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89 魔法青年は南へ向かう

よろしくお願いいたします。



アレンシー海洋国から船でナム共和国に到着して、休むことなくコーディは街道を東に移動した。

途中で人の目を気にしながら転移と飛行を繰り返してすぐマラコイデス王国へ入り、ハマメリス王国、ズマッリ王国を経由してヘテロピラス王国へ入った。ズマッリまでは転移でショートカットしながら、それぞれの国境で手続きをした。スピードについて後から何か言われたら、「飛行魔法を熟した結果」と適当にごまかす予定だ。

ヘテロピラス王国はズマッリ王国の南に位置していて、プラーテンスとも接している。そして隣国とはいえ、これまでのズマッリ王国同様、ほとんど国交がない。


ヘテロピラス王国は農業国で、低いところでは穀物を、山など高地では果物を生産している。

気候が安定しているほか、比較的温暖なので植物が育ちやすいのだ。また、なぜかここでしか育たない果物もあり、農作物の輸出で成り立つ国である。

農作物が育ちやすい気候という意味では隣のプラーテンスも似たようなものなので、無理に国交をする利点もないことから、周りに喧嘩を売ったあとでサックリと国交をやめたのだろう。ヘテロピラス王国としても、輸出する先はたくさんあるので、一国くらい国交が減ったところで問題はなかったようだ。



そうして一泊してからまた飛んでヘテロピラス王国も通過し、とうとう目的のコルニキュラータ首長国へ入国した。

コルニキュラータ首長国は、いわゆる連合国に近く、小さな国家を治める首長が複数いる。南国の性なのかゆったりした国で、工夫しなくても食べ物にも水にも困らない分、文化の発展が遅れがちである。

しかし、植物も育ちやすいために森が深く、比較的魔獣も出やすいので戦力がないわけではない。

首長たちはすべてが古い血筋であり、ロスシルディアナ帝国も一目置いている国だ。


コルニキュラータ首長国の中央から少し東にずれたあたりに、大陸から海にかけて広い火山地帯がある。その中に、複数の海底火山によってでき上がった島があった。かなり大きなその島をヴルカニコといい、農業と保養地で成り立っている場所だという。

そこにはまだいくつも活動中の火山があり、火口を見に行けるところもあるそうだ。


火山地帯のあたりを治めているのは、カロレ国である。

アレンシー海洋国は温暖という空気だったが、こちらは熱帯だ。

さすがに普通の長袖の服では暑いので、現地で服を調達した。



「あら、よう似合(にお)ぅてますよ!こちらには観光で来やはったんですか?」

いくつか服を見繕ってくれた女性店員が、にこやかに聞いた。イントネーションが独特だ。日差しが強いからか、こちらの人は全体的に日焼けした肌の人が多い。女性店員も、こんがりと焼けた肌に赤系の華やかな模様のワンピースを身に着けていた。

コーディが選んで着替えたのは比較的大人しい青系のシャツに軽い生地のズボンで、どことなく東南アジアを思い起こさせる雰囲気の服だ。

「はい、観光も少し。それと、禁足地になっている場所について知りたくて」


コーディがそう言うと、店員は首をかしげた。

「禁足地?あ、ローゾ山のことですかね?あそこは、いつ大噴火するかわからへんってずぅっと言われてるんですよ。だから、あの周辺には住宅も農地もあらへんのです」

「そうなんですね。まぁ、危険があって見られないなら仕方ないです。それより、ローゾ山がどういった場所かを知りたくて。僕、一応魔塔の研究者で、研究の一環で禁足地のことを調べているんです」

会話しながら支払い、少し多めにチップを渡したら、とてもにこやかに受け取ってくれた。


「へぇえ。そんなに若いのに、魔塔の研究者やなんてすごいですねぇ」

「ありがとうございます。僕の場合は、師匠に呼んでもらえたので。まだ自分の研究室を持つほどではないんですよ」

「いや、それでもすごいわぁ。うちの息子に爪の垢を飲ませたいくらいですよ。そうそう、色々調べるんやったら、中央通りのところにある資料館がええんちゃいますかね。あそこ、一応管理人みたいな人はいてるけど、誰でも入れますから。本の貸出とか買取はでけへんけど、誰でも自由に読めるんですよ」

それを聞いたコーディは、笑顔でお礼を言った。




中央通り、とは言うが、実のところその通り以外はすべて土を踏み固めた道なので、とてもわかりやすい。中央通りだけは、レンガのようなもので整えてあった。

教えてもらったとおりに進むと、中央通りの左右には様々な店があった。最初は食べ物屋や日用品などのカジュアルな店が多かったが、少しずつ上等な店が並びだした。どうやら、中央通りの奥へと進むごとに高級店が増えるらしい。その先には、宮殿がそびえていた。

人々はゆったりと歩いているが、そこここに兵士と見られる人たちが巡回している。剣を下げた兵士と魔法の杖を下げた魔法使いがセットで、町の人たちとも気軽にしゃべりながら見回りをしているようだ。


カジュアルな店が並ぶ中に、冒険者ギルドも見かけた。後で依頼などを確認しよう、と頭の中にメモしておいて、資料館を目指した。

たどり着いた資料館は、宮殿の敷地からほど近いところにあった。この様子だと、宮殿に勤める人たちもこの資料館を利用しているのかもしれない。

服屋の店員は『管理人』と言っていたが、見回りの魔法使いと同程度かそれ以上の実力と見られる人が受付に座っていた。


「すみません、資料を見たいのですが」

「はい、どうぞ。こちらにお名前と住居のある村の名前、外国の方やったら所属してはる国名をお願いいたします」

「わかりました」


ペンを受け取ったコーディは、名前を記入した後、所属のところには魔塔と書いた。多分これで合っているはずだ。

「書けました」

「はい、確認します。……!」

受付の人は、紙を確認して息を呑んだ。


その受付用紙の端には、小さな魔法陣が描かれていた。

簡単なものだが、要するに嘘発見器のような効果がある。覚え間違いや勘違いなど、心底思い込んでいたら効果はなさそうだったが、少なくともコーディの書いた情報は虚偽ではないと伝わったようだ。

「すんません、失礼しました。魔塔の研究者様は初めて来やはったもんで。えーっと、ご案内しましょか?」


「いえ、大丈夫です。あ、禁足地についてまとめている本の場所だけ教えてもらえると助かります」

「かしこまりました。禁足地ですね、それやったら二階に上がってもろて、まっすぐ進んでドン突きをきゅっと右に行ったあたりに火山地帯の本をまとめた棚があります。そこに数冊あったはずです」

どうやら動揺したらしい受付の人は、身振りを加えて教えてくれた。

「わかりました、ありがとうございます」

ぺこりと頭を下げたコーディに対し、それよりも深く頭を下げて応えてくれた。やはり、ここでも魔塔という権威は幅をきかせているらしい。


受付の人は二階に上がるコーディに視線を向けていたが、本に思いを馳せていたコーディは全く気にせずに足を進めた。



読了ありがとうございました。

続きます。

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