214 魔法青年は旅に出る
よろしくお願いいたします。
コーディとカーヤが旅に出ることについては、すんなりと話が通った。
魔塔でじっくり研究することも大切だが、フィールドワークも重要である、と師であるディケンズが認めてくれたからだ。
もちろん、魔法を駆使すればこのフロース大陸の端にいたところで数日で帰ってこれる、という実績もあってのことだ。
本当のところは転移すればすぐにでも戻れるのだが、空間を飛び越えるなどという魔法を公にするつもりはない。
空を飛ぶだけでも充分脅威なのだ。
なお、カーヤは怪我の治療に関するオリジナルの魔法を少しずつ使えるようになっており、その理論を発表する形で魔塔の准研究員という地位を貰った。
正式な研究員でないのは、彼女の目的が研究ではないからだ。
「わたくしは、研究員ではなく魔法医師になりたいのです」とは本人の談である。
コーディもそれを応援する形で、魔塔とのつながりを作った。
少なくとも、魔塔所属であれば、無理やり国が抱え込むようなことはできない。
ほとんどの国が、六魔駕獣やその後の魔力分布の変化に伴う魔法の変貌への対処に困っていたので、当面魔塔には頭が上がらないのだ。
安全面と実績面の両方から考えた結果である。
最初に訪れたのは、プラーテンス王国だ。
実のところ、この国が一番魔塔と対等かもしれない。
「よく来た、タルコット准騎士爵、准騎士爵夫人。楽にせよ」
二人は、王城に招待されていた。
久々の里帰りとはいえ、特に用事もないのでさらっと友人のところにだけ寄ろうと思っていたら、王城から手紙が来たのである。
定期的に新しい魔法陣や魔道具を提供していたとはいえ、コーディは国に所属する貴族として報酬を受け取っている立場なので、さすがに無下にはできない。
コーディの隣で美しいカーテシーを披露するカーヤに、謁見室に集まった貴族たちからは感嘆のため息が上がった。
おかげで、記憶があやふやなコーディの礼も誤魔化されているに違いない。
「魔塔での功績を鑑みて、タルコット准騎士爵に報奨金を与える。また、貴殿が今後大陸中を移動して研究するとも聞いているため、プラーテンス王国からの特別通行許可証を授与する」
謁見室でそう読み上げたのは、いつかの宰相である。
「国の誉れである。夫人も良き魔法使いであると聞く。ともに励むがよい」
国王から、直々に言葉を賜った。
「ありがたき幸せ」
深く礼をすると、カーヤもしっかりと腰を落としていた。
前々から何度か打診はあったのだが、爵位を上げるのは勘弁してもらった。
こちらの希望を無視するつもりはないようで、それなら、と出してくれた報奨が大きな一戸建てを王都に構えられるだけの一時金と、大陸のすべての国に出入りできる通行許可証の授与であった。
どうやら、王弟であるルウェリン公爵がコーディのことを覚えていて、あれこれと動いてくれたようであった。
とてもありがたかったので、ルウェリン公爵には個人的にアクセサリーに加工した通信の魔道具を一セット届けておいた。
王国主催のパーティにもきちんと顔を出し、魔塔に関する話もした。
プラーテンス王国でも強力な魔法を使える人がさらに増え、魔法学園を中心として研究が盛んになっているらしい。
ズマッリ王国との交流によって、魔法陣の知識も増えたそうだ。
聞いた限りでは、母国の『修羅化』が進行しているようだ。
「僕は今後、新しい魔法の開発に力を入れたいと考えています。魔塔としても、魔法陣の画期的な改善と同じくらい歓迎すると思います」
これまでの魔塔ではひたすら魔法陣に取り組んでいたが、最近は魔獣関連や新しい魔法など、研究範囲を広げているのだ。
また、コーディだけではなく、六魔駕獣への対処のときに共闘した冒険者たちのこともあって、魔塔としてはプラーテンス王国からの研究者を増やしたいようであった。
とはいえ、それも今いる研究者との相性もあってのことだ。
明言はできないので、ふんわりと伝えた。
しかしそこは裏を読むことに長けた貴族なので、しっかり受け取ってくれたらしい。
「素晴らしいですな。国立魔法研究所でも、新たな魔法に関しての研究を進めているのですよ。また近々、面白いものが発表されると聞いています」
