ボクも必ず幸せになってみせるよ」


 パーシモンのオーラからますます色が抜け落ちていく。私は不意に悟った。彼女の魂が地上から離れていこうとしているのだ、と。


「お別れだね、パーシモン」

「しばらくの間は、ね」


 彼女はほとんど透明になりかけていた。その声も、段々と小さくなっていく。


 突如、背後から大声が聞こえてきた。


「母さん!」


 オリーだった。羽を顕現させ、木々の間を全力で飛んでいる。私は呆気にとられた。


「オリー!? どうやってここに……」


「コンスタンツェがシャベルを抱えて、木立に入っていったって聞いて……。……ねえ、母さん! 母さんなんだよね!?」


 パーシモンはもうほとんど見えなくなりかけている。オリーはもう一度、「母さん!」と叫んだ。


「待ってよ! どこへ行くの!? 僕は……僕は……!」


「オリー、今までごめん。君の目を奪うなんて、ボクは許されないことをしてしまった」


「母さん!? 何か喋ってるの!?」


 あ、そうか! オーラのお陰でオリーにはパーシモンの口が動くのは見えても、話してる内容までは聞こえないんだ!


 私は急いで、「目を奪ってごめんね、って言ってるよ!」と通訳した。


「僕はそんなの気にしてないよ! 使って欲しくはなかったけど、あれは母さんにあげるって決めたんだから!」


「君は優しいな、オリー」


 パーシモンは慈愛のこもった笑みを見せる。母親が愛息子を見守るのに相応しい笑顔だ。


「フェアリー・アイは返そう。……君の幸せを祈っているよ。ボクはもう行かなきゃならない。それでも……きっと……」


「母さん、何て言ってるの!? ……コンスタンツェ!」


「フェアリー・アイはあなたに返す、って。それで、幸せになってね、だって。後は……ごめんね。私にも分からない」


 パーシモンの存在が希薄になりすぎていて、声が拾えなかったのだ。


 煙が消えるように、紫のオーラが跡形もなく消滅した。百年越しに願いが叶ったことで、パーシモンは昇天したのだ。


「母さん……」


 肩で息をしながら、オリーが地面に降り立った。彼は空を見上げる。


 やっと再会できたけれど、その時間はほんのわずかだった。オリーの横顔には影がある。すぐ傍にいたのに、今まで母親と会おうとしなかったことを後悔しているのかもしれない。


 でも、それと同時にどこか満足しているようにも見えた。


 きっと、最後に見せたパーシモンの笑顔が穏やかなものだったからだろう。母の魂は救われたのだと、オリーにも分かったのだ。

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