もう片方のフェアリー・アイを見つけました(1/1)
ばあやに用意してもらったシャベルを片手に、向かった先は庭園の最奥にある木立だった。
美しい木々の間をしばらく歩くと、目的地が見えてくる。
人工的に作られた、開けた空間。その中心部に刺さる、一本の錆びた剣。
オリーからは何も聞いていない。けれど、私は察していた。
ここはメアリアナ王女の……パーシモンのお墓だ。
剣を引き抜き、その下の盛り上がった地面にシャベルの切っ先を当てる。そして、土を掘り返し始めた。
夏の盛りだったから、少し体を動かしただけで汗だくになってしまう。でも、穴を掘る手は止めなかった。
不意に、どこからか視線を感じたような気がした。
「……いるんでしょ、パーシモン」
穴を掘りながら姿の見えない友人に話しかける。
「出てくれば?」
パーシモンは何も言わない。私は小声で呟いた。
「【色に出でよ】」
術が効いてくると、思った通りパーシモンが現われた。
予想外だったのは、彼女のオーラが灰色をしていたことだ。不安を表す色。パーシモンはことの成り行きを気がかりに思っているようである。
「ボクの墓を暴いてどうしようっていうんだ」
パーシモンが抑揚のない声で聞く。やっぱり彼女はここに埋葬されていたんだ。
「フェアリー・アイを取り戻すの」
「……」
「ここにあるんでしょう?」
シャベルの先がカツン、と固いものに当たる感触がした。大急ぎで周りの土を取り払いにかかる。
それから何十時間も経った気がした。体中から汗が噴き出し、手が痛くなってくる。それでも諦めずに作業を続け、パーシモンも黙ってその様子を見ていた。
やっと一段落がついて、額の汗を拭った。
土中から現われたのは、古びた棺だ。
穴は大して深くなかったから、立ったまま棺の蓋の隙間にシャベルの先を差し入れる。思ったより軽い素材でできていたようで、蓋はあっさりと開いてくれた。
粗末な棺の素材と、釘打ちもしていない蓋、他の王族たちと離れた場所にある墓地。
オリーに反対されてあっさり引き下がるくらいだから、検死を担当した医師を含む当時の人は、パーシモンの死因を熱心に調べようともしなかったのだろう。王女なのに扱いが雑すぎじゃない?
棺の中には骨が納められている。それから、すっかり朽ちてしまった、元は白かったと思われる薄汚れた布も入っていた。パーシモンは死んだ時の姿で……花嫁装束のままで葬られたらしい。
骨の中に埋もれるように、赤紫の宝石が落ちている。注意深く拾い上げた。見間違いようもない。フェアリー・アイだ。
「死んだ時、あなたはフェアリー・アイを持ってたんだね」
私はパーシモンに向き直る。
「フェアリー・アイを飲み込んだんでしょう?」
もしパーシモンの体が解剖されていれば、医師の手によってフェアリー・アイは発見されていただろう。
けれど、オリーがそれを拒んだ。そして彼は、母親の亡骸を暴こうだなんて思いもしなかった。
だからオリーのフェアリー・アイは、百年間もずっと埋もれたままになっていたんだ。彼の母親が眠る、冷たい土の中に。