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75 魔法青年は他国へおつかいに

よろしくお願いいたします。



魔塔の図書室は魔法に関する蔵書が豊富だ。しかし、魔法の知識や魔法陣の詳細など技術的なものが多く、それ以外の本はあまりない。

超古代魔法王国の概要をまとめた本も数冊あったが、当時の魔法についてや使われていた文字の一部を紹介しているだけで、言葉の全容がわかるものはなかった。

またしても図書室で遭遇したギユメットや、たまたま村で会ったジェイク・マキューにも聞いてみたものの、さすがに超古代魔法王国の言語辞典は持っていないという返答であった。

図書室の目録とにらめっこして探してみたが、やはり取り寄せるしかないようだった。


その間に、ディケンズは少しずつ古代帝国文字で書かれた石碑の解析を進めていた。どうやら同じ古代帝国の文字でも、当時の宮廷で使われていたものは特殊な文法らしく苦戦していた。

初めの少しだけはどうにか訳すことができ、どうやら赤い岩についてのことを説明しているらしかった。

「古代帝国の時代にはすでに存在したらしいな。初めの数行を簡単に訳すと『超古代魔法王国の末裔が口伝で伝えていることを事実と認めるため、保存すべきと決めた』だ。装飾語が多すぎて誤魔化されている気分になるわい。それにしても、少々不穏じゃのぅ」


不穏だと言いつつ、ディケンズは楽しそうにメモを見ていた。

内容はともかく、古代帝国からのいわばメッセージだ。読み解くのは楽しいだろう。しかも、やはり超古代魔法王国が関わっているようである。

その流れのまま、コーディはディケンズに辞書の取り寄せを頼んだ。


「では、ハマメリス王国に辞書を依頼しよう。送ってもらうから、3ヶ月くらいかのぅ」

「えっ?そんなにかかりますか?」

思ったよりずっと待たされることに驚いたが、この世界にはどんな場所でも届けてくれる配達屋はないのだ。都市から都市への配達だとしても、毎日は運ばないので待つことになる。しかも、確実に届くかどうかはわからない。なにせ、魔獣という危険と背中合わせで移動そのものが危険なのだ。


「こちらの依頼は、メモを転移させるだけだからすぐに届くんじゃがの。転移の魔法陣を使えるような魔法使いは、ほとんどが貴族だ。当然、たかが配達なんぞ引き受けないからな」

確かに、貴族なら雑用など早々引き受けないだろう。平民なら、権力者に囲い込まれているはずだ。

「でしたら、もしかして自分で行ったほうが早いでしょうか」

コーディは考えながらそう言った。探す本屋なりなんなりがわかるなら、自分で行けば1日で終わる。


自分が転移する魔法に関しては、魔力を大量に使うし、悪用される危険もあるためまだ発表する予定はない。それに、あいまいなイメージで発現させると命に関わる事故につながりそうだ。

もしハマメリス王国へ本を探しに行くなら、行きは迷いの樹海から転移と飛行を組み合わせればいいだろう。帰りは、前回と同じく下宿先に転移する。

「そりゃまぁそうじゃろうな。ただ、魔塔の研究者は下にも置かん扱いをされるが、コーディはまだ知られておらんから面倒なことになりそうじゃ。なら、レルカンに言って、魔塔からの使者とわかるようにした方が楽か。用事を頼まれるかもしれんが、ついでに済ませられるなら引き受けてもいいだろう」



結果から言うと、レルカンはホリー村を通してハマメリス王国の窓口と書店へ話をつけてくれた。研究者が資料を受け取りに行くから用意してほしい、と。

コーディが欲しい辞書だけではなく、様々な研究室から希望があった本をまとめて引き取りに行く形だ。

どれだけ冊数があっても引き受けられるとはいえ、さすがに50冊超えは驚いた。知識欲が強いのはいいことだが、うまく使われた気がする。



そして一応余裕をもって、引き取りの前日にコーディは出発した。





まずは普通にホリー村から迷いの樹海へ出たコーディは、以前立ち寄ったハマメリス王国の辺境の都市へと転移した。

そこからは、地図で確認したハマメリス王国の王都へと飛行で向かう。


別名“湖の国”とも呼ばれるハマメリス王国は、その名のとおり多くの湖を保有する国である。大きな湖は4つ、小さなものは数百といわれている。海に面していない国なのに、水に困ることがないのはこの湖の多さ、ひいては降雨量によるらしい。

確かに、上空から見下ろすとそこここに湖があった。川も多く、その分洪水被害も少なくない。そのため、低い土地には畑を作っていて、人の住む場所は一定以上の高さのあるところだ。

