手がかりを求め、夢の世界へ(2/3)
入室した途端に、部屋の奥のベッドからオリーの声が聞こえてくる。
「待って、待ってよ!」
その切羽詰まったような声色にただならぬものを感じて、私は慌ててベッドに横たわるオリーのもとへ駆け寄った。シーツがしわくちゃに乱れ、その中心にいるオリーは意味の取れない言葉を時折口走っている。
「それだよ……だって……ああ、ああ! そんなまさか……! ……っ!」
どうやらオリーは悪夢を見ているらしい。いかにも苦しげな表情だ。起こしてあげた方がいいかな?
「止まって、お願いだよ、母さん!」
私はオリーの肩を揺さぶろうとしていた手を止めた。今、「母さん」って言った?
「僕の目……。フェアリー・アイ……。母さんっ……!」
漏れ聞こえてくる言葉の数々に息を呑む。もしかして今、オリーはパーシモンが彼のフェアリー・アイを奪った瞬間の夢を見ているの?
「どうしよう……」
これは真相を知るまたとない機会だ。でも、オリーの夢を覗き見する方法なんて……。
……いや、あるかもしれない。
ネグリジェのポケットに入れっぱなしになっていたニゲラの花を取り出した。
ちょっとひしゃげているけれど、ここにはオリーの魔法が付与されている。これを使えば上手くいくかもしれない。オリーとパーシモンの夢に私も入れるかもしれないんだ。
ベッド脇の床に横になった。だけど、心臓がドキドキとうるさくてとてもじゃないけど寝られそうもない。
じれったくなって、ガバッと跳ね起きた。
安眠効果のカモミールティー! また飲んでこないと! 急がなきゃ、オリーの夢が終わっちゃう!
オリーを起こさないように、早足ながらもできるだけ静かに退室した。
そして、廊下に出た途端に脇目も振らず食堂まで疾走する。
そんな私に、道中たまたますれ違ったクインが声をかけてきた。
「スズランの姉ちゃん? どうしたんだよ、そんなヤバそうな顔して」
「私、寝ないといけないの!」
もう! 急いでる時に限って! こんなところで油売ってないで、クインもさっさと寝なよ!
私はその場で足踏みする。
「オリーの夢に入りたいんだよ! だから、カモミールティーを飲みに行くの! それで、強制的に睡眠を取るの!」
「なんかよく分かんねえけど……。どうしても眠りたいなら、お茶より睡眠薬とかの方がよくねえ? それか……」
クインは廊下に飾ってある花瓶を指差した。
「あれで頭を殴って気絶するとかな」
「それだ!」
クインは冗談で言ったようだけど、私は満面の笑みを浮かべた。
お茶や薬なら効くまでに時間がかかってしまうかもしれないけど、この方法なら一発で眠れるじゃん! クインってやっぱり冴えてる!
「クイン、やって! 私の頭を花瓶で殴って!」
「……え、マジで言ってんの?」
「もちろん! ガツンとやって! ……あ、死なない程度の力でね」
「でもなあ……」
「早く!」
私の声に切羽詰まったものを感じたのか、クインは仕方なさそうに「分かったよ」と言った。
「でも、花瓶は使わねえ。……まったく。こんなこと皆にバレたら、袋叩きにされちまうぜ」
クインは困り顔で私の背後に移動した。次の瞬間、首筋に強い衝撃が走る。
望んだ通り、私の視界は一瞬にして暗くなった。