「それは楽しみですね」
魔塔も色々と落ち着いてきたところなので、きっとそろそろ新しい研究者の呼び寄せを再開するだろう。
かなり癖はあるが、この国で先端をいく人なら迷いの樹海も魔塔の入り口もなんとかするに違いない。
王都からガスコイン男爵領までは、飛行魔法で飛んでみた。
カーヤも楽しそうだったが、さすがに数時間続けて飛んだのは初めてなので疲れたようであった。
「大丈夫ですか?ここからはゆっくり歩きましょう」
「はい。魔力にはまだ余裕があるのですが……。同じ魔法を使い続けたのがしんどくて」
へにょりと眉を下げたカーヤは、ぐい、と伸びをした。
確かに、何時間も魔法を使い続けるなどめったにあることではない。
「辛かったら言ってください。僕が連れて行きますので」
「え?」
「少し浮かせれば抱き上げても何の支障もありませんからね」
コーディが抱き上げるしぐさをして見せると、一瞬きょとんとしたカーヤは笑顔で首を振った。
「いえ、今はどちらかというと体を動かしたいところです。じっと座っていたような疲れ方ですから、なんなら少し走ってもいいくらいです」
走るという選択が出るあたり、毎朝の訓練が身についている証拠である。
プラーテンス王国へ向かう途中で、冒険者登録も済ませてあった。
冒険者としてのカーヤの初討伐はファイヤウォルフである。
ここ最近、ちょっとやりすぎたかな、と思わないでもないコーディであったが、カーヤ本人は楽しんでいるようなので考えるのをやめた。
治療魔法も、人体の仕組みを教えることでさらに理解を深めているようだし、多分間違ってはいない。
のんびりと歩いていると、ガスコイン邸が見えてきた。
そして向こうも気がついたのだろう、誰かが馬に乗ってやってきた。
「コゥ!久しぶり!」
単騎で駆けてきたのは、スタンリーであった。
「スタン、久しぶり。元気そうだね」
「そっちこそ」
パッと馬から下りたスタンリーは、コーディに手を差し出した。
がっしりと握手をしたところで、スタンリーがちらりとカーヤを見た。
「スタン、こちらが僕の妻のカーヤ。カーヤ、スタンリーは僕の魔法学園からの友人で、ガスコイン次期男爵の夫なんだ」
「まあ。では、爵位を継がれる女性というのが、次期ガスコイン男爵様ですね?わたくし、カーヤ・タルコットと申します。以後よろしくお願いいたします」
にっこりと微笑んだカーヤは、スカートの下にズボンを履くという旅姿ながら、優雅なカーテシーを披露した。
「これはご丁寧に。スタンリー・ガスコインです。妻はいま悪阻がひどくて、お迎えに来られず申し訳ない」
スタンリーも、丁寧な礼で答えた。
「チェルシーさん、悪阻の様子はどうなの?」
手紙で聞いてはいたが、どうやら出産目前にもかかわらず、悪阻が続いているらしい。
「それが、多少は果物を食べられるようになったんだけど、何度も戻してしまって。見ていても辛いくらいなんだ」
スタンリーは肩を落とした。
「心配だね。出産すれば落ち着くだろうけど、ずっと続くとさすがに」
「うん。医師は大丈夫だって言うし、チェルシーも何とかなるって言ってるけど」
スタンリーの肩に手を置いたコーディは、カーヤを見た。
「カーヤ、少し診てみましょうか」
「はい。ただ、悪阻は病気とは少し違うと思うのですが」
悪阻の根本にある妊娠は病気ではないので、その考えも間違ってはいない。
「そうですね、病気やケガとは違います。ですが、戻してしまう原因がどこかにあります」
「なるほど……。気分が悪くなって吐き戻すなら、馬車酔いと似ている可能性があるかもしれませんね」
「治せるのか?」
スタンリーはゆっくりと顔を上げた。
「治すというか、症状を抑えることはできるかもしれない。ただ、診てみないとわからないのは確かだね」
「頼む!子どもはもちろん大切だけど、チェルシーがいてこその子どもなんだ」
最悪のパターンも考えていたのだろう。
コーディは、安心させるようにぽんぽんとスタンリーの背を叩いた。
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