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66 魔法青年は疑惑を確信に変える

よろしくお願いいたします。



『異界への嚮導』についてはこれ以上は闇ギルドに任せ、今はコーディたちがすべきことを進めることにした。

まずは、魔獣を誘導する魔法陣の理論から実際に組み上げ、惹きつけるだけではなく思い通りに動かすものを考える。その上で、対抗策となる魔法陣を作るのだ。

今後も平和に研究し続けるために必要なことでもあるが、何より楽しい。


その合間に、資金繰りのために迷いの樹海で魔獣を狩ってきたり、スタンリーとチェルシーやヘクター、ブリタニーと手紙をやりとりしたり、放置していた論文をまとめたり。

特に、スタンリーとチェルシーはそろそろ本格的に結婚に向けて動き出しており、来年には結婚式を計画しているそうだ。少し前から二人ともガスコイン領に滞在しており、スタンリーは色々としごかれているとのこと。コーディと毎朝していた基礎訓練も続けているので、なかなか大変だと愚痴りつつも楽しそうな文面であった。

結婚式にはぜひ出席してほしいと書いてくれたので、もちろん快諾の返事を出しておいた。

もうそんな年齢なのだな、とコーディとしては感慨深い。彼らがしっかりと領地を運営するためにも、やはり不安の種は取り除いておきたい。


コーディは、すっかり温かな気持ちになりながら研究のギアを上げた。




闇ギルドに情報収集を依頼してから1週間。

その間に、魔獣を誘導する魔法陣の概要が見え、その対策も方向がわかってきた。この調子なら、数日のうちに対抗できる魔法陣もほぼできあがるだろう。

これまで、魔法陣の効果を魔法陣で消すといったことはあまり行われてこなかったので、それもまた論文としてまとめてもいいだろう。しかし、コーエン派を追い詰めるために作った魔法陣などの論文がまだ途中なのでこれも後回しである。



「こんばんは。いま大丈夫ですか?」

研究室の仮眠室に入り、遠隔通信の魔法陣を使って話しかけると、向こうからはガタン!と慌てて椅子から立ち上がったような音がしたが、すぐにギルド長の声が返ってきた。

『もちろんですよ。時間ぴったりですね』

なんとなく、彼が苦笑している雰囲気を感じた。


「移動が不要ですから。早速ですが、報告を伺ってもいいですか?」

『はい。ではまず、例の新興宗教に入り込んだ者からの報告を』

さすがに行動が早い。コーディは思わず「おぉ」と声をあげた。


ギルド長の報告をまとめると、今『異界への嚮導』の本体は40名ほどであり、元魔塔研究員たちもそこにいるのだという。かなりこじんまりした集団のようだ。

滞在しているのはプラーテンスにほど近いズマッリの辺境の町。

一般の人からは、フリーの魔法研究者たちといった風に見られているそうだ。実際、研究や実験を繰り返しているので間違ってはいない。


「大規模魔法を複数で使う魔法陣の改良……僕たちから見れば改悪ですか」

『えぇ、相手の同意なく強制的に魔力を取り立てるようですね。魔法陣の効果範囲内にいる人間の魔力を吸い上げるようになっているとか。その魔法陣と、魔獣を誘導する魔法陣を組み合わせる計画が進行中だそうです』

「……ろくでもないな」

つまり、プラーテンスで行った実験をもっと大規模にしようというわけなのだろう。


『それを使って、どこかの大きな街を襲う計画のようです。その街を蹂躙するのではなく、魔獣を誘導することで周りから孤立させて、住民たちの魔力を奪って更に大きな魔法陣を使うのが目的のようです』

「なるほど、それで異界へ行くための魔法陣なり何なりを稼働する魔力を人質から得ようというわけですね。王都みたいな場所なら、かなり大きな魔力を持つ貴族もたくさんいるでしょうし」

『そんなところでしょう。すでに魔獣誘導に関しての試験的な稼働は成功したと聞いたとか。また、タルコットさんの予想通り、丸い石に魔法陣を彫っているところを見たと報告を受けました。ただ、潜り込ませた者は魔法陣に詳しくないため何が描かれているのか全くわからなかったそうですが』


ただの疑惑だったものが、確信に変わった。

やはり、プラーテンスの王都近くの森で起こった妙なスタンピードは、彼らの仕業なのだろう。しかし、その魔法陣は世に出していい代物ではない。

報告からするに、あまり悠長にしていられない可能性がある。異界へ行くための魔法陣はまだ調整中だということらしいが、もし異界行きが詭弁で街や国の乗っ取りが主目的の場合、こちらの準備が間に合わないかもしれない。


「それで、乗っ取りの場所まではわかりませんか?」

『……どうやら、プラーテンスのどこからしいです。この国は魔法陣に詳しくありませんからね。魔法陣を駆使すれば勝てると踏んでいるようです。魔獣を誘導してパニックにさせ、ほかの攻撃の魔法陣を使って無力化させる計画だとか。ただ、時期や詳しい場所まではまだ』

「さすがに、入信してすぐの方がそこまで聞くと怪しまれるでしょう。そのお話だけでも十分貴重です。僕たちも対抗する魔法陣の完成を急ぎます」

そう言ったコーディに、ギルド長が一つ頼みごとをしてきた。


『もしかすると、急いで報告した方がいい場合もあるかもしれません。こちらからタルコットさんに声をかけることはできませんかね?』

確かに、向こうから連絡できれば便利だろう。しかし、こちらも決まった時間ではなく突然声をかけられても困ることがあるかもしれない。少し条件を決めて魔法陣を描けば、一対一の通話ならなんとかなるだろう。

「今すぐにはご用意できませんが、明日また同じ時間に連絡します。そのときに、こちらと会話できる魔法陣を作ってしまいますので」


そう言うと、ギルド長から息を呑む音が聞こえた。

『……さすがですね。そのスピード感が普通なのかはさておき、こちらとしてはありがたく受け取りますよ。魔法陣作成の費用は、依頼料から差し引きましょう』

「いえ、お金はいりませんよ。僕が必要なものですし」

『しかし、その魔法陣が本当に魔塔とプラーテンスの距離で当たり前に使えるのなら、国同士の情報のやりとりが全く変わってきます』


その緊張感の滲む声に、コーディも改めてハッとした。

鋼としての記憶から、いつでも通話できることはただ便利だと感じていたが、この世界では情報革命になるかもしれないのだ。広めるにしても隠すにしても、慎重にする必要がある。


「……そうですか。ではやはり、魔法陣のお代は受け取りません。その代わり、機密として扱ってください。そう遠くないうちに論文を書いて各国に技術提供しますので、先んじてテストしてもらう代わりだと思っていただければ」

たとえコーディが今隠しても、きっと誰かが同じようなことを考えて似たような魔法陣を作り出すだろう。秘密はどこかから漏れるものなのである。それなら、きちんと公開して広めてしまった方がいい。

ギルド長から、深いため息が聞こえた。

『わかりました。そういうことにしましょう』

魔獣誘導の対抗策も考えなくてはいけないが、まずは一対一で話せる魔法陣を作ってしまう。ギルド長とはそこで通話を切り、コーディは仮眠室から出た。


―― ついでだから、ちょっと通話に関するいくつかの魔法陣の実験にも付き合ってもらおうかのぅ。


うんうん、とコーディがいい笑顔で頷いているころ、ギルド長は謎の寒気に身を震わせていた。



読了ありがとうございました。

続きます。

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