そして、ハマメリスの王都は王国の中でも特に広い台地の上に広がっていた。


ハマメリス王都から数キロのところに、大きな川が流れている。街道は川をまたいでおり、馬車も通れる丈夫な石橋がかけられていた。

上空からそこを確認したコーディは、誰の目もないことを確認してから橋の下の影になったところへ転移した。

アイテムボックスから出した旅行用の鞄を背負って水筒代わりの革袋を腰に下げ、少し汚れたままにしておいたローブを取り出して着込んだら完了だ。服や靴は汚れてもいいものを身に着けてきたので、どこから見ても歩いてきた旅人のはずである。


できるだけ面倒を起こしたくないので、それっぽく装うことにしたのだ。

そして、橋の下で休憩していた風を装って堤防を歩いて上がり、何食わぬ顔をして街道を歩き始めた。

徒歩の旅人も珍しくないので、誰にも見咎められることなく王都へ向かうことができた。



「王都への入場料は銀貨5枚です。もし冒険者の方でしたら、ギルド証をお見せください。銀貨2枚になります。他国で発行されたものでも共通なので問題ありません」

用意していたハマメリス王国で使える銀貨を取り出そうとしたコーディは、そういえば冒険者ギルドでドッグタグのようなものをもらっていた、と思い出した。

そして、ポケットにあったかのような仕草で、アイテムボックスに放り込んだままになっていたギルド証を取り出した。


「これでいいですか?」

「おや、プラーテンス王国からとは珍しい。……はい、確かに銀貨2枚を受け取りました。行き先はわかりますか?」

コーディは銀貨を渡してギルド証をポケットにしまい、こくりと頷いた。


「はい、アレオン総合書店に。魔塔から話がいっているはずなので」

「そういえば、そのローブは魔塔の研究者の方でしたね!これは失礼いたしました。アレオン総合書店は、南の大通りをまっすぐ進んだら見える噴水広場に面したところにございます。大きな店舗なのですぐにおわかりでしょう。南の大通りは、ここから南へ通りを2本またいだ向こう側です」

「ありがとうございます、助かります。では」

「ようこそいらっしゃいました。良い滞在を」

コーディが魔塔の研究員とわかったとたん、関所の人の態度が丁寧なものに変わった。やはり、ハマメリスでも魔塔は権威ある存在らしい。



言われたように、関所から入っていくつかの通りを経て大通りへ出ると、まっすぐ先に噴水のある広場が見えた。

その広場の南側、直射日光が入口に当たりにくい場所に大きな建物があった。

建物に対して窓が少ないように見える。いずれも、本の保護のためだろう。そして入口にはガードマンが立っていて、入ってすぐのところには受付らしい場所が見えた。


魔法や魔法陣のおかげで製紙技術はかなり高度になっているので、本そのものはそこまで高価ではない。

しかし、アレオン総合書店が取り扱う本の中には宝石よりも高価なものが多数存在する。それこそ、古代帝国時代に書かれた本や、有名な書籍の数百年前の初版本などだ。

これらは表には置いていないが、国や研究者の要望に応じて適宜閲覧を許可しているらしい。一書店でありながら、博物館のような側面も担っている、大陸でも有名な本屋だ。



「すみません、魔塔から話が来ているはずなのですが。僕は、コーディ・タルコットです」

「はい、書簡をお持ちですか?」

魔塔を出る前に、ディケンズがレルカンから渡された書簡を預かった。これは2枚に破いたものがセットになっていて、合わせると特殊な魔法陣が反応してペアかどうかを判断できるものだ。もう片方は、発注の際に一緒に送ってあるのだという。

細かいところまで確認はしていないが、国同士のやりとりなどにも使われるものらしい。


その書簡を手渡すと、受付の男性は席を立ってすぐ後ろのドアから室内へ入っていった。そして数分で戻り、コーディを地下へと案内してくれた。

「普通の魔法書は3階と4階にございますが、特殊なものは地下に保管しています。今回は、かなりたくさんご注文いただきましたので、地下の個室にまとめて準備してございます」

「ありがとうございます」


丁寧な接客だが、わざとらしくないのが好感を持てる。それは受付やそのあたりに立っている店員にも言えることで、顧客の助けになるよう位置取りながらも邪魔にならない態度なのだ。きっと徹底的に教育されているのだろう。そういった態度も含めて、この書店が一流と呼ばれる所以と感じられた。

地下の廊下に降りてすぐ左の部屋に案内された。机に積み上げられた山は6つ。専門書ばかりなので、かなりのボリュームだ。

コーディは、持ってきたメモを取り出して確認することにした。



読了ありがとうございました。

続きます。

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