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35 魔法少年は卒業論文に取り組む

よろしくお願いいたします。



スタンピードを乗り切った実戦訓練から数ヶ月。

コーディは、自分の研究室にスタンリーとヘクターを招いていた。



「ほら!これだよこれ!この腹筋だ!!」

ヘクターがシャツをまくりあげて腹を見せていた。

「うんうん、僕も似た感じだよ」

スタンリーは適当に受け流していた。


朝の訓練では、基礎訓練に加えて簡単な体術も始めて二月以上経っており、2人によると学園のダンジョンに久しぶりに潜ってみたらものすごく簡単に攻略できてしまったらしい。


「自分が思った通り動けるっていうか、避けるのがうまくなっていたっていう感じかな」

「魔法もなんか、狙ったところにビタッと当たる感じだった」

「少しくらい走っても疲れないし」

「完全にグラスタイガーを翻弄したなぁ」

ヘクターとスタンリーは、思い出しながら満足そうにそう言った。


「じゃあ、魔力量はどうかな?」

「確実に増えてる。前ならグラスタイガーは一頭倒せばもう魔力切れ寸前だったのに、今は二頭倒してもちょっと余裕がある」

そう答えたのは、ヘクターだ。

「僕も増えたと思うよ。グラスタイガーはあまり相性が良くないからフレイムウォルフで試したけど、前なら三頭で終わったのに、昨日は五頭倒せたから」

にこにこと言ったのはスタンリー。スタンリーは水魔法を使えるので、フレイムウォルフの方が狩りやすいのだろう。


うんうん、と頷いてコーディも笑顔になった。

「やっぱり。体術の訓練を始めてから、魔力が随分増えたんだね」

「それまでは、あんまり変わってなかった気がするから多分そうだと思う」

「だな。ちょっと集中して動くだけなのに、なんでなんだろうなぁ。そのわりに、剣術科を履修してる奴らは別に魔力量は変わってないみたいだから、体を動かせばいいってもんでもないんだろ?」


コーディが2人に教えている体術は、神仙武術の基礎だ。

神仙武術において常に気を配ることは、体幹と呼吸法、そして『気』を体に巡らせることだ。


今世には仙術で使う『気』というものが存在しない代わり、魔力がある。

だから、魔力を体に巡らせるイメージをしながら武術の動きをなぞるように教えた。

はじめは、魔力そのものを体に留めることすら難しかったようだが、イメージしながら呼吸を整えれば、2人は少しずつできるようになっていった。


「多分、剣術科とかでは魔力を巡らせていないんだよ」

「なるほど……じゃあ、そこが肝なんだな」

「ただの魔力を留めるのが、一番難しかったなぁ」

コーディの考えに、2人はそれぞれ感想を述べた。これらも、きちんとまとめて論文にしているのだ。


今回2人を呼んだのは、魔力量の変化を聞くことも一つの理由だったが、本題はもう一つであった。


「ねぇスタン、ヘクター。二人とも、今の使える以外の属性の魔法も使いたくない?」


コーディの言葉に、2人は目をむいた。

「えっ!使えるようになるの?」

「そりゃあ使いたいに決まってるよな」

「なら、こっちもやってみない?多分、魔力を留めることができるようになったなら、理論的にはできると思うんだよね」


ばさり、と机に置いたのは一つの論文の原稿だ。

「なになに……属性魔法の根幹と個人の魔法の確立について?」

「えっと、序章。魔法が5属性であることは常識とされてきた。使える属性は個人の先天的能力によるものと考えられてきたが、本論文では後天的に別属性を操作できることを証明したい。各属性については以下の通り……」


論文はすでに出来上がっている。

簡単にまとめると、魔力そのものを操作することさえできれば、属性はあとからつけられるということだ。

というより、そもそもコーディはそういった使い方しかできていない。スタンリーやヘクターは、もっと感覚的・直接的に魔法を展開していると気づいたのだ。

だから、魔力そのものを属性に変換せずに留めるのが難しかったのだ。しかし、意識的に魔法に変換せず扱えるようになれば、得意不得意こそあれどどの属性魔法も使えるだろうという理論だ。


彼らの訓練の中で気づいたことなので、ぜひこちらも2人に協力してもらい、実験もしておきたいと考えていた。

コーディでは、直接的な魔法の使い方と、魔力を動かして属性を選ぶ使い方の違いがわからない。

両方できる彼らの協力なくしては書けない。文章にするのはコーディでも、具体的な説明は2人にしかできないのだ。



しばらく読んで、顔を上げたヘクターとスタンリーは、対照的な表情であった。

スタンリーはものすごく嬉しそうな、ヘクターはハイライトの消えた目だ。


「すっごい面白そう!僕たちはもう魔力そのものをまとえるし動かせるから、そこに思い通りの属性を乗せることができるはず、ってことだよね」

うきうきと言ったのはスタンリーだ。

「論文めっちゃ書けてる。もうできあがってる。俺、魔法陣の論文まだ全然進んでないんだ……コゥ、ちょっと手伝ってくれない?」

遠い目で言うのはヘクター。得意の魔法陣に関することを卒論にしたものの、どうやら進んでいないらしい。


「うーん、そうだなぁ。こっちの論文に協力してもらってるし、こっちの理論は提出終わってるし、手伝うよ。魔法陣にも興味あるから」

「マジ?!助かる!!理論は一応できてるんだけどさ、文章にするのが全然できないんだよ。変な文章になってよくわからなくなる」

「ヘクター、手伝いだけだよ?コゥに書かせちゃだめだからね?」

スタンリーの言葉に、ヘクターは笑ってごまかした。コーディも思わず苦笑した。


「どう書いたらいいのか教えるし、書いたのを読んでどう直したらいいか言うから。ちょっとコツがいるだけだよ。あと、スタンは何か手伝うことってない?」

「今のところはないよ。魔力の器を大きくする方の論文だって、僕は協力したけど書いてないのに共著にしてもらってるから、それだけで十分。僕個人の研究はまぁそれなりに終わりが見えてきてるから問題もないし」

スタンリーはコツコツ積み重ねることも苦にならないタイプだ。朝の訓練も、何だかんだ言いつつこなしていた。ヘクターは、明確な目標があれば頑張れるタイプのようだ。


「そっか。じゃあ、手伝うことができたら言って。内容にもよるけど、できるだけ力になるから」

「ありがとう。それなら、今は貸しってことで」

「うん。貸しで」

ニコニコ言い合うコーディとスタンリーを前にして、ヘクターは胡乱な目を向けた。


「どうせ俺は真面目じゃないよっ」

「得意不得意はあるから」

「そうそう、筋トレなんかはヘクターの方が上達早かったもんね」

「だよな?俺は腹筋をもっと育てるぜ」


ころりと機嫌を直したヘクターを見て、スタンリーとコーディは肩をすくめて目を見合わせた。





そして魔力の器に関する論文を完成させた頃、コーディに一通の豪華な招待状が届いた。


「王城から?……わし、何かしたかのぅ」



読了ありがとうございました。

続きます。

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