本当に私は特別な存在だったようです(2/2)
「……っていうことがあったの」
「うわー、マジで!?」
「まさか、コンスタンツェが半妖精だったなんて……」
お父様が帰っていった後、私はクインとオリーを談話室に呼んで、先ほど聞かされたばかりの衝撃的な話を打ち明けた。
「スズランの姉ちゃん、ただ者じゃねえ気はしてたけどさ。そんな秘密があったのか……。フェアリー・マークもあるって本当か?」
「う、うん……」
本当はあんまり見せたくないんだけど、この流れで出さないのも不自然な気がして、私は長く伸びた左の前髪を耳にかける。二人の視線が目元のアザに注がれる感覚に、どこか居心地の悪さを覚えてしまった。
「間違いなくフェアリー・マークだな、これは」
「コンスタンツェ、君って本当に妖精だったんだね」
「……二人にもこういうのがあるの?」
私が尋ねると、オリーたちは服をまくりだした。
お父様の言った通りだった。クインは胸元、オリーは右肩に、それぞれ私の顔についているのと同じようなアザがある。やっぱり、これは妖精なら誰にでもあるものらしい。
「っていうことは、私も妖精なんだね……」
前髪を元通りに直し、亜麻色の髪の上からフェアリー・マークに触れる。
「つまり、私も空を飛んだりできるってこと?」
試しにソファーから立ち上がってぴょこんと跳び上がってみたけど、そのまま天井まで飛んでいったりはできなかった。クインが「いきなりは無理だろ」と言う。
「人間の赤ん坊だって、一人で立てるようになるまでには試行錯誤するんだろ? スズランの姉ちゃんは、もう長いこと妖精の力が封じられてたんだ。だから、感覚を取り戻すには練習が必要だと思うぜ」
「練習したら、私も妖精みたいになるの?」
「妖精みたいに、っていうより、君はもう妖精なんだよ」
オリーが訂正を入れる。私は「ああ、そうか……」ともう一度アザに触れた。自分の身に起きたことに実感が持てるのは、まだ先になりそうだ。
「これから忙しくなるぜ。スズランの姉ちゃんの妖精デビューが決まっちまったんだからよ。飛行訓練に魔法の練習、やることは山ほどある!」
「それなら、あれ、使ってみようか。春の庭に咲いてるオーニソガラム。『才能』って花言葉があるんだ。もしかしたら、コンスタンツェの妖精としての能力を引き出してくれるかもしれない」
「よし、俺が取ってきてやるよ!」
張り切って宣言し、クインが談話室を飛び出して行く。残された私はちょっと困惑気味だ。
「何ていうか……ごめんね、オリー」
「何が?」
「次は失われたオリーの左目を探す予定だったのに、こんなことになっちゃって。もちろん、フェアリー・アイ探しもするけど、そればっかりに時間を取るのは難しくなりそうだし……」
「気にしないで。僕はむしろ嬉しいよ。何だかコンスタンツェが身近になったみたいだから」
「……そう?」
オリーが気にしていないと分かり、ほっとする。同時に、そういう見方もあるのかと思った。
自分の血統の真実にはまだ戸惑うばかりだけど、確かにオリーと近しい存在になったというのは悪いことじゃないかもしれない。
そう思えば、今までコンプレックスでしかなかった左目のアザも、二人を結びつける象徴のように感じられ、心が少し軽くなる。
「お父様が言ってた。妖精が人間に混じって生活するのは大変なんだって。オリーもそう思ったことある?」
「どうかな? 僕は人間に育てられたけど、不自由を感じたことはないよ。その辺は人によるのかもね。人と暮らせる妖精もいれば、人間だけど同族と一緒にいるのが耐えられない者もいる……。コンスタンツェだって、王宮での生活には息苦しさを感じていたんだろう? 専横な元婚約者のせいで」
「……それもそうか」
オリーの言葉に納得する。
「確かにコンスタンツェに妖精の血が混じっていたことは嬉しいよ。でも、そうじゃなくたって、僕はコンスタンツェが好きだ。僕は種族の違いなんて気にしない。妖精だろうが人間だろうが、どっちだっていいんだよ。君と一緒にいたいんだ。コンスタンツェも、そう思ってくれてると嬉しいんだけど」
「もちろん! 私だって、オリーのこと大好きだよ!」
オリーの手を握る。私たちは熱っぽい視線を交わした。やっぱりオリーに目があってよかった。見つめ合うなんて、今まではしたくてもできなかったから。
種族の違いなんて気にしない、という言葉が頭の中で高らかに鳴り響いている。私はオリーとの幸福な未来を思い描き、恍惚となってしまった。
お父様とお母様は、種族の違いを超えて結ばれた。だったら、私に妖精の恋人ができたって、きっとお父様は反対しないに違いない。
そんな浮ついたことまで考えてしまい、恥ずかしくなる。
でも、いつかお父様にオリーとのことは話そう。それで、お母様のお墓にも報告に行くんだ。
その時はお母様に、「お母様からもらった妖精の力、ちゃんと使いこなせるようになったよ」とも言いたい。
「二人とも~! オーニソガラムの花、持ってきたぜ!」
お使いに行っていたクインが戻ってくる。
私は笑顔で「お帰りなさい」と出迎えた。




